第18話 隠れた存在
成功した者は、英雄と拝められ、失敗した者は糞野郎だとして後に伝わる。
伝える人間は、きっと失敗した者の想いなど一欠片も知らない。
恋愛がいい例だ。
俺は恋などしたことが無ければ、する予定もないが、俺の知る話をしよう。
まぁ、真希の漫画の話だが。
ある所に、純粋な少年がいた。
その少年は、そこそこのルックスも持っていたし、運動神経も良く、頭もそれなりに良かった。
しかし、彼には度胸だけがなかった。
まぁ、当たり前にモテもした。
彼には、小学校の時から何年も片想いをする少女がいた。
少年は、少女に想いを伝えることはできなかったが、少女はそのうちに他の男子と付き合う事になった。
それはそれは愛し合い、少年は少女の幸せを願い、笑って見届けていた。
心では、泣いていたことを少女は知らない。
ある日、少女は彼氏と喧嘩をし、その際に少年は、少なからずチャンスだと思ってしまった。
ここで引けば、自分にはもうチャンスは無いのではないか、と考えた彼は無理にでも自分を奮い立たせ、少女に想いを伝えた。
その事を聞いた彼氏は、少女と分かり合い、美談でその喧嘩は終わった。
少年の想いは届く事なく、それだけならまだいい、人の彼女を盗ろうとしたタラシ野郎だと噂された。
その漫画では少女を守りきった彼氏は英雄として描かれていたし、ここまで少年について描かれてはいなかった。
けれどどうだろう。
ここまで見ると、俺には少年は英雄にしか見えない。
結果、少年は少女を守りきった。
少女の幸せを。
自分の身など、省みず。
1ヶ月が経った。
真中の言う通り、俺を狙う輩は確かに増えた。
大阪を占めたとはいえ、和歌山、兵庫、奈良から刺客は次々と送られた。
俺はその度に応戦していたし、呪眼も慣れてきた。
斬刃血。
噴いた火に、さらに火の刃が巻きついて相手を襲う。
呪眼だからこそできる技も、そんな輩に対して練習し、定着してきた。
そんな時だった。
俺は鳳に呼び出され、明王学園の一室に居た。
「お前はおかしいとは思わないのか?」
何のことだ。
最近、こいつは俺に対して何か探りを入れるような目で見る。
「大阪の不良に対し、喧嘩を売れば、たとえ大阪を占めたとしても、近畿へ、全国へ、と連鎖していく事など予想できたはずだ。」
「だな。」
鳳は顔をしかめ、
「なら何故、真中はお前に対して呪眼の代償としてそんな事を選んだ。他にもあいつの得する案件はあるはずだ。」
と言った。
「例えば?」
「反乱分子をお前という武力で脅し、奴の地位を確実にするとか。」
こいつはやはりバカだ。
オツムのレベルは所詮、真中と同じなのかもしれない。
まぁ総理大臣と同じレベルなら決して低くはないのか。
「お前…俺が本気で気付いていないとでも思っていたのか?気付くに決まっているだろう。」
「じゃあ何故…?」
さぁ、ここからは俺の頭の中のネタばらしだ。
あくまで推理で、確証はないから今まで動かなかったし、呪眼が欲しかったから、呪眼に馴れ親しむまでは騒ぐつもりはなかった。
俺が真中なら、高い金、つまり国家の予算を裏でやりくりしてまで武器に磨きなどかけたくはない。
ならどうする?
答えは簡単だ。
安くていい武器を使う。
俺に多額の額がつくのは、鳳とつるんでいる事。
俺自身が裕福でない事。
明王であること。
そして、黒間を絶滅させた英雄である事。
なら逆は何だ。
黒間ほどの力を持ち、表舞台には出てきていない、かつ経済力のある人物。
分かっただろうか。
黒間には生き残りがいるのだ。
思い返せばすぐ分かったはずだ。
黒間がそう簡単に絶滅するわけが無い。
しくじった、と俺は気付いた時に思った。
でも、逆手にだってとれる。
真中の考えはきっとこうだ。
まずは俺に多額のお金を積み、契約を交わす。
条件をつけ、俺に呪眼を与える。
この時点で、自然に呪眼を作製する。
その呪眼を、黒間の生き残りに与え、影から黒間の生き残りの暗躍をサポートする。
明王軍団と同じくらい黒間の生き残りが勢力を持った時、お互いに衝突させ、2つともまとめて潰す。
それまでは、負の連鎖を作っておき、明王軍団を少しずつ削る。
全てが終われば、悪分子が全て浄化された国が完成する。
適当な御託を並べれば、真中は世紀の大総理だ。
俺はこれを逆手に取る。
まずは来月くらいに、官邸を襲撃する事を予告する。
呪眼が暴走したのを装い、俺のみで実行する。
まだ黒間の生き残りは正式には真中の下に付いていないだろうから、真中は自衛隊などを動員し、応戦するだろう。
当然、野次馬も沢山集まるはずだ。
俺は真中を殺したのち、自衛隊の攻撃に当たり、死亡する。
…というシナリオをつくっておく。
俺が死んだ後は黒間の生き残りが、何か動くかを影から見ておく。
黒間の復活は、真希や一果、鳳さえも脅かす。
そこで俺は、影から黒間の生き残りの暗躍を阻止する。
それ以外でも、真希や一果を脅かす存在はいるだろうし、それの全てを俺が阻止する。
俺の存在は決して公にせずに。
それに、黒間の生き残りなど、大体予想はつく。
そいつがやすやすと終わるとは思わない。
何しろ俺たち兄妹に強く反発していた奴だ。
俺は全てを鳳に話をした。
鳳はぽかんと口を開け、
「正気か…?」
とだけ放ち、部屋を出て行った。




