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第43話 死

「死んだら何も残らない。」

そんなことを言う奴が嫌いだ。


結論から言うと、そんな事は絶対にないからだ。


どんな人間で、どんな生き方をして、どんな死に方をしようが、死んだ後に何も残らないなんて事はない。


元に、俺がそうだ。


両親を亡くし、復讐心を抱き。


恋人を亡くし、感情を無くし。


祖父を殺し、喪失感を覚え。


従兄弟を殺し、後悔を知った。


どれも、俺に何かしらの影響を及ぼしてきた。


俺だけではないはずだ。


両親を亡くし、真希は絶望を知った。


きっと俺が死ねば、自由に気付くだろう。


自由はリスキーだ。


だからこそ、リターンも大きい。


絶望を知れば、賢くなる。


賢人は、失敗を予想し、回避する。


真希が賢人になったときくらいが、俺の死に際。


そう思っていたが…。


まぁ、計画通りに全てが動くほど、うまくは出来ていないのが世の中だ。


不条理があって、感動は生まれるのかな。


そう感じ、俺は未だに恐怖を知らない。









クナイを持って九条に近づく。


もちろん、これを当てるつもりは毛頭無い。


当たれば儲け、だ。


予想通り、九条は俺がいる方向に、水を飛ばして来た。


水といっても生易しいもんじゃなく、衝撃波に水の攻撃力が足されたものだ。


まともに当たれば、吹っ飛ぶだろう。


俺は飛んでそれをかわし、クナイを放る。


九条は素手でそれを叩き落とし、空中にいる俺に飛びついて来た。


白目をむいて、白いオーラを纏って。


これが正義の警官だとは、信じがたい光景だ。


「防火!!」


火を噴き、壁をつくる。


九条はこれを超えてくる。


水の光線銃は、壁をつき抜き、さらには俺の腿を貫通した。


「ぐぅっ!」


痛みに吠えてしまった。


情けない、が、反省は後だ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」


九条は息を乱れさせている。


どうやらこいつのこのチート状態は、体力が弱点のようだ。


…ここが反撃所かな!


俺も奇眼の呼応状態なのだ。


ラリった奴に負けてられるか。


「魏火旋風!!」


手のひらを九条に向ける、手のひらから10センチほど離れたあたりから、つむじ風が起こる。


その目の部分から、細い火の線が、物凄いスピードで九条に向かう。


ここまでの間、わずか1秒。


俺が新しく今考えた技だ。


惜しくも九条は間一髪でそれをかわし、魏火旋風は正面のビルに直撃し、運悪くそこは核だったようで、一気に崩れた。


迫力だけなら抜群だ。


まぁ、迫力だけで勝てたら、苦労はしないのだが。


「水星!!」


奴の人差し指から、丸い水の塊がこちらに放たれる。


俺は瞬間移動でそれを避け、九条の目の前へ現れる。


狼狽える九条の頬骨に、拳を打ち込む。

下向きに落ちていくが、地面すれすれの部分にまた瞬間移動し、2発目を打ち込む。


奴の体は上向きに放物線を描く。


最高点に瞬間移動、3発目を奴の頭に。


「…火拳!!」


力を思い切り込め、打ち込んだ。


奴の体は道路のコンクリを破壊し、土煙の中に消えた。


まだだ…。


土煙が薄くなった頃、頭から流血する九条が仁王立ちしているのを見つけた。


腿が痛む。


そのせいで、反応が少し遅れた。


ダメージを感じさせない速度で駆け寄って来た九条に、俺は頰を殴られた。


顎が外れかけた。


当たる寸前に、地面を蹴ってアジャストは避けたが、それでもこの破壊力だ。


「…マジでどうなってんだ、チートかよこれ。」


眼なら同じだし、血統なら俺の方が上のはずだ。


なのに段違いに、こいつは強い。


ふと、一つの予想が俺の頭をよぎる。


「…お前まさか、薬か!」


薬物。


どの時代も、たった一度の使用で廃人を製造する、悪魔の器具だ。


「…俺こそが正義だ。」


よだれを垂らしながら九条が言う。


先程までの威厳など、かけらもない。


ラリった奴は、理性がないぶん、脳のリミッターが外れる。


必然的に、箍が外れたかのように強くなってしまう。


やばいね、これ。


本気で死ぬよマジで。


……………………………。


ボソボソと、地と泥で汚れた九条が言っている。


耳を澄ませて聞き取る。


「…黒間ぁ。ころぉす。黒間、黒間、黒間ぁ!また俺が!正義で正してやる!!!」


自分に絶対の自信があれば、ここまで堕ちるのか。


黒間が九条に何をしたかは知らないが、黒間というだけで襲われるならたまったもんじゃない。


俺はまだいい。


今のところ、こいつと応戦できているから。


真希なんて、きっと瞬殺だ。


となれば…


「…刺し違えてでも、殺すよ、九条。」


覚悟した。


たとえ今俺が死んでも、きっと鳳はまた強くなり、真希たちを守ってくれるだろう。


気になるのは仮面の男だが…。


今ここでこいつを野放しにするよりはましだ。


九条はもう俺の声すら聞こえていない。


「百火!」


口元に指を添え、大きな火の玉を噴き出す。


火の玉は百個に分裂し、九条を襲う。


時速にして、約300キロ。


当たれば貫通、そして患部は火傷。


倫理的に、最低の技だ。


九条はフー、フーと息を荒だてていたが、


「水壁!」


と言って噴き出した水の壁が消してしまった。


「火は相性が悪いか…。」


そう思った時だった。


「…黒間はいつも正義でない。」


後ろからそう聞こえた。


焦った俺は聞こえた場を避け、空中に飛んだ。


「傲慢なんだよ、お前!正義の取り方は人それぞれって習わなかったか!?」


そう叫んだ俺の後ろに瞬間移動してきた九条がまた水の光線銃を人差し指から放ってくる。


とっさに身をよじった俺はすぐに口から火を噴く。


「火炎!」


ゴオォォォ!と、噴いた炎が男を包む。


「水禍…」


ばしゃん!と音を立て水が飛び散ると、火がなくなった後に姿はなかった。


「傲慢なのはお前のようだ…」


俺の後ろから、声が聞こえた。


瞬間、腹部に身を裂く痛みを感じた。


「紫水」


「ぐあぁぁぁぁ!」


俺はまた一歩劣っている。


紫のオーラを纏い、水で貫通率を上げた奴の右手が、俺の腹部を貫通していた。


腹に穴が空いている感覚。


もはや痛みすらない。


むしろ...


「ゼロ距離だぜ、九条。」


ニヤリと笑い、


「情火!!」


と叫んだ。


奴の手は俺の腹筋で外れない。


逃げる方法はただ一つ、腕を捨てる。


だがそんな余裕も与えず、俺の全身から、蒸気が溢れてくる。


高熱で皮膚を溶かすほどの蒸気。


それがゼロ距離で当たれば、当然命はない。


九条は見事にヒットし、皮膚を溶かし、火傷を負い、しばらく叫んだ後、ダメージのせいで気絶した。


ここまでか…。


実はこの情火だが、命を諦めた時にしか使えない。


そんな蒸気を放つぶん、俺の体内では高熱を作り出す。


その際、体内に火傷を負うので、臓器がやられる。


奇眼の呼応状態でどうにか…と思ったが、腹部にもダメージがあるのを忘れていた。


情火は九条の顔半分を溶かしたあたりで、消えてなくなった。


「俺もここまでか…。」


そう言って、俺はその場に倒れこんだ。


その後の記憶は、ない。

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