第63話 容態
二度あることは三度ある。
あくまで迷信に過ぎないが、この迷信は案外当たったりする類のそれ。
で、まぁ気にしないのが一番だなんて言うけれど。
ちなみに俺の不幸は2回起きて3度起きた。
1、黒間であること
2、桜庭さんを失くしたこと
3、奇跡的に生存していた、最愛の女性を…泣かせてしまったこと。
でも、俺が腐らず生きているのは、いや腐ってはいるのだろうが、やはり真希のお陰である。
一果の、鳳の、仲間たちのお陰である。
両親が死んだ時、俺と同じく何もかもに絶望を感じていたであろう真希は、俺に抱きついてくれた。
俺を頼りにしてくれたのだ。
…シスコンだろうか、いやでもそうなるだろう普通。
可愛くて、愛しくて、大切でたまらない。
だから守る。
それが理由。
真希の不幸は両親が死んだ事、そして兄がこんなろくでなしである事だ。
二度あることは三度ある、らしい。
この先真希やあいつらに何度目かの不幸が訪れるなら、なるべく俺が代わってやる。
俺に来いよ、不幸は得意分野なんだ。
何が不幸って、あいつらに不幸が降り注ぐ事だから。
守る。
安っぽいけど、誓っている事なんだ。
絶対に、あいつらを絶望させない。
それはお前も同じだったんだけどな、白虎。
大切な、後輩なんだから。
火を纏い始めてから、黒間の恐ろしさに気づいた俺はやはりまだまだ強くなんてなっていなかった。
息が上がり始めて、俺の方の限界が見え始める。
相手の底は、まだ見えない。
まずいな…。
そう感じ始めた時だった。
弾さんの目が一層鋭くなる。
「鱗片!!」
彼の拳から火の粉が飛び、パチパチと音を立てながら俺に向かってきた。
どう考えたって、これまでで一番の技だ。
俺も強くなった気でいたんだけどな。
超能力。
黒間やほかの先輩達のように属性はないけど、逆に言えば属性のないものはなんでも出来た。
バレないと、思っていたけど。
そんなことを考えていた。
体力が底をついていた俺は、結果がどうなろうと、もう終わることを期待していたのかもしれない。
こんな気持ちで良くあんな啖呵を切ったものだと後悔していた時だった。
目の前に、黒い衣服で体を纏い、仮面をつけた謎の男が現れ、それを確認した弾さんは技を引っ込め、後ろへ飛び退いた。
どこから来たでもなく、ふと見ればそこに居たのだ。
…瞬間移動か。
となると、こいつも奇眼の持ち主か。
なんで分析していたが、刹那に弾さんが口を開いた。
「……今度は何の用だ?」
低くなった弾さんが、本気で怒った声を俺は初めて聞いたかもしれない。
「割と真剣な話、もうそろそろ俺とやらない?俺もう待ちくたびれたんだけど。」
と、仮面の男が言った時、壁の外で鳳が壁を消せと叫んでいることに気づいた。
イレギュラーな状況に、どうすればいいか分からず、テンパっていた俺は言う通りに壁を消した。
「…嬢ちゃんの容態もあまり良くはないんだ。彼女のエネルギーを俺が使っているから、彼女にくたばられるのは俺としても困るんだよね。」
そう言った瞬間だった。
弾さんの眼からは血涙が滝のように流れ、体からまるで蒸気のようなくらいのオーラをブワッと放ち、十数メートル離れていたここまで熱が伝わって来た。
激昂。
その言葉が一番似合う表情だった。
「テメェ彼女を栄養タンクみたいな呼び方してんじゃねぇよ!!ぶっ殺すぞ!!!!」
鼓膜に響く大きな声でそう叫び、弾さんが地を蹴ったその時、鳳がガッチリと彼の体にしがみついた。
「やめとけ弾!落ち着け!お前が奴を殺すのは得策ではないことくらい、お前は分かっているだろう!!」
鳳は彼にそう諭すが、彼の耳には入っていないようだった。
「おいそこの!!お前が誰だかも知らないし、お前がこの俺をけなしたことも水に流してやるから、お前の言う弾のままでいてほしいなら、早く手伝え!」
見たこともないほど激昂している彼を見て、俺は恐怖心を抱いてしまっていた。
手を……抜いていたのか…。
やはり俺はあの人には、叶わないのか。
そう思い、やるせない悲しさや悔しさをつのらせながら、俺は止めるのを手伝った。




