第95話 双子
やったつもり。
頑張ったつもり。
必死でやっていたつもり。
しかし結局、それは“つもり”なだけで、なんの結果も生まない。
冴香さんに近衛流を指導してもらい、まだ何日かしか経っていないが、私の体は既に悲鳴をあげていた。
全身が、筋肉痛で動かない。
それでも稽古は続いていたという時、大阪に帰って事件は起きていた。
鳳君が何かを諦めたかのように、私たちに言う。
「お前らは帰れ…。阿部、杉田、お前らもだ。」
「うるせぇ!俺たちは残る!」
あの場で私も、そう言えたらどれだけ良かっただろうか。
「…分かった、ただし女子組は頼むから即座に弾の家へ帰ってくれ、一歩も外へ出るなよ!」
怖いくらいに、しかしそれは彼の覚悟の表れだったのだろう。
「冴香!」
撤退を始めた私たちに、唐突にそう叫び声が聞こえる。
「……今まで、ありがとう。」
それを聞き、冴香さんはさっと振り返り、走って撤退を始めた。
これが動く最後の電車だろうか、というその一本に乗り込み、帰路に着いた時、冴香さんは声を出して泣いていた。
理由は私でもわかる。
きっと私も経験したことのある、“あの”気持ちに違いない。
と、そこへ一本の電話が鳴る。
冴香さんは涙を拭き取り、平生を装い、京都の家へ向かうと電車を降りてタクシーに乗り込んだ。
あまりにも展開が早過ぎてまだ何も飲み込めていないが、ドタバタとしているうちに私たちは団の家に着き、中へ入った。
家の中では皆が溜息をつき、叔母さんがテレビをつけた。
あぁ、彼はどこまで平和に見放された男なのだろうか。
私は、いつまで温室で守られる立場なのだろうか。
「どうなってんだ、これ…。」
瓦礫の上に降り立った俺はその光景を目にして唖然とする。
「おい!鳳!!」
鳳は、ピクリとも動かない。
白虎も阿部も杉田も見つけたが、同様だった。
「お前がやったのか……、白間瞬!」
「お前が黒間弾か…。」
「黒間!」
声のした方を見ると、そこには交戦中の青神さん姿があった。
青眼相手に、素手で相手しているらしい。
やっぱあの人は、人間ではない。
「事情はどうせ掴んで来てるんだろ!だったらやれ、黒間!こっちは俺に任せておけばいい!」
「はい!」
ぐおぉぉぉぉぉ!!!
一気に魔眼を最後まで高めた。
しかしそれは相手も同様だった。
「お前、自分が騙されてんのは分かってんのか?」
「貴様に耳を貸すだけ無駄だ。」
聞く耳なんて持たないか。
「大和はお前を唆しているだけだぞ?」
「そう言って、動揺したところにつけ込むような卑劣な奴だと、既に聞いている。」
と、瞬間で俺の前まで現れた彼女は俺に向かって火を纏った拳を振り下ろす。
「火拳って、どこで習うんだよ!」
クローンの怖さに驚きつつも、俺もそれに火拳で対応した。
拳はぶつかり合い、そこを核に大きな爆発が起こる。
なるほど、白髪は覚醒という線で間違いなさそうだ。
…強すぎる、火の威力も、拳の力も、俺を上回っていた。
「魔弾!!」
バチバチと音の鳴る紫の小さな球は、彼女へ向かう。
怯め!
が、彼女はまるで投げられた小石のようにそれを扱い、弾いた。
「いや、チートかって…!」
近く奴の拳を腹部にねじ込ませ、その手を掴んでさらにこちらへ引き、ぐらついた頭へヘッドバッド。
そしてすぐに距離を取る。
鳳の容体は分からないが、少なくとも奴をここまでする奴が、強くないわけがないから、慎重に、この惨状を意識して昂らぬよう、冷静に、対峙する。
「なるほど…黒間弾、さすがだな。」
「争う理由はないんだぞ?なぜ俺に向かってくる。」
「戦いでしか物を言えないタチでな、いや、お前も同じだろ?」
目に映る魔眼の禍々しさは、かつて怒りに身を任せて界を殺した時のようだった。
「なら立てなくなるくらいお前をボコったら、とりあえずは俺の話を聞くか?」
「その前に私はお前を殺すがな、弾。私は大和さんの、能力をこの世から消すという理念に賛同している。彼が能力者がはびこるこの学園を壊し、さらに学園長である彼の父と共にこの国を変え、平和がはびこる世界にする。もう誰も、死ななくていい世界に。」
「黒間大三郎が生きていてもか?」
「…話し過ぎたな、来い、黒間弾。私の母の死は、平和の犠牲である。そうする為に、私は戦う!」
本末転倒だよ馬鹿やろう!
「本気になれないなら…。」
すっと手を伸ばし、彼女は鳳に向かって人差し指を向ける。
「止めろ!!!」
庇おうとするが、間に合うはずもない。
奴の手から放たれた魔弾は鳳の足を貫通したが、反応がない。
「…もう死んでるのか?くだらない、ただの焼き鳥だな、力しか持たない、平和の侵略者め…、」
ごめんなさい、青神さん。
俺はどうやら理性を保てそうにない。
「そうだ、来いよ、黒間弾!」
「ウォォォォオォオオォオオォオオォオオォオオ!!!!!!!!」
肉が剥がれるほどのオーラを内側から発し、気づけば奴の瞳に映る俺の髪は、白く染まっていた。
鳳の死も、平和もクソもない。
「「ぶっ殺してやる!!!!」」
叫び合い、ぶつかった拳から生まれた爆発は、先刻の比ではなかった。




