第91話 詐欺
大阪に着いた俺たちは、自らの目を疑った。
「何だよ、これ。」
明王院が、半壊していた。
ふと、背後に誰かの気配を感じ、はっと振り返る。
「…お前が鳳か?」
背の高い、細身だが覇気のある、短髪の男が背後には立っていた。
「…あぁ…。」
刹那、頭部に鈍痛を感じる。
「はい、だろうが、ったく。」
周りを見て、阿部や杉田がビクビクしていることから推測する。
「…貴方が…2代目ですか?」
「あぁ、俺が2代目明王、青神海良だ。」
なるほど、弾が恐れるだけの事はある。
威圧感が半端じゃない。
「…失礼しました。ところで貴方はなぜここに?」
「てめーら現明王どもがカスだからだよ。この現状見えねぇのか?」
廃墟となった明王院学園。
夏休みだから人的被害は出ていないらしいが、酷い有様だった。
「…宣戦布告だよ、種島が殺された事もそうだが。」
ため息交じりに吐かれた言葉に恐怖を覚える。
「黒間は何処だ?」
「奴はまだ長崎に…。」
「そうか!それならまだ呼ぶな。この現状を奴に伝えるな、ここは俺たちだけでどうにかするぞ。」
答える有無もなく、いや現状も何が何だか分からず、俺は頷いた。
「いけるな!阿部、杉田!それと…白虎だったか、期待しているぞ!」
女子達に帰るよう指示を出し、俺たちは走り出した青神さんの後を追った。
「…どれだけやばいか気になるか?」
「はい。」
現状の説明が欲しい。
この焦り具合だと、かなりヤバそうだから。
「…初代明王、中田大和とお前らが追っている白間瞬が手を組んだ。…河元瞬をこちらへ招いたのは正解だったな。これだけ言えば、賢いお前なら分かるか?」
あぁ。
まずいことになったぞ、弾。
お前とはどうやら、戦えそうはない。
これまでの人生、青春というものに一切縁がなかった。
物心ついた頃には母と2人きりで、父は死んでしまったのよ、と。
金銭的な余裕もなく、たまに訪れる誰かから逃げるような生活を送っているうちに、この地へ辿り着いた。
白間瞬。
これが私の名だ。
母は誰かと過度に干渉するのを避けなさいと言うから、私はずっと1人でいた。
暗くておとなしい、クラスの端でいるかいないかも分からないような。
母からの指南で前髪を伸ばし、顔を隠していた。
目は良かったから、困る事はなかった。
そう、何故か目は抜群に良かったのだ。
中学に入り、私はあるニュースを目にする。
“黒間弾、忌まわしき黒間一族を滅ぼす”
“鳳一強時代突入か?”
“4代目明王、英雄となる”
黒間、とは。
名前が似ているねと母に言った時の母の顔を忘れられない。
何かに怯えるような、そして何かを諦めたような。
平和が訪れるという世間とのギャップに、恐ろしさを感じた。
そして母から一言発せられる。
「逃げましょう、瞬。貴方を奴らの手に渡らせやさせないわ!」
そう言って私の手を掴んで走り出した母は、たった一瞬の銃声とともに倒れた。
「お母さん、お母さん?お母さん!お母さん!!」
何度叫んでも、母は動かない。
口元が少し動き、形を確認する。
“逃げるような人生を選ばせてしまってごめんなさい。でもね瞬、貴方は絶対に幸せになれるわ、黒間弾になら、それが出来る”
結局そのまま母は他界した。
悲しみと母を殺した奴への怒りで、私はおかしくなったのか、私は死ぬほど目が痛くなり、気付いた時には周りが荒廃していた。
幾人かが倒れ、1人の男が拍手をしている。
笑顔が鼻に付く、切り揃えられた髪をした、
いやに奇妙な男だった。
「あぁ、鏡を見てみるかい?」
そう言って男は近づき、私の顔を落ちていた割れた鏡で写した。
「…誰、これ。」
「君だよ、瞬ちゃん。」
そこには黄金に髪色が輝き、また真っ黒な眼に金のリングのような瞳が映し出された眼があった。
「正直、ここまで覚醒するとは思っていなかったけど、僕と一緒に来ないかい?君のお母さんを殺した奴に復讐させてあげるよ。」
「お母さんは、私に幸せになれと言った。黒間弾ならそれが出来ると。今は黒間弾に会わなくては。」
「君のお母さんが亡くなった理由が、黒間弾だとしてもかい?」
何を言っているのか、全く分からなかった。
だが、分かっていたような気がしていた。
「…黒間弾のことを知らないなら教えてあげるよ。」
そう言って彼は黒間弾について語り始めた。
彼の今までの人生を、一切漏れなく。
そしてこう付け足した。
「…そして黒間弾は今日、一族を滅ぼした、明王なんてくだらない役職について、だ。その事が、本物の大三郎の気に触れ、君のお母さんは殺された。くだらない偽善のために。」
一度に色々ありすぎて、頭がついて来ない。
「まぁ、僕について来なよ、どうせ行くあても無いんだろう?数年は海外暮らしになるかも知れないけど、黒間弾を明王から解放させる僕たちの仲間に引き入れて、本当の正義を作らないか?」
母の遺言であった、黒間弾の名前がこびり付いている。
黒間弾に会えば、何かわかるかもしれない。
そう思って私はその男についていった。
その間、彼は性懲りもなく様々な事件を起こしていた。
私はその男の家に半ば軟禁されていた。
「君の存在がバレれば、僕は君のお母さんの二の舞になるからね。」
結局、私たちはロサンゼルスで今日までを過ごした。
いや、彼はほぼここには居なかったが。
黒間弾なら、私を幸せに出来るだろうか。
はたまた、私は黒間弾を殺さなければならないのだろうか。
そう思っていた矢先だった。
「黒間弾が俺たちの存在に気付いて消そうとしてる!瞬ちゃん、残念だが、彼を殺し、真の意味で黒間を滅ぼし、俺たちで明王院を変えるしかなさそうだ!」
はぁ…。
やはり私のことを幸せに出来る人間などいないのだ。
そして私たちは大阪へ行き、明王院を爆破した。
宣戦布告だ。
さぁ黒間弾。
お前を殺す理由は、揃った。
戦争をしようか。
私はお前を許さない。




