第90話 環状
たまにこんな話を聞くことがある。
「タイムマシンはできっこないよ、だって未来から誰も来ていないじゃないか。」
…誰が知っているのだ?
例えば某タヌキ型ロボット漫画の様な体験をしている少年が1人いたとして、その話が漫画にでもなっていない限り、お前はどうやってその情報を知り得る?
あの漫画は、実はあの作者が体験した実話だなんて話は、あり得る話だ。
…まぁそんなあるかもないかもの話をしたいのではないから、元に戻すが、こうは考えられないだろうか?
「タイムマシンが発明されるであろうその時、人間はなんらかの原因で絶滅した。」
と。
学者がこう言った話をしたと聞いた事がある。
今仮に、人間が絶滅したとしよう。
地球は荒廃し、資源は再び溜まり、地球には青が戻り、オゾン層の回復から、住みよい地になり、再び生命が生まれる。
生命は進化を遂げ、巨大なトカゲが生まれるがこの地を馳せ、何らかの原因で絶滅する。
そして知能を持った猿が再びこの地を馳せ始める。
そう、学者はこう言うのだ。
「生命が一度滅亡すると、地球は再び同じ歴史を刻みます。多少の差異はあれど、ほぼ、全く同じ歴史を刻むでしょう。」
数学で循環数列があるのを知っているだろうか。
1.2.3.4.5.1.2.3.4.5.1.2.3.4.5……。
上のような循環数列があった時、1で生命が誕生し、5で人類は滅亡する。
こんな簡単な数列で、我々は形成されているとして、今この世界が何巡目かの固まりであるとするならば。
「…俺たちはもう一度、絶滅する事になる。」
だが先にも述べた様に、我々は知能を持った猿なのだ。
何度繰り返したかは知らないが、そろそろ進化すべき時ではないか?
俺の息子やその孫達は、俺の真意を分かっていないようだが、この国の統治など微塵も興味がない。
…俺は進めなければならないのだ、6のその先へ。
そうしなければ、“奴”はこの数列自体を手に入れてしまう。
それを阻止するには、人類の絶滅を防ぐ他ない。
それが出来るのは、人並み外れた能力を持つ、異端児を俺たちの手で、増やしていくしかないのだ。
神に頼るだけのループは、終わったのだ。
彼の様子がおかしいのはいつものことだが、彼は隠し事を出来ない性格だ。
何かがあったのだろうか、彼の表情はその何かを訴えていた。
「帰りたい」
そう言っているようだった。
帰る日まで私たちは結局真希さんに勉強を教え、息抜きにバカンスを楽しんでいた。
釣りをしたり、海に入ってみたり、あいにく観光はしてしまっていたから、ずっと彼の別荘にいたけれど。
で、この最終日、彼が唐突にこんなことを言い出した。
「瞬、夏休みの間少しだけでも、お母さんと大阪へ来ないか?俺まだ瞬と離れたくないなぁ〜〜!」
と、いいお兄ちゃんがじゃれるように言った。
本人は自然に言ったつもりなのだろう、周りも違和感は感じてはいなかった。
私以外は。
無理していたのだ、明らかに。
「行く!お母さん!いいでしょ!!」
真希さんに勉強を教えていた間、瞬さんも勉強していた為、珍しく宿題が終わっているとのことで、この提案は彼女の母親によって許可された。
夜になり、私たちはバスターミナルまで向かい、余裕を持って来たので、あと半時間ほどでバスが発車すると言う時、思い詰めた表情で、彼が離脱した。
「ちょっとトイレ。」
鳳くんに目で合図していたことも重なり、私も少し遅れて
「私も少し御手洗に…」
と言ってこの場を離れた。
彼の行く場所など予想できている。
呑気に排泄しているわけが無いから。
「やっぱりここね…。」
「な!はぁ……いや、お前にならバレてもおかしくはないか…。」
彼はバスを待つ彼らを見守る為、彼らからの死角であり、また彼らを見守る事ができる裏から隠れて携帯を触って見ていた。
“俺は戻らないから、皆んなを連れて絶対に大阪まで帰れ。”
“分かっている”
“頼んだぞ、あいつらの事…”
“それもだ、任せておけ”
「…物騒なラインのやり取りね、戻らないの?」
「…あぁ、少しまだ調べたい事がある。」
「同行させていただくわ、拒否権が無いことくらいわかっているわよね?」
大阪への強制送還をちらつかせる。
阿部くんも杉田くんもいるのだ、彼は帰らざるを得ないだろう。
「分かってるよ…どうなってもしらねぇぞ…。」
「そんな野蛮な調べモノなの?」
「いや、ただの文献探しだよ、」
「何の?」
彼は大きなため息と共に、黒間阿修羅と鳳輝の、と吐き出した。
なるほど、だいたい読めた。
きっと…
「おおかた、貴方のお祖父様が生きていらっしゃって、阿修羅のキーパーツを利用して伝説の2人の対戦を再演しようとしているのかしら?さしずめ、その演劇の脚本はお祖父様のシナリオで、それを防ぐ為詳しく黒間と鳳の歴史のお勉強、というところかしら?」
「…やっぱりお前、サイコパスかよ、怖えよ。でもまぁその勉強にはお前みたいな優等生がいた方が捗るかもな…。」
「えぇそうね。貴方の脳はきっと情報を右から入れて左へ流してしまうわ。」
「はいはい、えらいまた調子がいいですね、お嬢様。」
ふふっと笑ってしまう。
えぇ、貴方は少し抜けているわ。
だってほら、今ここに2人だけしかいなくて、貴方は半ば強引にだけど、私を必要としていて、私も貴方のそばにいたい。
まるで貴方の両親の恋物語のようじゃない?
でも貴方は気付くことはない。
私の今の気持ちにも。
そんな馬鹿の側に私も座り込み、彼らがバスに乗り込むのを黙って見ていた。




