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黒き仮面剣士の異界道中  作者: 彩帆
第一章 白塔の幽霊と黒き剣士
21/35

21・黒い人

「おかしい、おかしいねぇ……一体何処からこの白い奴らは湧いてくるんだ?」


 仮面が目の前に迫るガーディアンに銃弾を撃ち込みながら、思わず呟いた。


 非戦闘員である研究者達を守りながら調査隊は、ガーディアン達の攻撃を掻い潜って進んでいく。護衛である治安局の者達は優秀であった。


 魔法を用いており、ガーデアン達の光線銃の嵐をいとも簡単に無力化していた。しかし、大量にいるガーディアン達をいくら倒そうと、また同じ量のガーディアン達が現れる。


「生命力の高い虫だな。まるでブッザルーアみたいだ」


「あぁ、あの大きな黒い虫の魔物だな」


 リーシャが忌々しそうにその魔物の名を口にし、それにケビンが答える。ブッザルーアとは魔物の一種で体長二メートルほどの黒い昆虫だ。その大きさとしかも一度に大量に現れる為、ダンジョン内で出会いたくない魔物の上位に入るほどだ。


「あいつらも嫌いだが、この鉄人間はもっと嫌いだ。だって食べられないからな」


「私はどちらも勘弁願いたいね」


 心なしか、リーシャの撃つ銃弾一つ一つが威力を増したようにガーディアン達を射抜いていく。そしてケビンがボタンを押せば、設置した爆弾が遠くにいるガーディアン達を吹き飛ばしていった。


 だがそれでもガーディアン達の数は減らない。一向に増えるばかりだ。


「なぁ、井原。これはちょっとまずい状況だと思わないか?」


「だな」


 目の前のガーディアンからの攻撃は治安局員の魔法によって防がれているとはいえ、それもいつまで持つか分からない。


 魔力がなくなれば魔法は使えなくなる。その魔力の元となる魔素はこの都市機能に全て使われており、この市街地にはない。


「ケビン、まだ爆弾は残ってるな?」


「あぁ……だがここは遺跡ではなかったか?」


 井原の言わんとしている事が分かったのか、ケビンがそう聞く。


「今は緊急事態だ」


 井原が答え、その後治安局隊の方と連絡を取る。少しばかり話した後、にやりと笑い仮面を見る。


「手伝え仮面。細かい指示はケビンに聞くといい」


「いいだろう。んで、俺は何をすればいい?」


「今回の私の子を預けるのは嫌だが……まぁ仕方ない。これを持って行け。あそこの一角につけろ。私の計算が正しければそこでいいはずだ。まぁ私が間違えることはないがな。いいな、手荒に扱うんじゃないぞ?」


 渋々と言った表情で仮面にケビンがある物を渡す。そして説明を受けた仮面が調査隊から離れていく。その離れていく瞬間、誰もガーディアン達でさえ気づかなかった。


 ガーディアン達に囲まれた調査隊から脱出した仮面は、ケビンの指示通りの場所に着くと、そのケビンから貰ったものを設置した。


「よし、俺は離れたぞ。いつでも大丈夫だケビン」


 仮面がその場所から離れていく。しばらくして爆発音が轟いた。仮面がケビンから渡された物は、もちろん爆弾だ。仕掛けられた場所は近くの細長い建物。その建物を支える支柱を爆破したのだ。


 ケビンによって計算され、その思惑通りに建物は棒を倒したかのように呆気なく倒れていく。倒れていく先にはガーディアン達がいた。


 大きな音と土埃が辺りを覆い尽くす。しばらくして轟音と舞う埃が収まると、大量にいたガーディアン達の姿は消え失せ、代わりに大きな瓦礫の山が出来上がっていた。


「あーあ、せっかくの立派な建物壊しちゃって……俺知らないからね」


 爆弾を仕掛けた本人である仮面が思わずそう言うほどには、瓦礫の物語るものは凄かった。


「よし、今のうちにこの区域を脱出するぞ。他のガーディアン達が現れないとも限らなからな」


 井原の言葉に隊員一同が頷くと、他の調査隊たちと連携を取りながら動いていく。



『魔法も使わずにこの威力……先ほどの扉の爆発物といい予測はしておりましたが、まさかこれほどとは……』


 立ち去っていく彼らを遠くから眺めるユウ。調査隊の一員の中で一切魔法を使わない者達が居たが、彼らの持つ力は侮れるほどではないと改めて認識した。


『彼らならばこの状況でも地上に戻れるでしょう。それを見届けてから――』


 その時、ユウの視界に何かが映った。それを探すとそれはすぐに見つかった。


『――なぜ? なぜ、貴方がここに?』


 黒い影は建物の上から何かを見つめている。その視線の先を追えば、彼らの姿。


『まさか……待ちなさい! 貴方の役目を忘れたのですか。彼らは今は関係ないと認識でき――』


 ユウの言葉が聞こえているのかさえ分からないが、ユウは黒い影に語りかける。しかし、その黒い影はユウの言葉を無視して素早い速度で姿を消した。



 ◆ ◆ ◆



「なんだ、この反応……」


「どうした仮面?」


 仮面が突然足を止めてを前を見つめた。その仮面を不思議そうに井原が見る。


「敵か? ガーディアン達がもう来たのか?」


「……なんか違う。しかも一体だけだし」


「だが何かいるんだな。しかし、よく分かったな。さっきの時といい、妨害魔法かなんかで探知魔法やそれ系統は一切使えないってのに……」


「俺のこの“仮面”は優秀な端末だからな! あ、欲しいって言ってもやらないからな?」


「そんな悪趣味な仮面はタダでもいらん」


 自分の“仮面”を指差しながら言う仮面に井原がそう返す。そんなやり取りを聞いていた者が一人。


「……俺はあんちゃんの仮面にそんな機能つけた覚えはねーぞ」


 製作者の小さな呟きによるツッコミが入る。仮面はルーサに向けて黙れと言いたげに、口元に人差し指を立てた。


 仮面を作ったのはルーサであるがその情報は秘密にされている。そういう約束を仮面と取りかわしているからだ。だからルーサも声を上げて製作者とは言わない。


 さて、この都市には妨害電波が飛び交っており、あらゆる探知魔法や物が使えない状況だ。一体仮面はどうしてこの事が分かったのだろうか。ルーサの作った仮面には探知機能などないというのに。


 そうこうしている内に、仮面の言った反応はすぐに姿を現した。調査隊の進路を塞ぐように、建物の上からそれは降ってきたのだ。その体は金属質の固い体で、人の形を成している。その姿は今まで出会ってきたガーディアンと似ているようで、だが決定的に違うと人目で分かる。


「……白い人の次は黒い人か」


 その身は全身を黒色に染まっていた。造られた太陽光を反射し、黒光りしている。手にはガーディアン達が必ずと言っていいほど持っていた銃はなく、何も持っていない。


「ただ色が黒いだけだ。さっさと片付けて逃げるぞ!」


 調査隊の誰かが言った。その声に合わせて何人かがその黒い人に向けて魔法を放つ。炎の矢や雷の槍といった魔法が、かの黒い人に迫る。黒い人は逃げること無く、いや、その向かってくる魔法に向けて突っ込んだ。


 誰もが自殺行為だと思ったその時、黒い人は左手を前につきだした。その左手の手のひらと最初の攻撃であった炎の矢が衝突した瞬間、その手のひらに吸い込まれるようにして炎の矢は消えていった。


 そのまま右腕の部分から飛び出た棒状の物を取ると、それを展開した。それはビーム状の物が剣の刃の部分になった物……一種の光線剣とも言える代物。それを手にした黒い人は続けて来た雷の槍を斬って防いでみせた。


 その一連の動きから、誰もが思った。この黒いガーディアンは普通のガーディアンとは違うと。黒いガーディアンは治安局の護衛隊と交戦しだした。それは見ても分かるほどに、護衛隊は手も足も出ない状況であった。


「ひっ来るなあああ!」


 崩れた防衛を抜けて今度は研究者にもその牙をかけようとしたその時。もう一つ、現れた黒い影が振り下ろされようとした光線剣を持つ腕を抑えた。


「そんなに戦いたいなら俺が相手になってやろうか?」


 全身を黒ずくめにし顔の半分も黒色の者、仮面が黒い人を止めたのだ。掴んだ黒い人の腕を掴んだまま投げ、建物の壁に打ち付ける。その投げ出された勢いは凄まじく、黒い人が壁にめり込むほどであった。


「ユウ、いるんだろ。あいつはなんだ」


 壁にめり込んだ黒い人を見つめつつ、仮面は聞いた。その声に答えるように仮面の隣に青白い光とともにユウが現れる。


『……この街のガーディアンの上位存在です。街の警備兵と比べ物にならない強さを持っています』


「なるほどね……」


 壁にめり込んだままの黒い人は、その赤い目のような光でユウと話す仮面を睨む。直後に壁を蹴って、仮面に急接近したかと思うと手に持った光線剣で斬りかかる。空気の焼け焦げる音とともに振り回されるそれを、やすやすと仮面はかわしていく。


 突き出された黒い人の腕をまた仮面が掴めば、そのまま膝蹴りを腹辺りに食らわせる。黒い人はその衝撃によろめきながらも、仮面から距離を取り体制を立て直す。その赤い光は絶えず、仮面を見つめている。


「ここじゃやりづらい。俺と戦いたいならこの場を離れようじゃないか」


 そう言うなり仮面は調査隊から離れるように走りだす。黒い人もそれに続くように走りだした。


「おい、仮面!」


「俺の心配は無用だ。お前たちはさっさとこの街から出ることだな!」


 声を掛けてきた井原にそう返し、仮面は走る。


 こうして二つの黒い影は、白い街中に消えるようにして姿を消した。



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