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「ぺりえ」
呆気にとられて、呆然としている私にぺりえは相変わらずのマシンガントークを繰り広げているが、内容はさっぱり理解できなかった。
「リナリア嬢から離れてくれる?」
なくた様のそのひと声で、意識を取り戻す。
「ぺりえ、どうしてここに?」
彼は庶民で、私は貴族。もう会う事は無いと思っていたのに……。
「あんたが、リナリアの婚約者?」
私の問いかけには答えず、私をさらに強く抱き締め、なくた様に向かって問いかけるぺりえ。
その声に少しビクッとなる。
……明らかに、なくた様に敵意を持っていると感じられる。
「そうだけど」
「じゃあ、話が早い。リナリアを俺にくれないか?」
「……そういう事は俺に聞くものでは無いだろう。リナリア嬢に聞け」
「え……私?!」
突然話を振られ、必要以上に驚く。
だって、まだ何も頭の中整理出来て無いんだもの……けど。
「ごめんなさい、ぺりえ」
心は決まっていた。
彼が庶民だから……、そういう理由も勿論あるが、何より彼をなくた様より魅力的に感じられ無いのだ。
友達としてなら、とても最高だと思うのだけれどね。
「もういいだろう、ぺりえ・バルトロメイ。……帰ろうリナリア嬢」
そう言って無理矢理私とぺりえを引き剥がすなくた様。
「え……?」
「どうした? リナリア嬢」
「彼の名を、もう一度言ってもらえますか?」
「ぺりえ・バルトロメイの事か?」
唖然とする。
私が今まで庶民として接してきた人物は、貴族だった。
……それも、バルトロメイ家の息子。
完全に理解した途端、顔が青ざめて、寒気がしだした。
バルトロメイ家は、なくた様や私と同じく三大権力と呼ばれる王家に次ぐ権力を持つ家だ。
そんな方に、私は今まで数々の無礼を……。
「ぺりえ……さま」
だが、今さら彼を様付けで呼ぶのは躊躇された。
「……リナリア? 」
そんな私を不思議そうに見つめるぺりえ。
「なくた様、少し彼と二人きりで話がしたいです。良いでしょうか?」
「……あぁ、構わ無いよ」
妙な間が有ったものの、なくた様は快く申し出を受け入れてくれた。
「ぺりえ、こっちへ」
今更、彼への対応を変えるのはあからさま過ぎて逆に申し訳ないと思ったので、今まで通りに接する事にした。
彼も、それを望んでいる、、はず。
それにしても、なくた様はぺりえの事を知っていたのね。
対等に、なくた様と会話をしている時点で
私も気付けられたはずなのに……。
そんな事を考えている内に、人目のつか無い裏庭までやって来た。
そこで、私達は足を止める。
先に口を開いたのは私だった。
「色々頭が混乱してて、上手くまだ整理出来てい無いのだけど……。私、ぺりえは庶民の方だと思っていたわ。だから、この学園に居るだなんて、少しも思っていなくて驚いたわ」
「それは、俺だって同じさ。あれから、リナリアが居なくなって途方に暮れていた。リナリアとなら、例えこの身分を捨てても良いと思っていた!」
「ぺりえ……」
確かに、あの時の彼はそれ位の覚悟をしていたのかもしれないと納得する。
「それは、今も変わっていない!」
「……私にはなくた様が」
「あいつが、そんなに好きか?」
「……え?」
切羽詰まったような声で、問いかけるぺりえ。
好きか? なんて考えた事も無かった。
なくた様は婚約者、それしか今まで頭に無かったのだ。
「分からないわ……」
「それなら!」
「けど!」
彼の言葉を遮る。
「ぺりえよりは、好きだと思うの」
「……だけど、まだ完全に好きじゃないんだろ?」
「そうね、多分」
恥ずかしながら、恋がどういうものかまだ私には分からない。
胸が締め付けられたり、苦しくなったりするものだと言われているが、まだそんな事は、今まで生きてきて1度もない。
「なら、賭けをしよう」
「賭け?」
「そう。リナリアが俺を好きだと言えば俺の勝ち。言わなければ俺の勝ち」
「そんなものして、どうなるの?」
「気持ち的な問題かな? その方が燃えるって言うか……」
困ったように頬を掻きながら言うぺりえ。
「良くわからないど、いいわよ」
賭けとやらに興味は無かったが、何だか面白そうだったので乗ってみる事にする。
「サンキュー! それで、俺に勝ち目はあると思うか?」
「何故それを私に聞くの?」
賭けとやら強気に出たと思えば、すぐ弱気になる姿勢に思わず吹き出した。
「そうね〜……、好感度表記だと、なくた様が80で、ぺりえが20って所かしら?」
怪しい笑みを浮かべ答える。
「道のりは険しいな」
それから、2人して笑った。
ちょっとだけ、ワクワクしてしまったのはぺりえには内緒。




