第13話 戯言の中の楽
私が初めて一果に出会ったのは、私達がこの明王学園に入学したあの日だ。
初めて見たときは、綺麗だな、モデルさんみたいだ、くらいだった。
すでに一果に憧れの目を向けている男子たちがいるのに、そんな事を気にも留めない態度だった。
きっと、私達の様な普通の子たちの事を、下に見ているんだな、とはじめは思っていた。
はっきり言って、第一印象は最悪、だった。
結局私達はなんの運命か、中学一年から今の中三までずっと同じクラスだった。
長く一緒にいると、その人の事がよく分かるものである。
一果の目には、黒間弾しか写っていなかった。
黒間弾も三年間同じクラスで、よく知っている。
一果の幼馴染で、運動神経は抜群、成績優秀、端正な顔立ちにさらには明王とまできた。
唯一の欠点と言えば、やけに親しくしてくる、簡単に言えば媚を売る様な人たちには、この上ない無愛想だということくらいだ。
あとはまぁ、授業中はずっと寝ているのにやたら成績いいとか、言い寄る女の子に物凄く冷たくあしらったり。
あぁ、弱点なら、妹の真希ちゃんかな。
真希ちゃんには頭が上がっていない。
自分で気付いているかは分からないが、面白いくらいに真希ちゃんを大切にしている。
そして、恋愛にこれでもかというほど鈍い。
そんな黒間弾を、一果はずっと見ていた。
三年間、ずっと。
きっと、私の知らない入学前からなのだろう。
本人にそれを言うと顔をトマトの様に赤くして
「///そ、そんなわけないじゃん!//」
と弁明するが、丸わかりである。
そんな一果と私は不思議と惹かれ合い、今じゃかけがえのない親友だ。
「萌!行こうよ!」
一果に呼ばれて私は振り返る。
「うん!」
私、宮村萌は今日もそんな一果と過ごす。
「明王様!鳳組の組長である鳳大輝と決着をつけたというのは本当ですか!?」
「鳳大輝はもう明王の傘下なのですか!?」
朝、登校して、校門で。
俺は質問攻めしてくる記者達に
「ハッアアアアーーーー!」
と、馬鹿でかい溜息を1つ返した。
はっきり言って、ウザい。
こいつらの目に写っているのは。
鳳組と明王という立場。
黒間と鳳という伝説。
誰も、弾と大輝、としては見ていない。
くだらない。
俺は溜息以外は口も開かず、1人で目もくれずに教室へと向かった。
「朝礼を始めるぞー。」
棒読みの担任が言う。
「きりぃーつ、れぇーい、ちゃぁくせぇーき。」
クラス委員も気怠げに言う。
そういやクラス委員は誰だったかな。
担任が入ってくる前から机に伏せて寝ているから分からないな。
そんな事を考えていたら、ドアが開く音が聞こえた。
いつも通り担任が朝礼を終えて職員室へ戻るのだろうと思っていたら、その瞬間からやたら視線を感じた。
おかしいと思って顔をあげた俺は驚愕した。
そこにいたのは、この明王学園の制服を着た鳳だった。
俺は驚き立ち上がり、目を丸くした。
「な、何やってんだよ、お前…。」
驚きをありったけ体で表現し、俺は言った。
鳳はクスッと微笑み
「鳳大輝です。今日からこの学校で、このクラスで共に学ぶことになりました。よろしくお願いします。」
と言って頭を下げた。
「は、ハァ〜?」
まだ状況を理解できていない俺の周りで、クラスメイトは皆鳳を歓迎していた。
「何で?何で?」
しつこく聞く俺に担任は
「うるさいな黒間。今から質問タイムだ。ったくいつも寝てるくせに…」
と文句を言った。
「なぁ、弾。俺はお前の相棒だ。それに、お前といた方が面白そうだ。」
と笑った。
「たったそれだけで?」
「あぁ、たったそれだけでだ。ついでに言うと、冴香も高等部に転校してきているぞ。」
「え!冴香さんも!?」
一果が嬉しそうに言った。
「あぁ、なんだかんだ言っても側近だからな。」
あの後、翌日は日曜だった為、みんなでプチパーティーの様な事をして仲を深めた。
女性陣はとても気があったみたいだ。
その後も幾つかの質問があったが、俺は全く耳に入ってなかった。
「これからよろしく!」
そう言って笑う鳳を見た俺は、もちろん波乱なんてもんは確実に予測していた。




