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第12話 共鳴

昔、俺が強さを求め始めた頃、俺は夢幻流道場というところに通っていた。


弟子は少なく、山奥にあった為、知らない人ばかりだったろう。


俺の代でも、俺を含め5人だった。


よくそいつらとつるんでいたが、名前や容姿は覚えていない。


その道場に通っていた事は一果も知っていたし、練習をよく見に来ていた。


あの頃の一果は、よく笑っていた。


俺が純粋に夢幻流を学ぶ為、と思ってたのだろう。


あいつらは、俺たちが小学校の中学年になる頃に、何やら求めるものの相違か何かで世界へ散らばった。


俺もその時、道場へ通うのを辞めた。


今、夢幻流道場は……師はどうなっただろうか…。




しばらくの沈黙が続いた後、俺から切り出した。


「さっきの…お姉さん?綺麗だったけど…」


鳳はハハッと笑い、


「綺麗か…、お前もそう思うか。俺もそう思うよ。姉ではない。俺の…組長の側近だ、俺は姉の様に慕っているが、彼女は俺を弟の様になど思っていないだろう。」


と、何かを諦めた様な表情で答えた。


「そうか…。何かあったのか?良かったら話してみないか?」


俺は、何故かこいつを昔から知っている様な気がした。


「ハハッ、面白いな。お前。さっきまで殺し合いをして、お互いこんな傷をつくったのに、俺の心配か。」


「いや、まぁそうかもな。あとは、単純な興味だけだ。」


俺は笑みを浮かべてそう答えた。


「いいだろう。話してやろう。」


そう言って鳳は話し始めた。


鳳の兄の事。


近衛冴香の事。


兄を殺したのが、兄の側近だった事。


兄の復讐を果たした事。


一族の為、人生を組に捧げる事。


全てを聞いた。


「……大変だったな。でもお前、多分近衛さんはお前を、ただの組長だなんて思ってないと思うぜ、信頼しろよ。」


俺はそうしか言えなかった。


「…………お前も話せよ。だいたいは知ってるけどな。」


鳳は諦めた様に笑って言った。


自分だけ聞いておいて、言わないのは悪いので、俺も話した。


青眼の事。


黒間の事。


一族の事。


両親の事。


復讐の事。


妹と、周りの人間を守る為に自分を殺した事。


国の犬になる事を認めた事。


全て話した。


「……聞いてた以上に壮絶だな。」


真剣な表情を浮かべていたが、鳳の真意など俺には分からない。


ただ、どこか安心した。


「…なぁ、聞いてて思ったんだが、俺たちが争う理由はあるか?」


しんみりとした空気の中、鳳は言った。


少し考えたのち、


「…ないな。それどころか協定を結んだ方がいいとも思える。」


と答えた。


きっと、傷と疲れのせいで思考能力が低下していたのだろう。


「協定…俺は鳳一族を挙げたい。お前は愛する人達を守りたい。いいな、これ。いいじゃん!これ!」


鳳は深く考えたのち、目から鱗だ、というように驚いて喜んでいた。


「じゃあ、俺らは腹割った、兄弟みたいな関係になれるな。かつての…鳳と黒間の様に…。」


よくこんな恥ずかしい事が言えたものだ。


思考能力が低下していなければ、ありえない事だった。


これが、たまたま吉と出て良かった。


「そうだな!俺たち、なんか今日初めて会った気がしねえわ。宜しくな、相棒!」


と言って、鳳は右手を握りしめて俺に突き出してきた。


俺もまた、右手を握りしめて鳳の差し出した拳に当てた。


ハハッと2人で笑いあうと、俺たちは同時に倉庫を出た。


3人ははじめ、何が起きたのか分からないという顔をしていたが、次第に顔がほころび、笑顔さえ出ていた。


少し経ってから、俺たちは傷の心配をされ、手当てをし、中で何を話したかや今日から相棒だ、という話をした。



空はもう、明るくなっていた。

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