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4.出会い

すみません、何度も書き直していたら、0時を回ってしまいました……。


「採取と狩猟。うん、縄文人だこれ。まだ狩りはしてないけど」


謎の赤い木の実をつまみ食いしたり、よく分からないキノコの前でO・リングやダウジングをしながら少しずつ移動していた美子は、ぽつりと呟いた。


「というか、今は暖かいから夏前かと思うけど。もし日本と同じで十一月だっていうなら、そろそろ食糧集めも難しくなるよね。このままじゃ、じり貧……いい加減、早く誰かと接触しないと――ん?」


ぶつぶつと考え込んでいた美子だったが、ふと何かに気付いて口を閉ざす。意識の網が美子を中心に全方位へと張り巡らされ、やがて一つの気配にたどり着いた。空気を揺るがすその小さな生命体は、研ぎ澄まされた五感―ー視・聴・嗅覚等が捉えるよりも早く、美子にその存在を知覚させる。


美子が息を詰めて道の先を注視していると、近くの木立から茂みを掻き分けて、小さな人影がひょこり、と顔を覗かせた。日本人にしては色白で、やや淡い茶髪の少女である。小学校低学年くらいだろうか。

彼女は美子とばっちり視線が合っているのに気付くと、円らなライトブラウンの瞳を大きく見開いて凍らせた。


『くろいめと、くろいかみのけ……』


子供特有の拙く高い声が、美子の鼓膜をふるわせる。よそ者を警戒しているのがありありと伝わり、元より年少者が少し苦手な美子は途方に暮れて眉尻を下げた。


(――ああ、拒絶の色だ)


美子と目が合うや否や、即座に少女が全身の色――「生物が放つ心魂の光輝オーラ」をコンクリート色に塗り固めたのがえて、美子は落胆した。


――そう。美子にはオーラが視える。その時、その人がどんな気持ちになっているのか。その人が生来どのような性格の持ち主であるのか。彼らが身の内から発する光の状態で、分かってしまうのだ。


(――だけど、なんか久しぶりに自分以外の人の声を耳にした気がする)


同時にそんな考えが浮かんで、悲しみ以上に喜びと安堵が美子の表情を泣き笑いのように綻ばせる。それでようやく美子は、自分の顔もこの少女と同じく強張っていたことに気付いたのだった。


(そうだ……目の前にいる人は、自分を映す鏡だって言うもんね。私、こんな小さな子に、何て顔を向けてたんだろう)


美子が自省した途端、少女も何かを感じ取ったのか、小首を傾げると目に見えて怯えを解いていった。

そして美子は少女がオレンジ色のオーラを纏ったのを視て、今度こそ自然に微笑むことができた。少女が美子に歩み寄る気持ちを作ってくれたことが、分かったから。


「えっと……、こんにちは。というかもう、こんばんは、かな?」


美子が会釈すると、少女も一瞬だけ戸惑った素振りをしたが、


『はじめまして』


と、小さく頷き返した。それから再度、困惑したように首を捻ると、


『くろい、けど、まぞくじゃ、ない……?』


そんなことを呟いたのだった。


可愛らしい容貌で不可解なことを言われた美子だったが、それより気になる点が二つある。

まずは、この世界には「まぞく」なる者がいるらしいこと。少女は美子の黒目黒髪を見て早々、警戒心を抱いたようだった。おそらく「まぞく」とは、「魔族」と記すのであろう。


ファンタジーで「魔族」といえば、大抵の場合、人類の敵であることが多い。

だというのに、少女の言い様では、美子でなくてもほとんどの日本人であれば、その「魔族」とやらに間違えられる可能性がある。これは注意しておくべき案件だろう。


もう一つは、少女の発した言語についてであった。

美子の耳には確かに日本語として認識されているのに、少女が言葉を話すと、頭に鈍く霞がかかっているような錯覚に陥るのだ。それがどうも引っ掛かっていたのだが……少女の口許をよく観察してみて、美子は一つの仮説を立てた。

どうやら少女の放つ言語は、美子が認識できる言語――日本語に変換されているのではないか、と。


(あの子の唇の動きと、聴いてるフレーズが合ってない気がする。自動翻訳されてるみたいな? ――ああ、これも異世界転移モノでよくある設定だっけ)


自分がライトノベルにありがちな転移に巻き込まれたかもしれないとは、ここに飛ばされた初期から疑っていた美子ではあるが。


(まじでか!)


思わず荷物を放り出して頭を抱え込み、うずくまってしまったのは仕方ないことかもしれない。

また、このとき美子の腕時計の針が、振り子さんの言う通り「丑寅」――「安全に寝泊まりできる場所」を目指して進み出してから、きっかり十五分経過していたことにも気づいていない美子であった。



――数分後。

少女が茂みから姿を現して、『おねえちゃん、おなかいたいの?』などと心配してくれたお陰で、ようやく美子は復活していた。今は少女に先導されて、彼女が暮らす村へと二人で向かっているところである。


「ごめんねユリエッタちゃん。本当にいいの? おうちの人に叱られたりしない?」


A4サイズほどの大きさの木皮製鞄に、例の赤い木の実を摘み入れながら数歩先を行っていた少女――ユリエッタは、やわらかそうなセミロングの茶髪をふわりと躍らせて、美子に振り返ると頷いた。白い足首までを隠す、ベージュのワンピースドレスと一緒に白いエプロンもひるがえる。


『だいじょうぶです。だって、ミコさん、ほんとうにこまってたですよね。それに――』


ユリエッタは拙い敬語に時折舌をもつれさせながらも、しっかりと美子の双眸を見据えて言い放った。


『ミコさんは、ひとりぼっちで、かなしくて、なきそうでした』


美子はしばし絶句した。


『わたしも、おんなじだったから。でも、これからたくさん、たのしくすれば、かなしいひまも、なくなるよ』


ユリエッタは花が咲くようにして微笑わらう。

何という大人びた子供だろうか。少し前に自己紹介をし合った時、彼女は八歳だと言っていた。


『――って、おばあちゃんがいってました』


美子が何と応じようか、目を白黒させていると、悪戯が成功したと言わんばかりに、ユリエッタはぺろりと小さく舌を出してみせる。


『でも、わたしもそう、おもうんです。おとうさんと、おかあさんはいないけど、おばあちゃんがいてくれて、さみしくないから』


「……え?」


『だから、こんどはわたしが、ミコさんといてあげます。ミコさんが、かなしくなくなるまで、ずっと!』


十六歳の美子が、まだ自分の半分しか生きていないユリエッタに慰められている。滑稽だ。でも、なんて強くて、あたたかい輝きだろう。

ユリエッタの本心――全身を一際大きな紫色のオーラが包み、爆発するように周囲に拡がるのを視て。美子はそんな感想を抱いた。


『さあ、ミコさん。もうすこしで、むらにつきますよ! ひが、しずむまえにつかないと、おばあちゃんが、しんぱいしちゃう』


そこからは、二人ともお喋りをやめて、村へと急いだ。

かけっこをしながら帰っていく、本物の姉妹のように。

今回もお付き合いくださって、本当にありがとうございます。


今後は週一回、月曜日の更新を基本に投稿予定です。


よろしければ、これからもどうぞお付き合いくださいませ。


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