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第61話 克服

国を出ることまでは決めていたが、アテがあったわけではなかったので、とりあえず有名なロサンゼルスへ行くことにした。


頭の悪さが顕著に表れている。


5人衆全員の両親は、様々な理由でいない。


もちろん、みんなそれなりに親戚なりに引き取られるなりされていたのだが。


そうでなかったのは、俺と弾さんだけだ。


俺は師に身を寄せ、あの人は1人で生きることができた。


あらゆる面で、ハイスペック。


そんな男に俺はもう1人出会った。


ロスに出て、一番最初に出会った男。


その男は既に還暦を迎えており、一線は退いた、と話していた。



まだ幼かった俺はその男の世話になることにした。


では一線とは何か。


何たらファミリーとか言っていた。


細かいところまでは覚えていないが、まぁそんなところだ。


ロスを牛耳るほどの強さだとかで、俺はその男の動きを盗んだ。


細いのに、どこにそんな力があるのかと言うほどのパワーで、数々の巨漢をなぎ倒した。


弾さんのスマートな戦い方とは違い、力ずくの戦い方だった。


俺はその男が戦うのをよく見て、観て、視て、学んだ。


男の言うようにトレーニングをし、数年が経つ頃にはそのファミリーの戦いに参加していた。


元々、俺も5人衆の1人だ。


自惚れとかではなく、その場で強くなって、名を馳せるのは必然だった。


ロスで出会った師とともに、俺は弾さんの動向を気にしながら生きていた。


そして、去年のことだ。


黒間弾が日本で黒間会を潰したというニュースが入ってきた頃、俺たちファミリーは山場を迎えていた。


何と、他のファミリー全てが手を組んで俺たちのファミリーを潰しにきたのだ。


もちろん俺たちは応戦した。


そして結果から言うと、俺たちは勝利し、事実上ロスを手に入れた。


代償は……俺の師だった。


師は絶命する直前、絶望する俺に自らの目を移植した。


お前には才能がある。ただのバカだと思っていたが、そうでもなくなったようだ。お前は俺の、俺たちファミリーの誇りだ。俺の目を託す、と。


そして、周りには聞こえぬように囁いた。


「…お前はこんな所で止まる人間ではない。この目と共に、俺には見られなかった限界を見せてくれ。」


その言葉を聞いた時から、日本への帰郷は決まっていた。


だが、それは大幅に遅れることになる。


『速報!!


黒間弾死亡!!


汚職警視総監と相討ちか!!』


SNSに、興奮を煽るようにかかれたその記事に、俺は踊るように煽られた。


しかし何故だか、それは嘘の記事を書いたそいつへの苛立ちだった。


今なら分かる。


俺の目は、奴の生存を既に確認していたからだ、と。















「破山掌!!」


夢幻流から抜け出せていない奴の技といえば、それくらいだろう。


防御は簡単ではなかったが。


白虎の掌から竜巻のように迫ってくるそれに、俺は新しい防御の技を繰り出すことにした。


序盤にダメージを食らうことは大してキツくもない。


「…冷!!」


奇眼の呼応状態にあるオーラ全てを、眼に集中させ、眼から範囲に向かってオーラを放つ。


実際、オーラ自体は不可視だが、その冷気は万象を無に帰す。


竜巻はまるで乾燥して砂にでもなったかのように、消えて無くなった。


「…炎だけが取り柄じゃなかったんですね。」


安心した顔で白虎が言ってくる。


「…俺もあんたも、進歩していると言うことだ。」


そう言うと、白虎は両手を強く叩いた。


何1つとして予想が出来なかった俺は、なんの対処も出来なかった。


「…鬼空間!!」


俺がどうしようかと迷っている間に、技は進行する。


薄い赤の、アクリル板のような壁が、校庭全体を包んだ。


「…この壁は、壊れない。破らせない。」


「メリットがない。この空間を作った理由はなんだ?」


「…真希や一果姐さんに、あんたがいなくなる恐怖を、そこになんの手出しも出来ない恐怖を与えるため。そしてもう1つは、鳳に邪魔をされると流石に俺もきついですから。」


鳳の事は評価してんのかよ。


心の奥でツッコミを入れる。


なるほど、この壁でこいつはロスを牛耳ったわけだ。


奇眼を呼応状態にまで戻した俺は、地面を強く蹴りつけ、白虎の元へ飛んだ。


「でもま、お前俺を舐めすぎだよね。」


俺は勢いのままに白虎の頰を殴りつけた。


吹っ飛ぶ白虎をさらに追い、もう一撃を今度は蹴りで。


白虎はグランドにサザァー、と砂埃を立てながら倒れ込んだ。


「…なぁ白虎。俺はまだ技すら出していない。俺の眼は、まだ機能していない。この辺りで差が出ていることにお前は何故気付かない。」


頭は悪くとも、観察力は良かった筈なのに。


ザッと、近づき、見下すように言う。


「…落ちたもんだな、白虎も。」


と、油断した所だった。


振り返りざまに、ガッと頭を固められる。


ヘッドロック。


「…あんたとまともにやって勝てるなんて思っていない。力づくも大事だがその前に、あんたに油断してもらわなければならなかった。…俺もまだまだ、落ちてないでしょ?」


得意げに話すその様子は、かつての白虎と同じ雰囲気がした。


幼さが残っていた。


とはいえ、この状況はまずい。


ギチギチと固められる頭は破裂しそうなほど痛む。


「…情火!!」


かつて九条を殺した、諸刃の技。


しかし俺も、あの時から何もしてこなかったわけでもない。


レベルを使い分ければ、俺に危害が少ないことも、またそれを使い分ける手段も理解していた。


まぁそのぶん、相手にダメージを与えられなくなるので、この場合のこの技は、このようなケースにおいての護身術の1つでしかない。


察知した白虎は奇眼が呼応しているからできる、瞬間移動で俺から離れた。


「……技、使わせられましたね。」


そう言って不敵に笑う。


強くなったな。


その言葉を、純粋にかけてやれない自分が、この状況が、なんとなく、切なかった。




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