第65話 挨拶
「おはようございます」
その挨拶が飛び交う朝に、私は今日もただ登校する。
「おはよう!」
と元気よく挨拶をしているように見せても、内心では割と落ち込んでたりする。
と、後ろがワッと騒がしくなる。
「見て、黒間君だ!」
「鳳君もいる!」
「かっこいいなぁ。」
なんて言葉を聞くのも、日常になりつつある。
好きなんだけどなぁ、こんな日常。
なんて考えながら、教室に着いて、始業の準備をしていたらホームルームが始まる。
「今日はまずみんなに転校生を紹介する。」
この学校は転校生が多すぎるな。
普通はそんなに来ないのに、聞いているだけでも中高合わせて二桁に達していた。
なんて考えながら、連日の疲れで俯き、だれた態勢になっていた時。
「…今日からこの中3F組で共に学ぶ事になりました、白城虎美です。白虎と呼んでください。先日はお騒がせして申し訳ないです。」
そう言って少年は頭を下げた。
教室は歓声で埋まる。
「…質問は各自休み時間とかにしてくれ。あーっと、席は黒間の横が空いてるな。」
なんで空いてんのよ!
と突っ込みたくなったけど、白虎は大人しくはい、とこちらへ寄ってその席に着いた。
私もたまには大人にならなくちゃ、と思って
「分からないことがあったら聞いてね……なんて定番なんだけど。」
と言って笑って見せた。
「…おい真希、俺は弾さんに屈服し、しばらくはあの人に付き従うつもりだが、お前と一果姐さんだけは許したわけじゃねぇからな。」
それが返答だった。
はぁ…。
私も、もう結構トホホなんですけど!
黒間真希、私が久しぶりに同い年の子に嫌悪感を抱いた瞬間だった。
「…つくづく縁があるわね。」
横でそう言うのは性格の悪いクラス委員様だ。
朝っぱらから席替えなんてして、少し怪我が治っていない俺は機嫌も良くはない。
さらに重ねて、隣の席はこいつと来た。
「なんだって俺は…厄でも付いてんのか。」
「貴方自体が災厄だものね。」
今日も絶好調だなこいつ。
まぁ、一番後ろの窓際だっただけ良しとしよう、教師から遠くて、ポカポカしてて、この季節はほんと寝やすいから。
「もうすぐ夏ね。」
こいつ、今日はよく喋るな。
「そーだね。まだ春だけどね。」
「私、今年の夏は貴方と沢山遊びに行きたいわ。」
はぁ…、もう気まずいよ、そんなこと言われると。
好意を持ってくれてるのは有り難いけど、無下にもできないし、なんか本当色々あるし、あったし、やっぱ気まずい。
こいつはそんなの気にしないのか?
「…もちろん、皆んなと、よ?」
「当たり前だ。皆んなとじゃなきゃ出かけるか、お前なんかと。」
「ひどい言い草ね。私が貴方のことをどう思っているのか知って言っているのかしら。」
こいつやっぱり強いよ。
こいつの言葉のパンチが一番効く。
「…お前は俺をどうしたいんだよ。嫌味ばかり言いやがって、なんだストレスで俺を殺したいのか。」
「そうかも知れないわね。」
そう言って彼女は笑った。
ホームルームも終わり、午前の授業も滞りなく終わる。
俺は寝てただけだけど。
とにかく、驚いたのは昼休みに入った、いやもっと早くに入って来てはいたのだが、俺は寝てたから、昼休みに聞いたニュースだった。
「白虎が転校してきた?」
「あぁ。」
満足気に鳳が語る。
なんでも既にこのクラスに挨拶に来たらしい。
鳳に礼儀正しく明王軍団への忠誠を誓ったことで、大変気に入ったようだ。
「お前は寝てることを伝えると、弾さんには自宅の方に挨拶に伺います、積もる話もあるので。だってよ。よく出来た後輩だな。」
家にも来るのか。
いや良くボコボコに殴った先輩の家に一人で挨拶にこれるもんだ。
「…今日、私も行っていいかしら。」
九条が隣の席からパンを食べながら話してくる。
「そうだな!みんな誘って、歓迎パーティーにしよう、うんそれが良い!」
鳳はノリノリだ。
なんでこんなテンション高いんだこいつ。
「…はぁー、分かったよ、今日は家空けとく。食いもんとかはお前らで買ってこいよ。」
俺もここは折れる事にした。
鳳や宮村、阿部や杉田といったメンバーが来れば少しは俺と白虎が2人で話す時間もできるだろう。
誰も来なければ、真希がいたたまれない。
……まさかここまで見通して、九条はあんな提案をしたのだろうか。
なくはない、が、だとするとやはり恐ろしい奴だ。
ともあれ午後の授業も午前同様寝て過ごし、すぐに放課後になった。
七時に俺の家に集合という事だったので、何処かで俺も時間を潰して帰る事にした。
思いついたのが、学校から電車で4駅くらいの、乗り換えにも使う駅にあるゲーセンしかなかった時は悲しくなったが。
ガラの悪いゲーセンに入り、アーケード型のゲームにコインを入れる。
音楽が流れ出し、それに合わせて機会を叩く。
正直、暇つぶしには最適だ。
最難易度の曲を終え、そろそろ帰るかと思った頃、自分が囲まれている事に気が付いた。
「明王が不用心だなぁ。」
10人ほどか、俺を囲む不良たちは大阪の人間ではないらしく、この辺りの事に詳しくないらしい。
ここは都会だし、近畿圏からなら遠くはないのでこういった輩は珍しくない。
「…あのさ、このゲーセン仕切ってんの誰か分かってる?」
「知らねぇよガキ。」
はいはい、頭が悪いのは分かったから。
と呆れていたところ、携帯が鳴った。
「貴方もあまり視野は広くないのね。」
クソ女からLINEがきていたので、慌てて辺りを見渡す。
真向かいの喫茶店の、席に座っている奴を見つけた。
目があったところで、またLINEがくる。
「貴方に少し話したい事があるのだけれど。」
「悪い、用事ができた。」
俺はそう呟くと、囲んでいた不良のうち一人を捕まえた。
「相手してほしいなら、日を改めてくれないか?明王も意外と入り用なんだよ。」
と、一人の目の先にピックを突きつけ脅した。
予想通り、あっけなく引いていった。
あの様子だと、もう来ないだろう、よくある事だ。
で。
「なんなんだ、話したいことって。」
逃げていく様を見ていた女が店から出てきて俺の元へ近づいてくる。
「相談、貴方、今日どうするつもりなの。」
「どう、とは?」
「今日は金曜日、明日は祝日だから休みだし、明後日は日曜。誰かしら、いえ、皆んな泊まることになるかもしれないわ。」
そんなに居座る気なのか…いやありえるな。
「私だけで、宝条さんと真希ちゃんの2人を守りきることは出来ないわ。」
「ありがとうな、九条。」
そんなにする意味もないのに、わざわざほんと。
「…2人とも、私の大事な友達だから、貴方のくれた、友達だから。」
「お、おう…。」
で、どうするの。
そう尋ねたそうにしながら俺の家に向かう彼女の頭をポン、と叩いた。
「白虎はあれで賢くなっている、俺の家に挨拶に来るといったくらいだ、何か考えている事だろう。それよりだ、九条。」
バカの鳳では駄目な理由があった。
「……俺もお前に相談したい事があるんだ、それも2人きりの時に、だ。」




