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第32話 消去と登場

“明王”は、元々生徒会長のような役職だったらしい。


そもそも伝統のあるこの学校で、武力行使は好まれるものではなかった。


そんな場所に武力を置く。


皆んな何も言わないが、いわゆる“汚れ仕事”という訳だ。


明王になるには2つのパターンがある。


1つ、その代の明王が卒業、引退した際に募集された者の中からバトルロワイアル形式で優勝した者にその権限を与える。


2つ、その代の明王を撃破する。方法は問わない。またこの際、その代の明王に対する暴力行為は、挑戦者が明王になる事で不問となる。


俺は一つ目だった。


ちょうど3代目が卒業する年だったので、応募した。


さらに言うと、こんな坊ちゃん、嬢ちゃん学校に来てまで武力においてリスクを背負う人は少なく、(発足して間もなかったということもある)4代目就任は容易い事だった。


明王は当時、あまり期待もされない役職だったので、形式上は就任式というのがあったが、生徒は誰1人関心がなかった。


これではいけないと思い、俺はスピーチで賭けに出た。


「今日から明王に就任した、中学2年の黒間弾だ。」


会場はざわつき、きちんと聞いているものなど居ないだろう。


「煩いな…。これだからこんな中学2年のガキに明王なんて名乗られるのだ。」


しんと静まりかえり、皆がこちらを向く。


「いいか、明王なんて役職は本来、お前らみたいなクソ生徒が治安問題に悩まなくて良いように作られた役職だ。それなのにお前らは感謝の一つもないのか。」


まずは聴衆を煽る。


「確かに、前の代までの明王が残したものはほぼない。法律が無くとも、それを破るくらいの度量のある奴がならなかったからだ。」


決めにいく!


「だが俺は違う!俺の地元に聞けばわかるが……いや、俺の名字だけで分かる奴は分かるだろう!俺は黒間だ!根っからの不良だ!だが、世間を悩ます黒間でなく、お前らの後ろ盾となろう!汚れ仕事を進んで引き受けよう!」


これでは拍手レベルだ。


あと一押し、、、


「ここで一つ、お前らに約束する!俺は今の黒間を変える!黒間のイメージを変える、変えてみせる!」


これではエゴイストか?


「俺は黒間弾だ!黒間を変える英雄、黒間弾だ!秩序を守る黒間弾だ!この学園を、ここの生徒を安心で満たす、4代目明王、黒間弾だぁ!!!」


言い切った…。


会場からちらほらと拍手が聞こえる。


やがてその音は大きくなり、スタンディングオベーションとなった。


やった!


こうして4代目明王は生まれた。


約1年後、中3の春で黒間を潰し、実際に英雄となってみせた俺は、学園内で憧れの的となった。


夏に鳳を引き入れた。


秋に大阪の不良どもをまとめ上げた。


信頼なんて言葉では足りない存在になった。


そして冬。


総理を殺した。


年の瀬に、黒間組の黒間五歌を殺す。


もう直ぐ三学期が始まり、卒業旅行に行けば、俺たちは中等部を卒業する。


皆一緒とはいえ、やはり“卒業”という言葉は大きい。


出来たら……絶大な信頼のまま、鳳や一果、ここで出来た仲間たちと、笑って卒業したかった。





「だが俺には、既に大切な存在があった。組員たちだ。」


五歌は淡々と話し続ける。


「だから……ここで俺はお前に殺されよう。後のことは……弾、お前に任せるよ。」


俺はこいつを許すつもりもない。


だけど意外だった。


こいつの真意を聞けば、俺を狙うどころか、守ろうとしていたのだ。


そして、組員を自分の命をかけて守ろうとしている。


何もかもが、信じられない。


だが、ここで殺しておけば、シナリオ通りにことを進められる。


やるしかない。


「話してくれてありがとう。誤解したままお前と別れるのは、嫌だったからな……、だが俺はお前が真希にした事を許せない。だから…」


そう言い、俺は覚悟を決めてクナイを握りしめ、地面を蹴った。


加速しながら五歌の元へ向かう。


しかし、五歌がふっと微笑んだ瞬間、五歌は爆発した。


「ッ!!」


俺は驚きながらも、後退し、追撃に備えた。


自爆か!?


驚きながら、五歌の亡骸を見る。


周りは戦火で残酷な風景となっている。


組員は全員気絶しており、鳳すらもまだ朦朧としている。


スッと、五歌の亡骸の元へ1人、姿を現した。


俺が着けていた仮面を被り、黒装束をきており、素性は全くわからない。


しかし、瞬間移動の類だろうか、瞬時に姿を現した事から、またオーラから、ただ者ではないことは確かだった。


「誰だ…?」


声を出すのがやっとだった。


オーラで気圧されている。


悟られないよう、必死で俺もオーラを放つ。


「黒間五歌……。黒間組……。この惨状……。………お前、名前は?」


なんというか、奇妙な声だった。


「黒間弾だ。」


「また黒間か……。黒間の残党狩り……。ふふっ…。退屈しないなぁ……。」


背筋をえぐられるような寒気を感じる。


こいつが動けば確実に……殺される。


「まだ俺も、こいつを木っ端微塵にすら出来ない。駄目だなぁ…。回復不足。」


耳を疑った。


これでもまだ回復不足、だと?


これ以上があるのか?


「なぁ、お前…弾とか言ったか。お前はいずれ俺まで辿り着くよ。その時まで俺は待とう。せいぜいそれまで死なないことだ。」


そう呟いて男は消えた。


まだ体が動かない。


間も無く、腰が抜けた。


膝から崩れ落ち、俺は漠然としてしまった。


ガタガタ!!


という音と共に警官隊が突撃してくる。


「黒間弾、確保!!生存を確認!黒間五歌の死亡を確認!鳳大輝の生存を確認!」


鳳は生きていたか…。


良かった…。


安堵と共に、俺は意識を失った。


ダメージは相当大きかったみたいで、全治1ヶ月の怪我を負った。


間違えてはいけないのが、俺の回復力をもってしても1ヶ月かかるのだ。


目覚めた時は病室で、先に校長と総理と話をした。


また後から詳しい話はするが、とりあえずは新しい総理に就任した波止場の自己紹介。


それと、やはり明王の権限で総理暗殺は不問となったこと。


鳳が証拠を集め、黒間組との繋がりや企みを暴露し、俺はまたもや日本を悪徳総理から救った英雄となっているという事。


それらを聞いた。


正直、安心した。


一果や真希に迷惑がかかっていないかだけが、気がかりだったからだ。


まだ一果や真希、鳳に会うことは禁じられた。


退院までは大人しくしろとの事だった。


疲れもあったので、俺はゆっくりと回復だけ意識し、1ヶ月を過ごした。


不安を消したはずが、新たな不安を作ってしまった。


あの男は一体……。


気を抜いてはいけない。


自分達を脅かす存在はやはり、たくさんあるのだと俺は再認識し、自分の存在意義を再確認した。




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