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黒き仮面剣士の異界道中  作者: 彩帆
第一章 白塔の幽霊と黒き剣士
32/35

32・鳥籠の守護者

 扉を抜け、さらに〈転移魔方陣(テレポーテーション)〉を抜け、たどり着いた場所。

 そこは丸い部屋だった。四方全てがガラス張り。その遠くには白く細長い建物の多い街が見渡せた。


「いい眺めだな」


 そんな感想を述べながら仮面は歩いて行く。


『いい眺め。それには同意しましょう』


 声が聞こえた。

 まるで部屋全体に響くその声は、今までのような解読が難しい電波のような声ではない。


「……そこにいるんだな、ユウ」


 仮面が部屋の中央を見る。その部屋の中央には白い台があった。まるで棺のような四角い白い台。


『ここへ人が踏み入るのは初めてのことです。私が目覚める以前は知りませんが』


「へぇーじゃあこの時代じゃ俺が一番乗りだな」


 聞こえてくるユウの声に導かれるように仮面は台に向けて歩いて行く。そして仮面は白い台の元に着いた。


「さっき答えを聞き逃した。だから改めて聞く。――君はここを出たいか? それとも出たくないか?」


『私は……』


 いざ言うとなると不安になる。自分は本当にここを出て外に行ってもいいのだろうか。

 本当に自分はここを出ることを許されるのか。いや、許されはしないだろう。だがそれでも――


『私は――ここを出たい。ここを出てあの窓の空の向こうに、本物がある空を見に行きたい』


 目の前の仮面に自分の想いを告げる。

 仮面は退けてみせた。あのドラゴンを。世界の象徴たるドラゴンを退けた。

 その行動は世界の掟さえも破ることができるということをユウに知らせてくれた。

 ――怖くて出ることのできないこの鳥籠を出る、自由への一歩を踏み出す勇気をくれた。


「そうか」


 そう言って仮面はほっとしたように笑う。どちらの答えでも仮面は連れて行っただろう。先程そう発言したのだから。だがユウの意思を尊重したいと思っていたようだ。


「それでどうすればいい?」


『それについて説明をさせて――』


 ――その時。仮面は何かに気がついたのか、急いで後ろを振り返る。

 転移されてきたのだろうか。光が後ろに集まってきた。その姿は徐々に形になっていく。

 だがその姿はあまりにも大きい。この部屋の天井ギリギリの大きさだ。


「……おかしいだろ、アレは倒したはずだ。なんで動いているんだ?」


 光が収まりその姿が分かった。白と機械の非対称な翼を広げ、大きな口からは時折バチバチと電気が飛び散る。先程倒したはずのあの白と機械のドラゴンがそこにいた。


「グォォォォオォォォォォ!!」


 ――ドラゴンの重く響く咆哮が、この部屋を揺らした。





『知りません! 私ではありません!』


「でもさっき動かしていただろ?」


『今は都市のネットワークに接続できません。なのでアレを操るのは無理な話です!』


 ユウはアレを出現させるためにセキュリティに干渉した。それによってセキュリティから睨まれ、ネットワークとの接続ができなくなっている。


「じゃあ誰が動かしているんだ! うわっ」


 仮面に向けてドラゴンが攻撃してくる。その動きは先程よりも速い。仮面は必死で逃げ回る。


『……考えられる可能性としてはこの街のセキュリティですね。この部屋に侵入したあなたを排除しようとアレを動かしたのかもしれません』


「まじかよ」


 その可能性は高い。何せこの部屋は最重要地区だ。この都市のセキュリティは最優先で守らなければならない場所である。


『ですがありえません。アレはドラゴンです。セキュリティはアレを動かせません。動かせないはずです!』


「……規則を破るからか。神を操るなんて行為はできないからだな」


『その通りです』


 では一体なぜこのドラゴンは動いている。何が動かしているのか。

 その時仮面に向けてドラゴンは爪による攻撃を繰り出す。

 避けられる。そう仮面は思ったのだが――まるで仮面の動きを読んだかのように爪が迫る。


「うそだろ!」


 なんとか剣を盾にその攻撃を防いだ。その時仮面はあるものを見た


「……なるほど。操ってるのは黒機士、お前か!」


 そのドラゴンの胸の部分。機械の心臓になるかのように黒機士の体が少しだけ見えていた。


『……なぜあれがあそこに! あれはあなたが壊したのではなかったのですか!?』


「壊してない。あいつは動ける状態であの場に残してきた」


『なんでそんなことをしたんですか!? あれは私を逃がさないようにする物ですよ! 壊さなければ私を逃がそうとするあなたの邪魔をするに決まっています!』


 会話をしているとまたドラゴンの攻撃が仮面を襲う。黒機士が動かしているから仮面の動きなど手に取るように分かり、さらにドラゴンの力も合わさっている。


「あはは……ユウよりそいつを動かすのが得意なようだな!」


 操縦者が違うだけでここまでの力の差が出るとは。仮面は苦し紛れに笑う。


「俺、あのドラゴンは流石に無理だわ」


 ――どれだけ速く動こうと、強い力を持とうとこのドラゴンには勝てない。少し戦っただけで仮面は悟った。あの黒機士が操るドラゴンを倒すのは無理だと。


「……ねぇユウちゃん。さっき君をここから連れ出すって言ったけどそれ取り消していい」


『……えっ?』


「だってアレは無理。俺はまだ死にたくないんだ。死闘を繰り広げるのは楽しいよ? でもね、勝つ見込みのない負け戦はごめんだ」


 ドラゴンと仮面の戦いは続いている。

 仮面の一撃はドラゴンは簡単に避けた。いや当たっていたとしてもあのドラゴンには傷が入らない。今の手持ちの武器では元々の強度がない。元が悪ければいくら強化しても限界がある。


「引き際くらいは弁えている。俺は無茶な事はするけど、無謀な事はしたくはないんだけど――ッ!?」


 電流を纏ったドラゴンから一撃が放たれた。

 針のように飛ぶ雷の槍。それを切り払った仮面の剣を持つ腕にさらに続けて槍が振り、その腕を貫いた。貫かれた腕がその傷からただれていく。だがそれだけで済んでいた。


 本当ならば槍から流れる電流により感電している。それを仮面は体内の魔力を操ることにより防いでいた。ただれていくのも食い止めていたが、徐々に傷が広がっていく。電流ももう残りの魔力が少ない為、いつまでも食い止めることはできそうにない。


「チッ!」


 その光景に一瞬の迷いもなく右手の剣で、左の二の腕部分から下を切り落とした。


 切り落とされた腕が地面に落ちるよりも速く、仮面に向けてドラゴンが迫る。電流を纏った爪が仮面の身を引き裂いた。頭とさらに肩にかけて縦に斬撃が入る。


 その衝撃に顔を覆っていた黒い仮面が割れた。半分に割れた仮面の欠片がカランと地面に転がっていく。そして血を流しながら仮面をしていたその者も飛ばされていった。


「……今すぐにここを逃げたいな。生き残るんだったらそうしないとな。――だがそれはしたくない」


 地面に倒れたその者はそれでも立ち上がろうと片腕だけで動く。


「ここで見捨てて逃げる選択肢なんて君は(・・)選ばないだろうな。もちろん俺も(・・)そうだ」


 誰に向けて言っているのか。だが誰かに向けて言っている。

 フードは脱げていた。よく見えるその者の顔には、黒髪が流れた血に濡れ額に張り付いている。顔には半分だけ残った仮面。そのもう半分、右側には何も隠すものがない。


「結局俺は君以外の何者にもなれないようだな。まぁそれでも構わないか」


 フラフラと体を揺らしながらも、血が足元に血だまりを作ろうともその者は立ち上がった。


「できることならこんな無謀な戦いは避けたかったけど仕方ない。――一だってよ、一撃くらいは与えてやらないと気がすまないんだよ。覚悟しろこの機械トカゲ野郎!」


 口元は不敵な笑み。隠れていた眼がドラゴンを映す。強い意思を宿した青い眼がドラゴンを捉えていた。


『無謀を無茶に変えるくらいならばできるかもしれません』


 その者に向けて声が響いた。白い台座の奥に潜むものの声だ。


「……そりゃ面白い冗談だ。どこにそんな手段が残されているってんだ」


 割れた仮面を被り、片腕のない者が言う。この状況だ、どこにそんな都合のよい手段が残されているのか。


『私です。私は武器です。私を使えばあれを倒せるかもしれません』


「……そいつは本当か」


 口元は相変わらず、こんな状況だというのに笑っている。だが青い眼は鋭く白い台を見つめていた。


『先程話そうと思っていましたが私が出るためには人と契約を交わさなければ出られないのです。禁忌の武器と契約する自信があればの話ですが……』


「そんなの今更だな。お前こそ主が〈竜殺し(ドラゴンスレイヤー)〉でも構わないのか? お前を作った奴ほどには及ばないが俺も立派な犯罪者だからな」


『好都合です。あなたほどに私を持つに相応しい人がこの世界にいるでしょうか?』


「たぶん、いないだろうな!」


 割れた仮面をした者が白い台に向けて走り出した。妨害するドラゴンの攻撃を間一髪で避けながら。


 白い台の上に人が現れた。青白く輝く幽霊のような人が仮面に向けて手を伸ばしている。

 仮面はその手に向けて左手を伸ばした。手が重ねられた瞬間、辺りは光の爆発に飲み込まれる。


『さっきの事は取り消しません。だからきちんと私を地上に連れて行ってください。これは契約です』


 ――仮面の耳元でそんな言葉が囁かれた。


 光が収まる。思わず目を閉じていた仮面が恐る恐る目を開けた。


「まさか、これが君の本体?」


 手には剣のようなもの。柄がありその先に剣身がある。問題はその剣身だ。

 四角い灰色の箱がそのままくっついているかのような、なんとも奇妙な剣だ。


「えー何が禁忌の武器だよ、こんなダサい奴がそうなのかよ」


『誰がダサい奴ですか?』


「うわっユウちゃんいたの!?」


 突然聞こえてきた声に仮面は驚く。思わず手元の剣とは言えない剣を見る。


『この姿はまだ仮の姿です。私は使用者に最適な武器になるように設計されています。まだこれはあなた様に最適化される前の状態……第一段階といった所でしょうか』


 使用者に最適な武器の姿を取る。それがユウという武器だった。

 ゆえに使用者が違えば異なる武器の形を取る。


「あーそうなんだ。良かった俺もこんなアイスバーみたいな武器使いたくな――」


『誰がアイスバーですか?』


「……なんでもありません」


 そんなやり取りをしている間に、先程の光で目眩ましをされていたドラゴンが復活しつつある。


「それでどうすれば俺専用の武器になるんだ?」


『適当に振り回していればいいんじゃないでしょうか?』


「ちょっと真面目に答えて! 今この状況をなんだと思っているんだよ、命掛かってるんだよ!」


 姿だけみれば仮面の状態は悲惨だ。だがその手に喋るアイスバーのような剣。それを振り回している姿は、危機的状況だというのに遊んでいるように見える。


「アイスバーって言ったの謝るから!」


『……では真面目に言います。適当に振り回せ、以上』


「おい」


『どのように武器を扱っているのかの情報を集めなければならないのです。その為には使用しているあなた様のデータが必要です。適当は訂正します。普段のあなた様の動きで私を使ってみてください』


 つまりはユウという武器を使うことで仮面の動きを分析し、その結果を得て仮面に合わせた武器になるということらしい。


「すぐにはなれないのか……」


『最初は不便でしょうがご了承ください。というわけでアレ相手に使ってください』


「無茶言うな、これは木の枝片手にラスボスに挑みに行くようなものだぞ!」


 仮面は恐る恐る前を見た。機械と融合したあのドラゴンと目が合った気がした。その身には触れたら丸焦げになるだろう程の電流を纏っている。しかもその操縦者はこちらの動きを知り尽くしたあの黒機士だ。


 それをこの木の枝よりはマシだが武器とは言えないもので戦えという。

 しかもだ。その声は無慈悲にも仮面の残った右腕の手首から聞こえてきた。


《警告、体内魔力が三十パーセントを切りました。これ以上の使用は危険につき、強制的に魔力放出を停止します》


「……ルーサの奴、本当余計な機能を付けやがって」


 ルーサらしいお節介に腕輪に触れようとして、それができない事に苦笑いする。魔力を放出できなくなるということは、この空間に魔素の供給ができない。仮面にとっては力を奪われたようなものだ。


『……大丈夫ですか』


「大丈夫なもんか。だがまぁ、やってやるさ」


 仮面は構えた。片手では少し重い武器をドラゴンに向けて構える。


「これは無謀じゃなくて無茶な事なんだろ? なら無茶な事をしてやろうじゃないか」


 仮面はニヤリと笑った。


 ドラゴンが羽ばたいた。四方を囲むガラスが振動に揺れ、そして耐えきれずに割れていく。

 そのドラゴンが宙を浮きつつ仮面に突っ込んでくる。電気を纏いながらだ。


 その突進を手に持った剣とは言い難い武器で受け止めた。強烈な一撃。だが武器にしては不格好でもきちんと強度はあるようで、仮面をその攻撃から守った。衝撃は受け流せなかったのか、そのまま窓の外へと仮面の体は躍り出た。


 塔の最上階に近い場所だ。地上ははるか遠く。高所の冷たい風と夕暮れの光が外に投げ出された仮面を包んだ。


『……このままでは落ちてしまいます』


「言われなくても」


 落ちたままに仮面は体制を直す。しかしどうするのか。飛ぶような力は魔素という物あっただろう。だが今はそれを使えない。金の腕輪も強制的に機能が停止された。


「まったく、余計なお節介しやがって……これは使いたくなかったんだがな」


 そう愚痴る仮面の片腕、失った左腕の傷口から急に血が溢れ出した。そして体内にあった魔力も一緒に外へ流れ出す。血を溢れ出しながらも仮面は片手に持った武器を振るう。すると血と共に風がふわりと舞い上がり、仮面の落下を止めた。止めたのは血でも風でもない。魔力から戻った魔素の力だった。


「ほーらこっちだ!」


 仮面が上を見上げた。落ちるようにして飛びながら向かってくるドラゴンの姿が見える。

 電気を纏ったドラゴンが一吠えすると、それを合図に無数の電撃が走った。


 宙を走る電撃を仮面は剣を振り回しながら避けていく。

 その仮面に向けてドラゴンが尻尾による投げ払いをすれば、なんとか剣を盾に受け止める。

 衝撃を受け流し尻尾を斬りつけた。だが硬い鱗が跳ね返す。


『……第一段階データ収集完了。第二段階に移行します』


 その時声が聞こえてくる。手元の剣が光り変形していく。瞬く間に四角い箱が柄にくっついていただけのような武器が少し細長くなり剣のような状態になる。


「まだ完成しないのか?」


『もう少しデータが必要。その為に質問します。あなた様は普段使っている剣のような両刃ではなく、片刃の武器が得意ですね』


「……よくお分かりで」


『ではそのように調整します』


 どこか微妙な表情をする仮面。そんな仮面の目の前にまた電撃が走る。


「おっとよそ見はしないほうがいいな」


 少しだけ先程よりも使いやすくなった剣を片手に仮面は前を見る。翼を羽ばたかさせて飛ぶ、空飛ぶ竜を。


「俺の寿命はもう少し先がいいって」


 無い左腕から血はまだ出ている。そうしなければこの高所から落ちているだろう。仮面はクラクラする頭を誤魔化すように頭を振った。


「ちょっと空中戦はやめにしようか」


 フッと笑った仮面の姿が消える。その姿を探すようにドラゴンは辺りを探る。


「ほーらこっちだ!」


 声と気配を感じ取ったドラゴンは左に向けて電撃の刃を突き刺す。手応えはあった――だがそこにあったのは、片腕だけだった。左腕らしい腕と透明な石が一緒になって浮いている。そしてその石は封魔石だ。封じられていた魔法は録音機能のようなもので先の声もこの石から発せられた物だった。


「残念外れ」


 その声は本物だった。振り向く前に後ろから体を叩きつけられたドラゴンは地に向けて落ちていく。


「こんな罠に引っかかるとは、弟子もまだまだだな」


 腕に残っていた魔力の反応と声。

 あのドラゴンはそこにあたかも仮面がいるかのように錯覚したのだろう。

 地上では大きな砂煙が渦巻いていた。その煙の中から光線が真上に向けて発射される。


「そりゃ死んでないか」


 その光線を避けて近くの建物の屋上にへと仮面は降り立った。地上から飛び立ったドラゴンがすぐに仮面の前に現れる。


『……第二段階完了。最終プロセス移行……』


 手元に持つ武器が光り輝く。そしてそれは先程よりも細く、そして片刃の剣にへとその身を変化させていく。

 ――夕暮れの光を受けながら、その武器は具現した。

 細い刀身は芸術品のようだ。しなやかに反る刃が美しくも、触れれば何であろうと斬るほどの鋭さを感じさせた。それはまるで……


「……刀だな」


 仮面が思わずそう口零した。


『東南の地に伝わる武器……ですか?』


「なんだユウちゃん。もしかして知らないでこの姿になったの?」


『私はあなた様に合わせて身を変えたに過ぎません』


「……昔使っていたからその癖が抜けていなかったか」


 隠していた事がバレたかのような表情をして少しだけ肩を落とす。そんな仮面をユウは刀から不思議そうに見ていた。


「まぁいい」


 仮面はその刀を振った。澄んだ風切り音が響き、辺りの空気を一変させた。


 そんな仮面に向けてまた強烈な一撃となる光線が放たれる。

 しかしその攻撃はすぐさま、斬られた。かき消されるかのように綺麗に消えた。


「……刀が俺の得意な物なのは昔も今も変わらんらしいな」


 くるりと刀は回った。夕暮れの光を反射して光る刀身は美しく舞う。

 その刀を見て、ふと仮面は思ったことを口に出した。


「ちなみに竜を犠牲にするほどの武器らしいけど、それくらいの犠牲は支払われたんだ、それは素晴らしい特典くらいあるよね?」


『そんなのありませんよ』


「……まじで?」


『――普通の人であればです。私には竜の心臓が組み込まれています。竜の心臓は魔素を作り出せます。あなた様ならばこの意味がお分かりでしょう?』


 そう語ったユウの言葉と共に刀が青白く光出す。何かが纏うようにその刀の周囲を漂わせた。


「俺、君には力の事を話してないんだけど……。まぁいいや」


 仮面は刀を手に前を見据える。青い眼が竜を、黒機士を捉えた。


「……できれば最後までお前は機械の守護者であれ」


 その言葉を残して仮面は飛んだ。

 無数のレーザーをかわし、電流の壁を越え、刃のような風の嵐を抜け、仮面はドラゴンに迫った。


「いい加減地に堕ちろ! 機械じかけの骸の竜よ!」


 突き立てた刀は分厚い鱗を、金属の肌を貫いた。そして黒機士の胸のコアさえも貫き通した。

 刀になった心臓に貫かれて――。


 その一撃の衝撃に体のあちこちを崩しながら、竜は落ちていく。


「さて、さっさと帰らないと……時間が……」


 仮面が歩こうとして、ドサリと地面に倒れた。片腕からまだ血が出ている。さすがに血も魔力も失いすぎた。


『――ッ大丈夫ですか!』


 名前を呼ぼうとしてユウは気づく。そう言えばこの者の名前はなんだったか。

 それでも話しかけるが仮面は起きない。


『起きて! 起きてください!』


 体を揺さぶられる。消えかけた視界の端に影が映る。いや一つじゃない、二つだ。それが誰なのか分からないまま仮面の意識を失った。




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