第84話 恋話
かつてこの地で、大規模な戦争があった。
この街もかつては戦火に焼かれ、見たものは言う。
あれは地獄だった、と。
この地を戦場にするつもりはない。
また、戦争を起こすつもりもない。
だが、俺はある恐ろしい計画を立てた。
立ててしまった。
そしてこの地に、持ち込んでしまった。
いや、この言い方も違うな。
とにかく、俺は家の事情、放っておけば世界中の問題になるがそれは置いておいて、勝手なことでここへ来た。
磯の香りが気持ちよく、鳶の鳴き声さえも愛おしい。
全ての時が、俺の住む大阪よりもずっとゆっくり進んでいるようだった。
だが、俺の中の時間はやはり早く進むままだ。
「おい!昴!何やってんだ、早く来いよ!」
「あぁ!少し待ってろ、石動!」
これはここから始まる、そして終わることのない、この世の終わりの話だ。
2つの不気味な光が消えて、再びそいつが目を開けても、そこに光はなかった。
そして語り始める。
俺の父と母の話を。
お前の父、黒間昴は事故死として殺されたとなっているが、そんな事はない。
かつて鳳会でも阻止できぬほどの力を持っていた黒間会の暴走に、身内である黒間昴は疑問を持っていた。
その計画というのがまた恐ろしく、だがありきたりでもある。
鳳会と黒間会でかつての伝説のように、もう一度戦争を起こし、かつての英雄2人のような存在をでっち上げ、その2人にこの世を治めさせよう。
しかしその2人は所詮でっち上げであるため、当主である黒間大三郎の手元にある。
つまりこの世を、黒間大三郎の手中におさめる、というのだ。
お前の父、昴はこの計画を阻止すべく、奴自身が黒間会を潰し、本家の黒間会を自らが引き継ごうとする。
そこで昴は黒間会に対抗すべく、力を求めて全国を放浪する。
力を求めてと言っても、奴自身は力を持たない。
「俺自身が力を持てば、いざという時に父の二の舞になりかねない。」
そうこうしてるうちに、奴はこの地に足を踏み入れた。
そしてお前の母に昴は接触する。
お前の母は、この地では有名な女だった。
運動神経は抜群、力も強く、頭もいい。
昴は始め、彼女を取り入れるために接触した。
だが仲間になれという言葉はやがて、恋人になれという言葉に変わる。
そして彼女は条件として、昴が立てた計画から手を引くことを提示した。
昴は快諾し、2人は結ばれた。
とはいえ、計画を黒間会に察知されていたため、大阪に帰ることでこの計画が根本からなくなったことをアピールした。
だが誤算だったのは、弾。
お前が生まれたことだ。
青眼を持つお前が生まれたことで、阿修羅復活を喜んだ大三郎はお前を言っていた計画の英雄役にしようとした。
だが昴はお前を守る為、再び計画に手を伸ばす。
その計画とは、青眼を上回る眼を見つけ、自らがお前の代わりになろうと。
そして、奴が全国を放浪していた時の仲間である頭のおかしな天才研究者とともに没頭した。
青眼、呪眼、奇眼、そして魔眼。
お前が知っている眼を全て俺たちは作り上げた。
だがそれを超える眼を見つけてしまった時、奴はこれらの成果とともに自爆することを決意した。
魔眼を超える眼は、お前が作り得ない情報操作で生まれた。
魔眼を持つ者が子を授かった時、その子にはその眼が開眼する。
確定ではないし、俺たちは研究成果を全て削除し、これまでの研究を無かったことにした。
ここまでで俺たちが犯したミスは2つだ。
俺も昴も2人とも、魔眼を自らに移植していた。
もう1つは。
昴がもう1人の子を設けてしまった事だ。
黒間真希。
真の希と書く。
そう、この子こそが、奴の真の希みだった。
最後の希望だった。
龍眼。
伝説よりも伝説。
阿修羅の時代に居たか、居なかったかと言われる、龍を宿した眼を黒間真希が開眼してしまった。
お前の父と母は、その命を賭して、龍眼を封印した。
お前の妹までもが、黒間会に狙われないように。
そしてこの事実を隠すため、お前の父はお前の代わりとなることを諦めた。
黒間会の計画を知ってしまっている父は黒間会によって抹殺される、お前の母も巻き添えとなった。
そして奴らは俺にある伝言をした。
ある男に、ある言葉を伝えて欲しいと。
「………いや、もういいよ。」
俺は正直、これ以上の話を聞く余裕がなかった。
頭が混乱する。
つまり、両親は真希の為に奴らに殺され、真希は俺を超える眼を持っている為、事実を知られれば黒間に狙われる、という事か?
「いや、お前には聞く義務がある。封印したものの、この封印もいつ解けるか分からん。」
守ってきたものが、さらに重く感じる。
真希は俺が思っていた以上に、放っておいてはいけない人物だったのだ。
父と母の恋愛譚を聞くはずが、重い重い、過去を聞くことになった。
やらなければいけない事が変わる。
俺は復讐よりも先に、すべき事がある。
いや結局、行き着くところは同じだが。
「弾、真希を……世界を頼む。そう言われたよ。それから弾、これは父からだ。」
「やめろ!聞きたくない!!」
「弾、お前を守ってやれなくて、本当に申し訳ない。俺が生み出したもので、お前をさらに苦しめて本当に申し訳ない。だが弾、お前は俺と母さんの、自慢の息子だ。真希と共に、必ず世界を救い、この世で一番幸せな男になってくれ。愚か者の父より、だと。」
涙が溢れる。
消えた夜景は、もはや何も見えない。
山の頂で、真夜中、日も上がるだろうか、俺は大きな声で涙を流した。




