第20話 すれ違い
弾から作戦内容を聞いた時は、耳を疑った。
自分を死んだことにして、自分は裏社会へ溶け込む?
俺が次期明王?
何をふざけているんだろう、と思った。
真希ちゃんはどうする?
宝条はどうする?
それに…俺は信じてもらえていなかったのか?
俺と共に…全てを獲るんじゃないのか…?
失望した。
弾にではなく、弾にここまでしか伝えて貰えなかった、自分自身に、だ。
「お前にも手伝って欲しい。」
その一言さえあれば、俺は奴の力になれただろうか?
計画は割と細かく聞いていた。
俺は官邸から少し離れた、真中が引いた防衛線の最前線と官邸の中間地点にいた。
弾がここを突破する事があれば、俺が止めてやろう、と。
しかし、弾は俺の目にも止まらぬスピードで、官邸まで一度辿り着いてしまった。
強化ガラスが割れる、大きな音を聞いた。
俺は自衛隊に変装しており、視界も完全でなかったので、その光景は見られなかったが、言うまでもなかったのだろう。
そして弾は、一度最前線へ戻っていった。
態勢を立て直すつもりのようだ。
まぁ、奴も人間だ。
真中が揃えたこのエリート集団をそうやすやすと突破出来るとは思っていなかった。
思い違いだった。
前の方から、漢の断末魔が聞こえる。
それも大量に。
何かが破壊される音と、複数の人間の断末魔は、だんだん大きく、だんだん近づいてくる。
近づくにつれ、赤い閃光も見えてきた。
そろそろか…。
弾が噴いたのであろう、凄まじい速さで紅い炎の竜巻が襲ってくるようだった。
かつて奴が俺の屋敷で空に噴いた、斬刃血だ。
大男達が、竜巻に巻かれ、悲鳴をあげて倒れて行く。
放っておけば、官邸の直前まで竜巻は襲い続けるだろう。
俺も…黙って暮らしていた訳ではない。
「鷹!」
俺は両手を竜巻に向けた。
両手の掌には炎を纏っている。
俺が習得した、防護用の技だ。
新進気鋭に進む竜巻は、周りに強い衝撃波を与え、俺の元で止まった。
しかしなお、進もうとしている。
衝撃波は観衆も襲い、どうやら怪我人もでているようだ。
俺の技で、弾の斬刃血を相殺しようと思っていた。
思い上がりだった。
「ぐっ……ぐっ……。」
限界まで耐えたが、どうやら上に方向転換するのがやっとのようだった。
俺は両手を上へ持ち上げた。
竜巻は空を襲い、たちまち空は雲に隠れてしまった。
目の前には、驚いた表情を浮かべた弾がいた。
その服は幾箇所も破れてボロボロになり、肌には煤やら血やらが付き、汚かった。
それでも紅いオーラを纏ってこちらを赤紫色の瞳で睨んでくる。
鬼だった。
そういえばこいつは、あの黒間一族をたった1人で倒した鬼だった。
「何してんだよ。」
ドスの効いた声で、静かに効いてくる。
俺の臓器に響くようだった。
「ここでお前を止める。お前は間違っている。」
声を出すのがやっとだった。
いつからだろうか。
初めて会ったときは、お互いに互角だった気がする。
「お前が俺を止めるか。」
「あぁ。」
次に言われる言葉は分かっていた。
「思い上がるな。お前と俺では賭けているものが違う。」
「何を賭けてんだよ。」
「俺の命、人生、全てだ。それに俺は、お前にそれを賭けて欲しくもない。だからこそ、それらを迷いなく賭けられた。」
「何がしたいんだよ……。」
弾は悲しそうな眼をして、
「そこを退け……。」
と言った。
奴の手のひらから、血の雫が落ちた。
刹那、俺たちは地面を蹴り、お互いの体をぶつけていた。
ドォォォン!!
奴の右腕と俺の右腕がぶつかっただけなのに、俺の骨には皹が入ったみたいだ。
奴はビクともしていない。
「今ので分かったろ。もうお前と出会った時の俺ではない。」
分かってるさ。
呪眼、それのせいで…っ!
俺はすぐさま地上に降り立つと、同じく降り立った弾に向かって走って行き、
「雀火!」
と叫んで、拳に炎を纏い奴に殴りかかった。
「火拳!」
そう叫んで出てきた俺とは比べ物にならない炎を纏った奴の拳は、俺の雀火が奴の頰に当たる前に、俺の腹部に当たった。
鈍痛、それに加えて焼ける痛みもあった。
流石、強いな。
それでも、絶対に止めてみせる。
一撃で俺の体は軋みだしたが、その意思だけは確かだった。




