30・黒魔王と黒騎士
「それじゃ全力で行かせてもらいますよ」
黒機士に向けて仮面が宣言する。相変わらず笑みを貼り付けた顔をしているが、その口から発せられる言葉にはフザケているように聞こえるがどこか違う。
「あ、言い忘れたけどこの環境じゃ真の全力は出せないんだ。まぁ俺の力なんて結局はアレ頼りだから、全力がどのくらいになるかはその時々で違うけど。その代わりに死ぬくらいには本気を出すから許して」
やれやれと仮面は言う。その仮面の動きの一つ一つ細部にまで黒機士は注意を払って見ていた。
「さぁ前置きはこれくらにして……始めようか」
仮面が剣をその場で振った。空を斬った無駄な行動。そう見えた。その動作をした後に仮面は黒機士へ向かって走り出す。距離は十分に離れていたが、すぐに詰め寄られ黒機士の間合いに入り込む。
すぐに始まったのは剣と剣の打ち合い。高く鳴る光線剣の空気を焼く音、剣の擦れて鳴る甲高い音。そして溶け落ちていく剣の音。また仮面の剣が新しい物に切り替わる。
「お前は本当に俺の動きを真似できているね」
打ち合う黒機士の動きは完璧だった。まるで自分を相手にしているかのように、その動きは仮面そっくりだ。黒機士が攻撃に転じる、くるりと回された光線剣は光の軌跡を描きながら仮面に迫る。だが元は仮面の持っていた動きだからだろうか、仮面はするりと避けた。両者の動きは傍から見れば美しいと思えるほどに綺麗だ。まるで剣舞を見ているかのように。
「……機械ってさ癖とかないよね」
不意に仮面が喋りだす。それぞれ剣を打ち合って動いたままだ。流れる動きに一瞬でも遅れればその命を落とすかもしれないというのに、仮面はさらに続けて言う。
「人の癖は気をつけても直らないものだ。俺も一回そのせいで間抜けな事をしちゃってね」
この都市でガーディアン達と戦った事を言っているのだろうか。確かにあの時、仮面はいつもの癖で銃の装填をしてしまい、結果銃弾を足元に落としてしまう事をしてしまった。
「その点機械は羨ましい。癖とかなさそうで。でもさぁ……」
仮面の口元が歪む。意地の悪いニヤリとした笑みに変わっていく。
「お前は俺の動きを真似しているわけだ。元々は人の動き。それってつまり人の癖まで完璧にコピーしちゃってるってこと」
それはすぐに起こった。黒機士の光線剣が手を離れて少しだけ宙を浮く。それは仮面がよくやっている動きだ。光線剣はすぐに黒機士の手元に行くはずだった。だがその光線剣の柄を掴んだのは黒手袋の手。
「そんな無駄な動きしてるとこういう風に剣が盗られちゃうよ」
まるで出来の悪い生徒に言うように仮面は言う。その左手にはあの黒機士の光線剣。武器を盗られた黒機士はとっさに身を引いて仮面から距離を取る。
「戦闘中に剣から手を放してまるで曲芸のように剣を回すなんてまったく馬鹿のやることだよ」
黒機士は仮面の動きを真似ていたに過ぎない。普段から曲芸のように剣を回して無駄な動きをしているのはどこのどいつだろうか。
「お前が言うなって? まぁそうだろうね。俺は普段から無駄な動きをしている。だけどそれは他人から見ればそう見えるだけ。俺にとっては無駄な動きじゃない」
仮面が手に持った光線剣を振った。もう一度振るとそれに合わせて仮面の足元にあの半透明な石がコロコロと転がり、鎖が蛇のように移動してくる。先程その二つは仮面が地面に落とした物。その落ちていた場所から移動してきたのだ。
「他人が俺の真似をしても無駄。俺がしなきゃ意味ないんだよ、この動きはさ」
足元に転がってきた半透明な石を蹴り上げた。それは黒機士に向けて蹴られた。二つほどの石が風切り音を響かせて黒機士に迫るが、黒機士はそれを避ける。避けられた石は後ろの壁に当たり砕け散った。
「ねぇこの光線剣も魔法とか無力化するんだね。お陰でやり辛いったらありゃしない。でもその左手ほどじゃないみたいだけど」
その次に飛んできたのは――光線剣。回転しながら飛んでくる光線剣を黒機士は難なく掴み取る。
「お前にとって俺の動きが無駄なように、その剣は俺にとっては無駄な物だ」
そう言って仮面はまた取り出した剣を手に持つ。
「忠告はしたよ。俺に勝ちたきゃ下手な真似っ子はするな。お前本来の力を見せてくれよ」
その言葉を残し、走り出した仮面の姿が消失する。黒機士は素早く反応した。左からの切り込みを見事防ぐ。後ろに下がる動作をする仮面であったが、黒機士に向けて剣を振り下げる。
後ろに下がりながらそのような動作をしても黒機士など斬れるわけがない。しかしその動きを見て何かを感じ取ったのか、黒機士はその攻撃を避けるように体を逸らす。
――その直後、黒機士の後ろにあった壁に傷が付く。まるで先の攻撃の余波により傷つけられたかのような傷跡が。
「そろそろいいかな? 全力で行くって言ったしもっと派手に行こう。そのほうが楽しいし」
ガシャンといった音が次々に鳴り響く。いつの間にやら様々な武器が山のように仮面の足元に落ちていく。くるりと剣が回った。それに応じるように足元に、地面に落ちていた様々な物が浮かび上がる。剣に槍に短剣に鎖、半透明な石といつの間にやら砕け散っていたいくつもの石の破片。
まるで無重力空間のように物が浮かぶ。その物に囲まれているのは二つの黒だ。
「この光景が見れるのは貴重だよ。これは滅多にやらないからな」
仮面がまた動き出す。もう仮面の姿が消えるほどに速いことなど黒機士にも分かっている。右からの攻撃。それを防げば今度は背後から鎖が飛ぶ。避けるように動けば、飛んでくる武器の雨。撃ち落とす黒機士に仮面の追撃が入る。
仮面の放った攻撃は一度の斬撃だった。しかしその斬った軌跡を辿るように幻影のような剣の斬撃が遅れて黒機士を襲う。普通の人ならば対応できない。避けたはずの攻撃がもう一度繰り返されるようなものだ。それを予測するのは至難な技である。だがそれさえも黒機士は避けてみせた。
「流石!」
攻撃を避けられたというのに仮面は満面の笑みだ。また剣が打ち合わされる。打ち合う度に二人の攻撃の余波に地面がひび割れていく。
また仮面の剣が舞った。宙を舞う剣は仮面の手を離れて行くがそれに仮面は構わない。その辺に浮いていた槍を片手取ると黒機士と打ち合う。
数度打ち合い、仮面が槍を突き立てそれを足がかりに真上に飛ぶ。飛んだ先に落ちてきた先程の剣を手に黒機士の背後に回り込む。振り向いた黒機士が光線剣で受け流すも、胴体の左側面を仮面の剣が削った。
体の黒い破片が血のように飛び散る。傷を付けられた、だがその事実に構うこと無く黒機士は仮面の剣を腕を使って脇に挟む。それを受けあっさりと剣から手放しすぐさま仮面は下がる。
その仮面の動きは速いが黒機士も機械の足を思いっきり踏み込んだ。動きを阻むように鎖が迫るが黒機士の瞬間的な速さに追いつかない。仮面の懐に飛び込む形で黒機士は横薙ぎに斬る。一撃を貰った仮面はその勢いのまま飛ばされるが倒れない。
「あはは……楽しいねぇ」
服が斬られ、じわりと少しばかり血が滲む。それでも仮面はまだ笑う。
「平凡な日常ほど、刺激のない人生ほど生きていてもつまらない。力を持ってるとさ、それが嫌でも実感できる」
思い出すように仮面は語りだす。振り返るのはあの魔物たち。ホコリを払うかのようにして片付けられる存在。中には確かに強いものがいた。だが仮面にとってはそれさえも、雑魚と思える相手。
「楽しくない、面白くない。俺は生きなきゃいけないのに死んでしまいたいくらいにつまらない」
何も起きない平穏が人を楽しませるか。永遠に続く刺激のない人生に生きる意味はあるのか。
仮面は真上を見上げて言う。
「死ぬつもりなんてない、俺は約束は守るから。でもね、つまらない人生に生きるなんて嫌なんだよ、俺は。君だって言っただろう――どうせ大罪を犯した罪人、追われる身だ。なら楽しく行こうじゃないかって……だから分かるよね、俺の気持ちくらい」
黒機士に話しているようでどこか別の誰かに向けて言っているかのようだ。その仮面の胸から血は止まらない。わざとしているのか。
ゆっくりと仮面は前を見た。その目の前の黒い存在を静かに見つめる。
「――俺の力が気になるかい? 魔法じゃない事くらいお前にも分かってるだろうし、そうだよ。教えて欲しいかい」
黒機士は何も答えなかった。仮面の力は謎な部分が多い。魔法を使用している形跡もないというのに魔法に似た現象を起こすのが謎だった。今だに武器は浮いたまま、先の攻撃も魔法でなければ一体何なのか。
「魔法が使えるのは人の体にある魔力を使っているから。体内にある魔力に言葉による詠唱で操り、それは魔法という奇跡になる。まぁ人によっては詠唱なしでやるけどね」
仮面が手を振ると近くに浮いていた剣がまるで引き寄せられるように手元に飛んでいく。
「体内の魔力くらいだったら魔法にしなくてもそのまま操れる。それで傷の治りを速くしたり、体の動きも速められるよ。まぁそれが出来るのなんて相当修行積んだ魔術士くらいなもんだ。俺は違うけどさ」
胸の傷の血が止まった。仮面の言う通り、体内の魔力を意図的に操作したから止まったのだろう。
「そんな全ての魔法や現象をやってのける魔力。その元はなんだい? ――聞くまでもないか。答えは魔素。それを人は吸収し、魔力に変換する」
今度は剣を振る。きらりと光る半透明な石が手元にやってくる。中心に炎のような煌めきを宿したそれは〈封魔石〉と呼ばれる物。手のひらサイズのそれは初級魔法が発動に必要な魔力と共に封じ込まれている。
「魔素は至る所にある。空気中にあるんだ。……この街には無かったけど。まぁ魔力になって魔法になるそんな凄い物が空気中にあるんだよ? ――それを操れたら凄いと思わないかい」
ニヤリと笑う仮面は手に持った封魔石を割った。普通の使い方ではない。通常の使い方をするならば、魔力を少し込めれば内部の魔法が反応し、封じられた魔法が作動する。石を割る必要はない、いや石を割るなど愚の骨頂。封魔石は壊れるからだ。
割られた石、その中で揺れていた魔法の灯が消えていく。封じられていた魔力が魔素へ戻っていく。
「人が操れるのは魔力からだ。魔素なんざ無理だよ。だって普通じゃ魔素なんて認識できない。見えないんだよ。でもね、俺は違うんだ。見えるんだ、視えてしまうんだ」
剣が回される。手首で大きく剣が回る。それに合わせ、透明な石の破片は舞う。風に乗るように仮面の辺りを漂う。だが仮面にとってはこう視えている。自分辺りを漂う魔素が剣が振る度に、その剣が奏でる旋律に乗り、思い通りに動くさまを。
「――今紡ぐは虚無なる言の葉。……応えよ、そこに在りし視えざる存在よ」
魔法ではない。だから言葉を紡ぐ必要はない。それでもまるで魔法を扱うかのように、仮面は意味のない言葉を紡ぐ。
「風よ舞え。花吹雪に舞う現の夢を乗せ」
いつもと違う言葉。それはいつも使っているのは適当に当てはめた偽りの詠唱。その元、真の詠唱。それを言う必要もないが仮面は続けていく。辺りをきらきらと舞う石の破片がそれこそ花吹雪のようにように見える。
「空に舞い上がれ、我が命を乗せ、風よ舞え。――舞風に散れ」
それは一種の魔法だった。剣術で繰り出される魔法の一種。最後に流派を言うのが決まりであるが、仮面は言わずそれを繰り出した。
風が、いや魔素の嵐とも呼べるほどの技が黒機士に迫りくる。とっさに黒機士は左手を突き出す。魔法を無効化できる黒機士の左手。その左手はあの魔法ではない、魔素さえも消え去る事ができる。
それを見事、黒機士はやってのけた。舞い上がった風はすぐさま収まる。
「――灼熱に染まりその身を焦がし」
その後ろから声が聞こえて来る。あぁそういえばあの黒い姿が前に見えない。また意味のない詠唱……だがそれはまるで死を告げる言葉に聞こえてくる。
「勝利を望み雄叫びを上げ、烈火の牙は血に飢えている。――炎牙の刃に焼かれよ」
仮面の剣は炎を纏っていた。いや炎に見えるだけの何かだ。これも元を辿れば魔法の、これまた剣術の一種であった。黒機士は光線剣で受け止める。受け止めるが纏う炎の勢いに押された。
光線剣は魔法を無力化する。その機能でもこの威力に押された。これは魔法のような、しかし実際は魔素で作られたまやかしの術。ゆえに、無効化がし辛いようだ。
「これは誰の技だっけ。――美しき白き時、伝う冷たさの……あぁ覚えてないな。俺の技じゃないし、使ってる人のを遠目に見てただけだし」
詠唱は中断された。だがこれは魔法ではない。だから術は発動される。炎を纏っていたはずの剣がいつの間にかその刀身に冷気を纏う。
「凄いだろ? 魔素を少し動かすだけでこんな魔法の真似事ができてしまう。でも結局は現象をそうなるように魔素を使って同じにしているだけ。そんな感じの魔法に見せかけた真似っ子でしかない」
魔素も多少自然に動くが、通常の空気中の魔素がこうなることはない。そうであったら今頃世界各地で不可解な現象が起きている。仮面が操るからこういう現象が起こっているのだ。
少しだけ魔素同士を震わせてその結果熱量を持った魔素が炎のような熱を持った。違う振動を持たせて冷気のように冷たさを持った。
火を付けるのに何の道具を使うかが違うだけなのだ。木を擦って付けるのか。火打ち石を使うのか。過程が違うだけで、行き着く結果は同じ。
黒機士も、辺りの地面も徐々に凍りつく。黒機士はとっさにその氷の剣を掴んだ。左手だ。左手の手の平に触れられた箇所から、まとわりついていた冷気が消え、光線剣によりその剣を断ち切る。
その勢いのまま黒機士は斬り込むも、ひょいと手を振った仮面の手元にまた剣が飛んできて、それを使って防御する。
「人の真似をするなって言ったけど、俺は別だよ? だって俺の力なんて他人の力ありきなんだもん。実質的な力は全部、他所頼り魔素頼り。この魔素を操る術だってそうだし……いや一応は俺の、なのか?」
仮面は独り言を言いつつもきちんと黒機士の動きに対応している。
打ち合う剣はなかなか折れない。そういうふうにしてあるからか。
また純粋な打ち合いが始まった。時に仮面が剣の回転を加え交えての攻撃をすれば、黒機士は機械の体を用いた人ではできない動きで対応する。
仮面と黒機士の動きは常軌を逸していた。
仮面の奇妙なだが全てに意味のある剣術と見えはしない魔法のような動きをする魔素による補助。
黒機士の機械仕掛けの予測付かぬ動きによる技と蓄積したデータによる予測攻撃。
その両者の力は拮抗していた。
不意に甲高い音が響く。あたりに浮いていた物が地面に落ち始めた。
《……警告、体内魔力七十パーセントを切りました》
そして仮面が右手にしていた腕輪からそんな機械的な声が響く。
その声に邪魔されたからか一旦黒機士との打ち合いを中断させ、仮面は後ろに引く。
「はいはい分かってる。こっちの画面にも出てるよ。まったくルーサの奴、余計な要素を付けやがって……ちゃんとリミッターは外してあるみたいだけど」
赤く点滅していた腕輪に煩わしそうに触れる。点滅していた光が収まった。仮面の視界の端、内部画面に映る映像にも現在の数値が記されていた。
「ここにはさ魔素がないだろ。だから使うなら自前で用意するしかなくてね。言っただろう、死ぬくらいには本気出すって」
仮面の腕に嵌められている金の腕輪。それは体内の魔力を外に出す魔道具だった。魔力は生物の中や道具に宿るが、一度外に出れば魔素へと戻る。つまりは仮面は封魔石や自分の魔力を使ってこの場に無い魔素を出していたというわけだ。
だがそれは危険な行為だ。この世界の人や生き物は魔力が無くなれば死ぬ。だからこそ、死ぬくらいの本気は出すと仮面は言ったのだろう。
「それくらいの相手だってことさ」
スッと仮面が剣を構える。今までにない真面目な雰囲気でだ。その仮面の空気に押されたのか、黒機士も光線剣を構え直す。
静かに仮面が黒機士に向けて走り出した。交じわる剣はもう何度目だろう。剣を使い捨てながら左右上下様々な所から斬り込む仮面に黒機士は返してみせる。
その時だ。仮面の動きが黒機士を捉えた。光線剣を持つ手を弾き、光線剣は宙を舞う。その隙をつき、一撃を浴びせようとする仮面の剣が回る。
回る剣。手元を少し離れていた。だからだろうか、黒機士はその剣を仮面の剣を奪う。つい先程、仮面が黒機士の剣を奪ったかのように。
「――だから真似っ子はダメって言ったのに」
そんな無慈悲な言葉が緩やかに進む時を刻む両者の間に響く。
黒機士の振った剣は仮面に届かなかった。
新たに取り出した仮面の剣がその刀身に力を乗せて、黒機士へ迫る。
防御すればできるかもしれない。だが――黒機士は静かに剣を下ろした。
直後に辺りに吹きすさぶ激しい突風。それは仮面があの一撃で起こした物だった。辺りの地面でさえめくり上がる程に。柱にヒビを入れる程に。
「――はい、終わり」
巻き上がった砂煙が収まりつつある中、そんな軽い声が聞こえてきた。晴れてきた煙の中。そこに立つのは仮面と――剣先を喉元に当てられた黒機士だった。
どこか驚くように黒機士は仮面を見ている。それもそのはずだ。あの一撃を受け、黒機士は敗れていた。黒い破片を撒き散らし鉄クズへと変わるはずだった。しかし黒機士に剣が届くその直前で仮面は動きを止めたのだ。
「何を驚いてる? 俺が求めてたのはお前に――いや君に勝つことだよ。それだけさ。だからこの勝負は俺の勝ちね」
そう言うや仮面は剣をしまう。そしてスタスタと歩きだす。
「相手を殺す必要はないでしょ。勝ち負けを決める勝負にそんな物は必要ないね。第一俺は人殺しはしない主義だから」
すれ違いざまに黒機士の健闘を労うようにその肩をポンポンと叩く。
「君が使命を最後まで全うするならあの時剣を下げない。最後まで敵を殺す為だけに動く機械なら今だって動いているはずだ。……本当に君がそんな存在だったら俺はあの時剣を止めていない」
不意に黒機士の前に物が飛んでくる。それを取りよく見ると先程落とした光線剣だった。柄の状態のそれを手に黒機士は後ろを振り返る。
歩き去ってく黒い背が見えた。
「…………」
――だが黒機士は動かなかった。静かに去っていく勝者の背を見つめたまま……。




