第60話 後輩
女の子は、砂糖とスパイスと、素敵なものでてきている。
マザーグースの歌でうたわれたものだ。
素敵なものとは。
疑問を抱く。
黒間と一緒に登校できるまでに私たちの関係は回復していた。
正直、とてもとても嬉しかった。
記憶がなくなって、戻って、で、色々あったけど、やっと落ち着いた彼の隣には、宝条さんだけではなく、私もちゃんといる。
同等。
それだけで安心していた。
あぁ、素敵なものとは、“現実を見れない、良く言えば夢を見る力”なのかもしれない。
私が彼女の位置まで登ったのではなく、2人して同じ場所まで落とされただけだというのに。
何者かに襲撃された時、彼が叫んだ名前は鳳君だけだった。
彼が私たちに声をかけることも、私たちが彼に何かを言うことも、出来なかった。
結局、2人ともその程度。
落ち込んだりはしない。
どうせ今、彼の目には誰1人といて女の子は写っていないから。
だから、最後に私を選んでさえくれればそれでいいから。
あいつのことだから、その最後の時が、選択の時が来るのかどうかも分からないけれど、と笑っておく。
あぁ、ちなみにマザーグースの歌の中では、男の子はカエルとカタツムリと、仔犬の尻尾で出来ているそうだ。
その通りだと思うのは、私だけなのだろうか。
場所は校庭に移り、白虎といざ対峙した時だった。
「…そう言えば、ほんと話し方とか変わったよな、賢くなったか?」
唐突にその事実に気づいた。
いや、気付いてはいたが、聞きそびれていた。
殴り合う前に、語りあわないと殴り合えないのは、そこに理由を求めているからだろうと切なくなる。
「いえ、相変わらずバカのままですよ、俺の頭は。弾さんも変わりましたね、昔はもっと強そうだった。」
俺は目を細め、釣り上げる。
「………舐めてんのか?あ?」
「凄んでも無駄ですよ、そんなのは、あんたには似合わない。昔から、あんたは俺たちの依り代でしかない。」
本当に、バカさ加減が抜けた表情だった。
だから、昔の白虎が霞んでしまっていた。
「…俺はあんたを尊敬してましたよ。他の3人よりもずば抜けて強いのに、年下の俺に優しかったですから。」
「ならなんで黙って国を出た。」
国を出ていた事までは、風の噂で聞いていた。
寂しいと、当時の俺は感じていたから、。
「…あんたを…尊敬するあんたを説得するためです。あんたの噂は俺がいたロスでも聞いていましたよ。ジャパンにイかれたデビルがいる、ってね。」
イかれたデビルって…。
「俺はそうは思いませんよ、4代目…ですか?また色々背負い込んで、バカですか?」
「……説得したいと言ったな、一度言ってみろ。お前は俺をどうしたい。」
間髪入れず、まさに待っていましたと言わんばかりに白虎は答えた。
「弾さん、俺は昔から一果姉さんが嫌いです。あんたの妹も。」
白虎の表情が曇り出す。
「…あんたは復讐をしたいと言った、そこまでは分かります、あんたの私情だ。だが、そこの女2人をあんたが守らなければならない理由が俺には分からない。」
「それはお前がガキでバカだからだよ。」
瞬間、俺の体に力が入る。
応戦態勢をとったのだ。
「…そうやってあんたは力で訴えなければ話を聞きもしない。自己が強すぎるんだ、悪い事じゃない。でもあんたの考え方は間違えている!」
そう叫んで顔を上げた白虎の瞳を見て、俺も奇眼を発動する。
白虎の眼にも、俺と同じ眼があった。
「……どう間違えている…。」
「…あんたが復讐して、その報復は、黒間の生き残りが、あんたと関わる人間全てが、皆んなが支え合って受け止めるべきだ。皆んなで強くなって、皆んなで対抗すべきだ。その中心があんたなら分かる。でも何で、あんたは1人でそれをする?」
感情が昂ぶっている。
はっきり言うと、ここまでとは思わなかった。
真希と同い年で最強5人衆に名を連ねたという過去を、俺は評価すべきだった。
「…今のあんたの状況は常に調べていたよ。おかしいじゃないか、何故あんたが命を賭して、死に物狂いで手に入れた平和を、幸福を!何で強くなる努力もしないそこらへんのただ消費するしか能のない豚野郎どもにくれてやるんだ!?今のあんたなら、あんただけならどこまでも美しく、どこまでも幸せになれるはずだ!」
「やめろ白虎、それ以上は言うな。」
止めたが聞かないことくらい分かっていた。
「はっきり言わせてもらうが、今のあんたが幸せになるための、平和に生きるための……全てを投げ捨てて、ただの黒間弾になって生きることの足を引っ張っているのは悲惨な過去なんかじゃない!あんたの周りにいる消費豚だ!」
最高に感情が昂ぶったのだろう。
言い終える前には、奇眼の呼応状態まで引き上げていた。
「…一果姉さんも、真希も、昔から分かっていたのに目をそらして、あんたの過去の所為にしていたんだ。あんたの過去はそりゃ悲惨だ、むごすぎる。でもあんたはやっぱり天才だ、最強だ。だからあんたは過去を振り切ることくらいは容易くできたはずなんだ!でも足手まといが常に2人もいた!明王になった今では…もはや国民全員だ!」
俺は悲しくなって、白虎を見ていた。
昔からよく懐いてくれる、バカだけど可愛いやつだった。
俺のことをここまで心配してくれるのはありがたい、が。
「…おい白虎、お前は何も分かっちゃいない。俺はな、一果は真希が、俺が生産した平和や幸せをただ消費してくれる事が幸せなんだ。今は2人だけじゃない、明王という立場でいうなら、俺に平和や幸せを求めてくれる国民全員だ。そこにいる鳳や仲間たち、それに学生全員だ。彼らの消費するという行動が、俺に幸せを与えてくれているんだ。」
「…なら何故あんたは、愛する人1人守れなかった。」
!!
「…知ってんのか。」
「あんた程の人なら、愛する人1人守ることなんて容易いはずだ。でもあんたはできなかった。黒間に襲われる自分や家族、知り合いを守るため、奔走していたからだ。」
それを言われると辛い。
何を言い訳にしても、守れなかったという……いや、もう忘れた。
「…おい、何で守れなかった、なんて過去形なんだ。」
白虎が不思議そうな表情を浮かべる。
正直、俺自身も揺らいでいてよくわからなくなってきていた。
でも俺が今まで自らを殺し、…犠牲にし、愛する人達を守ってきたことや、黒間の仇討ちという過去が、間違いだったなんて思いたくはなかった。
まだ解決策は無いかと、心の何処かで模索している。
だけどやはり既に、この世で一番愛する女である、桜庭さんに、辛い思いをさせてしまっているのも事実だ。
現状では、彼女を助けることはできなかった。
彼女を犠牲にした過去が間違いだったなんて言えば……。
俺の心は耐えきれない。
「…で、どうするつもりだ。」
白虎は興奮しながらも、落ち着いた口調で答えた。
「…あんたが考え方を変えて、あんた自身が幸せになる人生を送るというなら、俺は黙って消えますよ。」
奇眼を呼応させてかぶせる。
土が舞い上がる。
「……俺は生き方を変えない。今まで通り、これからもずっと、俺がどうなろうが、真希や一果達仲間を守る、あいつらを平和の中で幸せに生きさせる。傷つくのは…俺だけでいい。」
「だったら力づくで、あんたの言う仲間達から平和も幸せも奪い取る!それから……弾さん、あんたも俺のものにする!それで、あんたにはあんたの為の人生を歩んでもらう!」
相変わらずバカだ。
結局、頭はここら辺までしか働かないのだ。
「…賢くなったように見えたんだけどなぁ………。」
そう呟いて俺は言った。
「…こいよ白虎。そこまで言うなら、相手してやる、力づくでお前の思うようにしてみろ。」
俺の覚悟を、思いを、愛する後輩に知らしめてやる。
そして…俺の、黒間への復讐からはじまった、たくさんの人を傷つけ、命を奪い、そこまでして手に入れて、守るべき人間に与えたものの価値を、こいつに伝えよう。
それがここまで俺のことをここまで思ってくれる後輩への、恩返しだろう。
こいつはバカだから、どうせ言葉で伝えたって分からない。
拳の重さで、伝えてやろう、そう思った。
だけど、奴の想いの詰まった拳もまた重いことを、俺の頭にはなかった。




