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黒き仮面剣士の異界道中  作者: 彩帆
第一章 白塔の幽霊と黒き剣士
28/35

28・扉の先

 そこはどこかの管理室だった。

 あらゆる場所の映像を映したいくつもの画面が並び、青白い光を部屋いっぱいに輝かせている。


 ――その影は一つの画面を見ていた。入り口からゆっくりと入ってきた者を確かめるように。



 ◆ ◆ ◆




 相変わらず白い街。〈白塔の都〉。そのダンジョンはもうすぐ他との道を閉じようとしている。

 そんな中にも関わらず、黒い仮面を被った者は何の緊張感もなしに白く固い道を歩いていた。


「さぁてと……君は宣言通り出てこないつもりかな?」


 話しかける相手などいやしない。仮面の言葉は誰もいない街の風に消えてく。いつものと同じように見えて、今の街並みは違って見える。

 それは改変を間近に控えたからだろうか、いつもより不気味なほどの静けさがあった。それでも構わず、仮面は進んでいく。


「あいつも出てこない。君たちはどこに居るんだい?」


 仮面はあの幽霊でも探しに来たのだろう。だが幽霊は現れない。

 あの黒機士も現れない。

 会おうにも出てこないからには、彼らを探さなければならないが彼らの居場所は知らないはずだ。

 何せこの街を様々な者達に隅々まで探索されてるにも関わらず、それらしき場所などなかった。


「ここはどこもかしこも探索され尽くした。ずっと通いつめていた俺もそんなこと分かってる」


 だが仮面は迷うこと無く歩いて行く。仮面はまるで行先など分かっているかのように。


「でもさぁ……一つだけ行ってない場所の検討は付いている。一番この街で目立っていて、誰も踏み入れていない場所」


 仮面はふと足を止めた。そして静かに上を見上げる。ここは街の中心街だ。その中央にそびえ立つのは一際大きな塔。そそり立つ白い塔はこの街の端にいても見えるほどだ。

 塔の頂上は霞んでいてよく見えない。上まで外から飛んで調べた者によればこの街の空を写す天井部分に繋がっているらしかった。ちなみに外からの入り口は地上部分しかなく、上層部分からの侵入はできなかったそうだ。


「入り口は誰にも開けられない。だからここには誰も踏み入れていないんだよね。もう街のどこにもいないんだったらここしか考えられないだろ」


 その大きな入口の前に仮面はいた。入り口は以前ケビンの爆弾によってこじ開けられようとしたが失敗に終わっている。それ以前もそれ以降もこの扉を開けられた者はいない。


 そんな塔の中を誰も知らない。仮面でさえもこの中には入ったことがなかった。


「君たちはここにいる。そうでしょう?」


 扉の前で仮面は話しかける。その中の、扉の先にいるだろう存在に語りかけるように。


「これで違ってたら嫌だな」


 そう言いつつ仮面は扉に近づいていく。扉を調べるように触ったり叩いたりしていた。


「ふむ……相変わらず硬そうな素材。さらに魔方式で強度を強化している。魔方式のほうはなんとかできそうだけど、問題はこの扉の元々の強度かな?」


 仮面は一旦扉から離れていく。そして手に剣を持ち静かに構えた。


「なんだっけ? こう扉を開けるときの決まり文句は……あぁそうだ! ヒラメ、コーラ!」


 そんな絶対に開かないような掛け声と共に、仮面は剣で扉を斬る。

 扉と剣が当たる寸前、魔方式が発動した。

 だが、一瞬だけ出現した魔方式は剣に当たった瞬間にスッと消え去るように消えていく。

 このような消え方はありえない。少なくとも通常の壊れ方ではない。魔方式自体が消え去るかのような壊れ方だったのだ。


 そのような壊れ方をした魔方式の効果が消えた扉に向けて仮面の剣が当たった。その瞬間、辺りにキンッと甲高い音が鳴り響く。そして仮面の剣は折れるどころか無残にも粉々に砕けて散った。


「ありゃーやっぱ扉がかったいな~。魔法ならどんなのでも打ち消せるけど、純粋に硬いやつは無理なやつだってもう」


 さらっと凄いことを言いつつ、仮面はむくれるように頬をふくらませる。そんな顔してもまったく可愛くなどない。


 どうやら魔方式……魔法のほうはどうにかなったらしい。だが扉の純粋な硬さには仮面でもお手上げらしい。


「ここで使うか? でも斬った感じ相当な硬さだ。だから力は温存しときたいが……」


 何やら考え込むように仮面は立ち尽くす。せっかくここまで来たのだ。どうにかして扉を開ける方法を考えているらしい。


「仕方ない。少しだけ――」


 散々悩んでいた仮面がまた動き出した時だった。


 ――目の前の壁が二つに割れた。

 それは当然扉だ。この高くそびえる塔の。扉は左右にそれぞれゆっくりと引いていき、驚くほどに暗い室内の中が現れた。


「うっそ……もしかしてさっきの呪文のお陰? ヒラメ、コーラで合っていたんだな!」


 そんなわけがない。そもそも仮面の言葉は間違っている。

 だが扉は開いた。仮面もなぜ開いたのか分かっていない。もちろんあの呪文のわけがない事を仮面は分かっている。


「誰かが開けた、そう考えるのが妥当か。だけど開けたのは誰かな? きっとあの子じゃなさそうだし。まぁいいや」


 仮面はそれ以上の詮索はやめたのか、開け放たれた入り口にゆっくりと近づいていく。


「罠だろうがなんだろうが、行くか。未知の場所に踏み込むのは新たな発見の一歩だ。その新たな発見を、俺が一番乗りで見てやろうじゃないか!」


 そう言って仮面は扉の中へと歩きだした。

 入り口の光が徐々に無くなり辺りは真っ暗闇だ。

 きょろきょろとあたりを見渡していたその瞬間、仮面の足元が光り輝く。


「うん、知ってた〈転移魔方陣(テレポーテーション)〉。これは罠だな」


 もう少し危機感を持ったらどうだろうか。ものすごく嬉しそうな表情で誰に向けることなく仮面は呟く。発動された〈転移魔方陣(テレポーテーション)〉により、仮面の姿はその場から消え失せた。



 ◆ ◆ ◆


「で、ここどこ?」


 目を開けるとそこは緑一色だ。白い空間に今までいた目を慣らすようにしつつ、辺りを見渡す。良く見ればその緑は植物の葉っぱであることが分かる。辺りは木々が生い茂り、地面には湿った土が靴を若干濡らす。


「……別のダンジョンに来た? わけではないか」


 あれは〈転移門(ワープゲート)〉で別のダンジョンにでも飛ばされたのだろうか。そう思った仮面であるが空を見上げて気がついた。その遠くには青はない。あるのは灰色の壁のような天井だ。太陽の光かと思われた光もどうやら人工的に作られた光のようで、天井辺りに光る丸い物がいくつか浮いている。


「まだ〈白塔の都〉の中……かな?」


 ダンジョンというには異様な光景だ。通常のダンジョンあらば偽の空でも広がっている。それとも改変中であるからこのような壁が見えるのだろうか?


「どっちにしろ……進めばいいんだろ? そうじゃなきゃな」


 後ろを振り返っても戻る道はもうない。ならば進むしかないだろう。


「だけど、雑魚どもの相手をしなきゃならなさそうだな」


 そういう仮面の辺りの草むらが揺れる。

 その先、生い茂った草を掻き分けて森の奥から何かが現れた。


 黒い昆虫のようなもの。いくつもある足で草をかき分け、仮面の前に現れた。だがその数は十は超える。いやそれ以上のようだ。


「この辺りだけで百は超えてるよね? それ以外の魔物もいる……本当ここどこだよ、ブッザルーアさん知らないかい?」


 その魔物の名称を呼んで話しかけるが、目の前の虫は何も言わない。


「虫だけに無視するなんて酷いよね。というかみんな俺が話しかけても何の返答もしてくれないとか……」


 魔物が返事などしない、そんな事は分かっているだろうに仮面は肩を落とす。一部には言葉を喋り、意思疎通のできる魔物がいるにはいるが。


 その仮面に対して一匹の魔物が突っ込んだ。口は人を一人飲み込まんほどに大きく開けられ、無数の牙が向く。それはもうただの虫ではない。血肉を貪り、生きる邪悪な怪物(イキモノ)だ。


「まぁいいや。お前ら雑魚に構ってる暇はないんだ。さっさと退いてもらおうか」


 迫りくる一匹は二メートル……いやそれ以上だ。通常個体よりも大きなそれが襲いかかって来ているにも関わらずに、仮面はただ手を数度振った。


 その瞬間、何かに叩きつけらたかのようにその魔物は地面に墜ちる。硬い甲羅は簡単にひしゃげ、地面と一体化したかのように体は一枚の紙のようになってしまっていた。血溜まりに沈む仲間の残骸にどこか周りの魔物が一斉に動きを止める。


「ここいいよね。本当にいい環境だ」


 そういって仮面は深呼吸をする。美味い酸素を吸い込むように深い息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出す。


「別にこの環境じゃなくてもお前らが雑魚なのには変わらないけど……まぁ俺の目的はお前らじゃないからね。利用できるモノは利用しない手はないでしょ」


 そう言った仮面の手には剣ではなく銃。そしてジャラリと数個の鎖が足元にへと落ちていった。


「さぁ、死にたいやつから前に出ろ。俺は魔物相手の雑魚には手加減も、礼儀もつくさんぞ!」


 声に被さるように銃声は鳴る。その弾丸は狙い(たが)わず、怪物を突き抜けた。






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