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第66話 退院

「こんばんわ。」


憧れの先輩の家を訪ねる。


好きな人も、嫌いな人もいる家だ。


「よく来たな、もうみんな来ている、心配せずにとりあえず入れ。」


そう言われて彼の家に入る。


玄関を抜けたところまで、騒ぎ声は聞こえる。


鳳さんや、阿部さんたちか。


「おう、来たかぁ!!」


大きな声で、鳳さんが叫ぶ。


まぁ食え、もうみんな食ってるぞ、と阿部さんと杉田さんも食事を勧める。


誰の歓迎会なんだか。


「…で、お前はなんか俺に言いに来たのか?」


憧れのその人は、俺に優しい眼差しを向ける。


自然と出た一言だった。


「…この間は、本当に申し訳ありませんでした。かつての先輩に手を挙げるなど、言語道断です。」


「あぁ、お前なりの考えがあっての事なんだ、気にするな。」


「それから、俺を明王軍団に入れてもらえませんか?」


少し、彼の目がキツくなる。


「…その事なんだがな、白虎。お前、明王軍団のNo 3に立つ気はないか?俺としては、鳳にも劣らないその力で、俺の目が届かない範囲まで統括して欲しいんだが。」


鳳さんに劣らないだけで、勝ってはいないのか。


悔しさが隠せない。


「えぇ、喜んで引き受けさせていただきます。」



それだけを俺は今日…言いに来たのか?












「何よ、話したいことって。」


もう夜も更けて、みんなは騒ぎ疲れて寝ていた。


九条もさすがに少し眠そうにしていたものの、それでもいつもの冷静な九条に変わりはなかった。


「…桜庭さんの事は、前に話したよな?」


俺の自室では万が一外で誰かに聞かれかねない。


そう思った俺たちはかつて鳳と戦いあった家の近くにある廃工場に入った。


「えぇ、確か貴方の初恋の人で…亡くなったのよね?」


「その事なんだがな、九条。その人は生きていたんだ。」


俺は桜庭さんが生きていた過程について、余す事なく、事細かに説明した。


「そして彼女は最後の手段に出た、悪魔と契約するという、一族の切り札を使った。つまり俺はその悪魔と戦うことになるのだが、契約の代償は彼女の命なんだ。」


「どういう事?」


ここまで話しても、九条は冷静な顔を崩さない。


物事を、物事としか捉えていないからできる事なのだろう。


「悪魔が契約の代償としているのが、彼女の命なんだ。悪魔が俺に勝てば、悪魔は彼女の願いを叶えたと、彼女を殺す。俺が悪魔に勝ったとしても、悪魔は彼女と契約を結んだ時点で、彼女を道連れにするという追加契約も結んでいる。つまり俺が勝っても彼女は死ぬ。」


「…つまり、彼女は自分の命を犠牲にして、貴方を殺そうといているのね?」


「いや、契約したのは彼女の一族だ。……この際、そんな事はどうだっていいんだろうけどな。」


廃材に腰掛け、買ってきていた缶ジュースを啜る。


「それで、だ。とりあえず悪魔はぶっ殺す。それは決めている。だけど…」


「彼女の命を救う方法はないか?なんて言うのかしら。」


驚いて九条の顔を見ると、俺をキツく睨んでいた。


「…言いたい事は山ほどあるけれど、きっと結果は変わらないから、不毛よね。」


と、結局溜息をついたのだが。


「虫のいい話だということは分かっている。でもさ、初恋どうこうを抜きにしても、俺はあの人を今度こそ救いたいんだ。」


俺の運命を変えた、あの人を。


「分かったわ、貴方の小さな脳で考えていたって、それは分からないことだものね。協力してあげる。」


「一言余計だ。」


そう言って俺は笑い、壁にもたれる彼女に缶コーヒーを投げた。


「嫌味ね、この季節にホットコーヒーだなんて。」


笑って彼女は飲みはじめた。


「鳳や白虎は、俺はもう彼女のことを諦めていると思っているらしい。それで構わない、わざわざ言う必要も無い。」


「えぇ、分かったわ。」


「オカルト的な話だが、頭を使う話なので、お前を頼るのが一番だと思ってな、ありがとう。そろそろ戻るか。」


そう言って俺は帰路についた。


帰れば時刻は四時を過ぎており、明るくなりはじめていて、連中も目を覚まし、二回戦を始めていた。


2人で入れば怪しまれるので、俺は少し時間を潰す、と言って先に九条を帰した。


と、まぁもう一つ気になることもあったんだけど。


俺はもう一度廃工場へ戻った。


「…ビンゴ。」


さっき俺が置いていったジュースの缶の横に、仮面の男が座っていた。


「いつから居た?」


「君たちがコーヒーのくだりで盛り上がっていた頃だよ、なんで2人であんなとこに居たの?ヤってたの?」


信用ならないし、不快なことを言われた。


「今日は止める奴はいないぜ、やるならやってやる。遠回しな事はやめろよ。」


「そうしたいんだけどね、やるときは私も行くって嬢ちゃんが聞かなくって。退院を待ってんの、彼女、君のそばで死にたいみたい。」


仮面はそう言ってヘラヘラ笑った。


血液が沸騰しそうなほど腹が立ったが、我慢する。


彼女が本当にそう願っているなら、少なくとも今やるのは得策ではない。


「何しに来たんだよ。」


「それだけ言いに来たんだけどね、逆にお前が俺に言いたいことあるんじゃないかと思って。」


見透かされてた。


こんな奴に。


「……俺はほんの少し、昔の記憶が抜けている。ある人物に関してのみだ。…お前、もしかしてそいつなのか?」


沈黙が襲う。


仮面の表情は見えないけれど、明らかにヘラヘラはしていない。


「当たりだよ、まぁ思い出せはしないだろうけどね。」


そう言うと仮面はフッと姿を消した。


なんなんだよ、どいつもこいつも俺に隠し事ばっかりしやがって。


見抜けない俺も悪いのだが。


そう考えながら、俺は再び帰宅した。



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