第7話 鳳編 火を統べるべく
殴りかかっていった、と言うのはまだ俺は鳳一族なのに火を噴くことができないからだ。
兄は…一輝はやすやすとそれをやってのけた。
俺にはまだ…感覚すら掴めない。
だからといって今まで火を扱う努力以外何もしてこなかったわけではない。
ひたすら筋肉をつけ、体術では負けないように鍛錬を怠らなかった。
だから…俺は茂に勝てる…そう信じていた。
…慢心だった。
殴りかかった俺の拳を茂はひらりとかわしていなし、
「ガキ…なんですね、やっぱり。」
と呟いて膝で開いた腹を蹴られた。
「…どうゆうこった?」
腹痛を堪えながら俺は聞いた。
「あなたのお兄さん…一輝は死ぬ前に言ってたよ。大輝が大きく、ただ健康に育ってくれればいい、と。」
「それで、何がガキなんだよ。」
呆れた目をして茂は言った。
「あんた、本気で体術だけで俺に勝てると思ってんのか?天才と謳われた一輝を殺した俺に…体術で勝てるのか?」
勝てるさ。
俺は鳳だ。
兄の…一輝の弟なんだ。
勝てるさ…。
頭では分かっていた。
でも言葉には出せなかった。
「言い返せないでしょう!」
と強く言うと、茂は
水を吐き出し、粘着性のある網状のものにかえて俺に向けた。
もたついた俺はそれに捕まり、身動きがとれなくなった。
「俺の水は、熱くすれば敵を溶かし、冷たくすれば凍えさせ、勢いを強めれば鋭利になる。もちろん火も消す。もとよりお前に勝ち目なんてものはないんだよ。」
嘲笑うようにして茂は言うと、終わりだと呟いて水をふく体制をとった。
このままでは負ける。
鳳の名が…。
踏みにじられる!
そう考えた時、胸の奥が燃えるように熱くなった。
鳳は…。
最強の、誇り高き一族だ!
心の中でそう叫ぶと同時に俺は火を噴いた。
初めて噴いた火は、とても大きく、まともに当たれば死は確実という程だった。
茂は吐こうとしていた水をとっさに防御に使ったが、それでも体の数箇所は軽い火傷を負っていた。
「やっと覚醒したか…。だが、兄程器用では無いようだ。」
茂はそう呟いたが、俺は
「さぁ、どうだろうな…」
と言って睨む様に笑ってやった。
その瞳は熱く、燃えるようだった。
「お前…赤眼を…。」
茂はそう呟いたが、なんのことかも分からなかったし、聞く気もなかったので、
「死ね…」
とつぶやき、めいいっぱい茂を睨むと
「鬼火!」
と言って茂に火を噴いた。
噴いた火は鬼の角の様に尖り、茂に突き刺さった。
「これほどの逸材とは…。眠れる獅子…か…。」
と呟いて、茂は絶命した。
茂が死んだ後も俺は目がずっと熱かった為、茂が呟いた赤眼という言葉を思い出していた。
「赤眼…かぁ…。」
兄の仇をとった。
初めて人を殺した。
覆い被さる色々な事に俺は潰れそうになっていたが、赤眼という2文字だけが逃げ場になっていた。
近衛がただ1人、ぼうっと俺を恐れる様な目で見ていた。




