第69話 狂乱
実際、望むだけで手に入るものなんてないわけで、だから人は空を手にする為にひたすら踠き、足掻く。
その過程があってこそ、手に入れることの価値がある。
逆に、いきなり、はいどうぞ、と渡されたものなんて、いくら欲しかったものでも扱いきれないのが現実である。
誰かが努力して得た成功は、その誰かにしか価値はないのである。
なんてだらだらと言っているが、例外もある。
天才と呼ばれるもの達は、皆それを扱いきれるのだ。
近いところで言うなら、黒間弾、鳳大輝、白城虎美辺りか。
奴らははいどうぞと渡された金棒を、鬼のように振りまわす。
振り回し方や、その力は備わっている。
そしてタチが悪い事に、そいつらは皆んな努力する。
努力して、手に入れる。
本当に強い何か。
まぁ、有り体に言うと自信という奴だが。
話が逸れるが、自信があれば大抵の修羅場はくぐれる。
強い自信は自己を最大限に引き出す。
羨ましい限りだ。
他力に頼ってしまった俺では、本来敵う相手ではないのにな。
服がチリチリと燃えている。
頭部から流れる血が目に入っただろうか、目が痒くて痛い。
だが、それを確認するだけの冷静さはもう残っていなかった。
過去を否定する、又は俺の進路を否定することは、俺のタブーになっていた。
…虚勢をはるための自信が、なくなってしまうから。
今だって、怖いから、逃げたいから、黒間弾としては闘えない。
「ウオオオオオオオオ!!!!!」
目の前にいる敵に向かう。
冷静さのない拳はただただ大振りで当たるはずもなく、できた隙を突かれるだけだった。
それでもその分溢れる覇気は、俺を守る。
「…簡単に終わるなら意味はねぇんだよ、弾。」
そう言って奴は拳に炎を纏って殴りつけてくる。
頰を砕かれるような痛みだった。
吹っ飛びながらも態勢を立て直し、足で土台を作る。
「破山掌!!」
オーラを纏った破山掌が、俺に当てた拳の反動でよろけていた界を吹き飛ばす。
カウンターが決まった。
飛んだところへ飛んでいき、追撃を試みるが、流石は悪魔か、予測して防いでくる。
無駄な動きこそ無いが、完璧というわけではなかった。
そこまで考えられるほどには、殴り合いの中で冷静さを取り戻していた。
…という訳でもなかった。
単に、弱っていたのだ。
へばっていた。
暴れまわるほどの体力がもう、残ってはいなかった。
「魔銃!!!」
界がピストルのように撃ち込んできた。
銃弾はなく、気功弾のようなものだが、俺の腹部にめり込んだ。
痛みと出血で、訳がわからなくなる。
「もう限界か?弾。あまりにも早すぎないか?」
あぁ、そうだな。
そう答え、俺は界の元へ瞬間移動し、奴の首元を食いちぎった。
もう技だとか、そんな小細工をする余裕がない。
意地だけで、もう一度呼応状態まで引き上げる。
「エァァァァァァァァァ!!!!!」
狂ったように叫び、実際狂ってみる。
「グォォォ!!」
界も先の攻撃には流石に応えたようだ。
始まってまだ数十分だが、お互いにもう血まみれで、痣だらけで、ボロボロだった。
この戦いは長くはならないか。
そう予感した。




