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第21話 総崩れ

私達観衆の前には、警備員が厳戒態勢で警備していた。


兄の攻撃が止まった衝撃波は、私達にも押し寄せ、転んで怪我をする人もいた。


アスファルトが飛んできたりもした。


兄の噴いた火の竜巻は、空へ上がり、空は曇りだした。


なんだろう。


何が起きているのかさえ、私には分からなかった。


小さい時から、ずっと見ていた。


愛する人だから。


よく笑っていたのが、あまり笑わなくなったり、スポーツが好きだったのが突然やめてしまったり、不良のようになってしまったり…。


でも、たった1つは昔から変わらなかった。


何もしない人を傷つける程、酷くはなかったし、何より私達にはとても優しかった。


呪われたと言うその眼にさえ、私は温かさを感じていた。


それが今では目の前で親友の鳳さんと対峙している。


その赤紫色の瞳には、寒気すら感じる。


一体、何が兄を…、人をあそこまで変えてしまうのだろうか。





俺は鳳の腹部に火拳を打ち込んだ。


手は焼けるように熱いし、眼は酷く痛んだ。


邪魔しやがって…。


鳳は自衛隊の変装をしていた。


だから気付かなかった。


クッソっ!


奴は苦しむ様子を僅かに見せたが、次の手を打ってきそうだった。


俺は奴の足を右足で払い、よろけたところに追撃をかけた。


二発、三発と殴りかかる。


能力を使うと、眼が痛むので、出来れば使いたくなかった。


血涙が出始めれば、危険信号だ。


まだ出てはいないので、官邸で本気になるときに使いたい。


悪いが鳳には…っ!


「甘ぇよ…。」


奴の顔に四発目を入れようとした瞬間、奴はその拳を左手でいなした。


全力で殴っていた俺はよろけた。


しまった…、


前のめりになった俺の顎に奴は


「雀火!」


と叫んでその拳を撃ち込んできた。


流石は鳳一族だ。


赤眼だけでここまでの威力とは。


だが、俺には呪眼がある。


これでは決定力不足だ。


連打を計画していた鳳を裏切り、俺は態勢を崩すことなく奴の後ろに飛び、眼にありったけの力を入れた。


「ウウゥオオオォォォォ!」


俺の周りに紅いオーラが溢れ出した。


眼は激痛を伴っている。


血涙も出てきた。


しかし、これ以上時間はかけていられないのだ。


「火銃!」


振り返った奴の眉間に、デコピンをした。


中指に濃い炎を纏い、それを打った。


地味に見えるが、当たる場所によってはダメージは大きい。


ゴン!


奴はぐるりと目をまわし、その場に倒れた。


「ありがとな…鳳…。」


俺はオーラを纏ったまま、ギロリと前を見た。


自衛隊たちは恐れきった表情をして、後ずさりした。


俺が官邸に向かってゆっくりと歩き出すと、そこには醜い一本道ができていた。


銃を撃ってきたりした者もいたし、投石をしてくる者もいた。


しかしその攻撃は、ほぼ全て紅いオーラによって跳ね返され、本人を襲った。


幾つかは俺の体を傷付けたが、何ともない程度の痛みだった。


5分ほど歩くと、目の前には官邸があった。


強化ガラス何枚分かの先に、真中が数名の警護と共にこちらを睨んでいた。


俺は全力で強化ガラスに向かって飛びつき、その勢いと共に


「炎拳!」


と叫び、火拳よりも少し黒っぽい炎を纏った右手を撃ち込んだ。


強化ガラスは全て割れ、俺の技の欠片で燃え広がる部屋から真中たちは出てきた。


「どぉーもぉ…。殴り込みにきましたぁ…。」


真中は落ち着いた表情で


「どうしたんだ一体…。」


と聞いてきた。


怯えきった表情をしていても、総理大臣にもなれば、観衆の前に出ると落ち着いた表情に変えられるのか、と思った。


「騙せてると思ってたのかよ。お前が黒間と繋がっている事くらい分かってんだよ。」


「そうか。」


「逆らわないとでも思っていたか?」


「いや、いつかこうして来るだろうな、とは思っていたよ。」


俺はオーラを纏い続けている。


瞬間、護衛の3人が俺にピストルを向けてきた。


どこかで見たような、ライフル並みの威力を持つものだ。


突然だった為、護身の構えを僅かしかとれなかった。


汎用の銃弾を跳ね返せる流石のオーラでさえ、ここまで威力があると貫通するらしく、3つの銃弾のうち一発は俺の胸を貫通した。


「でもね…。」


真中が話し始めた。


「ここで正当防衛に見せかけて君を殺すのもありかな、と思うんだ。テロリストをこの観衆の中恐れる事なく鎮圧したこの僕は、英雄となるのではないか?」


胸から血が溢れ出す。


聴こえる鼓動も、速度が遅くなる。


意識が遠くなる。


「テ…テメェ……。」


何とか口からその言葉を出した後、オーラも失い、雑巾のようになった俺はその場に崩れた。


真中は俺を見下げて、嘲笑っていた。


計画通りとはいかないか…。


なぜか落ち着いてそう思った後、俺は意識を失った。


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