第86話 密接
俺は確かにあの時あの場所で、死んだ。
ふと目が覚めたその場所は、全く心当たりのない場所だ。
頭の回転が追いつかない。
いや、もともと頭がキレる方ではない。
妻は…違ったが。
弾は頭が良くキレる子だった。
黒間でさえなければ、無邪気に天才だと笑えたことだろう。
真希は…どちらかというと俺似だったな、あいつはあまり頭がキレない。
と、真希のことを思い出す。
真希はどうなった?
真希が居なくなれば、この世界は終わりだ。
弾だけでは……奴らには敵わない。
兎に角、状況が分からない今、少しでも人通りがある所へでなければ、と思った矢先だった。
スーッと自分の体が消え、意識も消えていった。
気がつくとそこは見慣れた駅の改札前だった。
地元から少し離れた、乗り換え駅。
人通りが多く、立ちすくんで周りをキョロキョロしていると、ある少女がこちらを驚いた表情で見ていた。
見覚えのある、確かに見覚えのある、可愛い子。
「…お父さん?」
確信に変わった。
「……真希か?」
俺はタイムスリップをして生き返りでもしたと言うのか?
分からない。
真希が生きていた!
世界はまだ大丈夫だ!
それに…真希は自らの真の力にまだ気づいても居ないようだった。
上手く行っているのか?
それとも…すんでのところで保っているだけなのか?
「弾は!」
咄嗟に奴がこの世を去っていないかを危惧した。
それと、奴が黒間の手に落ちていないかも。
……親として最低だな、俺は。
「…弾は、元気か?」
「お兄ちゃんのことを、知らないの?」
「弾に何かあったのか!?」
突発的に出たその言葉は、我が息子を心配して出た言葉だった。
それに俺は、少し安心した。
「…変わったよ、お兄ちゃん。私はどんなお兄ちゃんでも大好きだけどさ。」
変わった?
変わったとは…。
そもそも
「…生きてはいるのか?」
「一応…。」
良かった。
なにより我が息子だ。
幸せかどうかも気になるが、まずは生きていなければ、俺は…妻も、世界のためもそうだが、この2人のために、命を賭けたのだから。
と、また体が消えていく。
次に目が覚めた時は、弾の前にいた。
「…弾か?」
面影のある息子は、冷たく言い放った。
「親父…。まずいことになったぜ、親父。」
私達は中華街を周り、各々好きなものを食べて、辺りはすっかり暗くなった。
さぁまだまだ夜の街を、と思ったが弾は鳳くんと合流し、白虎を連れて出かけるから、お前達はもう帰れと言ってきた。
真希ちゃんがごねたが、弾は私に
「説得頼む、分かるだろ?」
と言われ、頼られているのだろうかと錯覚し、そこに喜びを感じ、頷いて真希ちゃんを連れて帰った。
あの3人がつるむのだ、また何か起きているのだろうか、もしくは腕っぷしに自信のある男3人で何か起こしにでもいくのだろうか、どちらにせよ、いい予感がしない。
しかし、頭には去り際に言われたこの一言が残っていた。
「明後日の夜行バスで帰るぞ、少し大阪に用事が出来た。観光もいいが、少し真希に勉強させてくれ。」
用事、とは。
瞬のお母さんの車に揺られながら、田舎の夜道を眺めながら彼の声を反芻する。
「何か考え事ですか?」
冴香さんが話しかけてくる。
前方では真希ちゃんと瞬が弾の魅力について盛り上がっている。
「少し…悩みがあるんです。」
この人に打ち明けても何が分かるというわけではないが、まぁ私がうやむやにするよりはマシだろう。
「私に出来ることであれば…と言っても聞くだけになりそうですが。」
と言って微笑む彼女は、やはり美しい。
何というかもう、言葉で形容できない。
そりゃ、あの鳳くんでも惚れるよね…、と感心しつつ、私は打ち明ける。
「私、強くなりたいんですよ。せめて弾達の足手まといにならないくらいには。今のままでは無力すぎます。」
「……キツイことを言ってもいいですか?」
真剣に聞いてくれていることの方が嬉しいから。
「では。私は生まれてすぐに、近衛流格闘術を叩き込まれました。目的もなく、血反吐を吐きながら、実の親に殴られ蹴られ。そうして会得した近衛流格闘術を武器に、私は大輝様の護衛となりました。」
でも、護衛になった彼女はあっという間に今までの行動を恥じたと言う。
自分より強い人を護衛など出来ない、と。
努力に抜かりはなかったし、才能もあると言われてきた。
その彼女ですら、護衛という業務を諦め、雑用、いわば秘書的な職務に全うしたと言う。
暴力沙汰は、全て彼自身が解決してしまうから。
「…はっきり言って、何かあった時に彼の足を引っ張らないと言う自信はありません。」
「…それでも、貴方は彼に頼られていますよ、どこか行く時は彼は貴方に何かを預けている、それが証拠です。」
「そこまで言うなら、私でよければ近衛流格闘術をお教えしましょうか?完璧に会得は出来ずとも、そこいらのチンピラには負けないようにはなれますよ。ただ…優しくは出来ませんが。」
「是非よろしくお願いします!」
迷いなど、微塵もなかった。




