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まもる者~promise~  作者: ユガミウ(旧名 立花 優)
高校生活は波乱の予感?
5/28

十年前

なんとか、間に合いました。




十年前ーーー


「おーい。お姉ちゃーん…。どこー?」


「ほら、はやく!こっちだよ、緑!」


西洋の建築様式を用いた建物、広い庭には色様々な花が咲いている。ここは黒崎家本家だ。

そこに立つ、黒く巨大なその樹は、ずっと昔からあるもので、燃えることはなく傷つくこともない、黒崎家の象徴。家紋のモデルだと聞いている。


「ここだって!時間なくなっちゃうよ!」

楽しそうな声が聞こえるものの、僕にはその姿を確認することはできない。

このもどかしさに、ふてくされ始めていた。


「もう…しょうがないなぁー………わっ!!」


「うわぁ!!」


姉は突然(・・)後ろに現れると、驚かして来た。


「…ん?なーに、泣いてるの?」


「だって…だって……。」


「ごめん、ごめん。お姉ちゃんが悪かったからさ。ねっ。よしよし。」


そう言って、頭を撫でてくれた。僕はまだ、子どもだった。



お姉ちゃんは、天才だ。僕にだってわかる。

黒崎家では、五歳から本格的な魔術を学ぶけど、その時既に、中学課程までを理解して、黒崎家の秘術…闇属性の上位魔法を学び始めていた。

両親は大変喜び、一族始まって以来の神童に期待を寄せた。

一方の僕は、五大属性を扱うことができず、その血のおかげで、闇属性のみは使えていた。

そんな僕は一族から、責められず、家族としての愛情はもらっていたが、七大名家、黒崎家の人間としては、扱ってもらえなかった…。それか、僕には辛かった。


でも、唯一僕の力を信じて止まない人がいた。それが、お姉ちゃんだ。

お姉ちゃんはいつも僕を元気付けてくれる。今日だってそうだ。お姉ちゃんは、稽古で大変なのに、休み時間になると、すぐに来て遊んでくれる。

そんなお姉ちゃんが、自慢で、尊敬して、大好きだった!



お茶会があり、火野家の人が来るらしい。世間(・・)に知られていない僕は、いつもなら部屋に隠れてるけど、今日は違う。

黒崎家は、火野家とは初代から、海原家とは先代大和じい様とまでは交流していたので、当然、僕のことも知っている。

しかし、憂鬱だった。火野家の一人娘、なつちゃんが、僕は苦手だからだ。



お父様の隣にお姉ちゃんは立つ。その隣に僕は心中そわそわしながら、並んでいた。

すると、火野家当主…なつちゃんのお父様となつちゃんがやって来た。僕は、すぐにお姉ちゃんの後ろへ隠れる。

お父様は、呆れたように笑い。なつちゃんのお父様は苦笑い。なつちゃんは、呆れたように僅かに睨む。

お姉ちゃんは、そっと、手を握ってくれて、大丈夫。そう、微笑んだ。



始まったものは、お茶会とは名ばかりに本命は、次期当主の親交を深めること。

僕は、未だにこの場に馴れることのできず、不安に俯いていた。ふと、隣を見るといつものお姉ちゃんはいなかった。

神童、黒崎紫。

八歳とは思えないほど大人びた振る舞いでこの場を支配していた。

一方、なつちゃんもお姉ちゃんとまではいかないも、僕と同い年とは思えないほど落ち着いていた。


二人の姿を見て、僕はどこか寂しかった。




いつもなら、お茶会が終わると、

お父様たちが話し始めるので、子どもの僕たちは三人で遊んでいた。でも、今日は違った…。お姉ちゃんもお父様たちと一緒だった。

残された僕は、なつちゃんをチラチラ見ながら困っていた。


「緑、そんなんでいいの?」


「な…何が…?」


「すべてよ!全部!確かに紫さんはすごいよ!でもね、緑も黒崎家の人なんだよ!それにいつか、わたしにもお父様たちのようになるんだよ!」


「で、でも…僕は期待されてないし……五大属性は使えないし……どうせ、なにもできないよ…無駄だよ…。」


なつちゃんは、苦虫を噛み潰したような顔をすると、自分を抑えるように僕に背を向ける。


「本気でやってもいないのに、できないって諦めてたら、本当に何もできなかった時に、きっと後悔するよ…。だから、あたしは七大名家、火野家次期当主の誇りにかけて絶対に諦めない!」


そう言うと、なつちゃんは行ってしまった。

なつちゃんが、稽古で伸び悩んでいるのを知ったのは後の事だった。




あの日、あのお茶会からお姉ちゃんの様子が変だ。

元気が無くて、考え込んでいるようだった。

心配だったけど、僕はどうしたらいいのかわからなかった。


そうしてしばらくたった、ある日。

僕は、夜中にふと目が覚めた、ザワザワと樹が風に揺れ身震いがした。 僕はトイレに行くことにした。





月は紅く、不気味に輝いていた。





トイレを済ませると、部屋に戻ろうとするが、そのあまりの静けさ…まるで、誰もいないような静寂を感じたが、恐怖からとにかく、部屋に戻りたかった。





何時の間にか風は止み、闇が深まる。





僕の部屋は、階段を上がった右手の奥、お姉ちゃんの部屋は左の奥だ。

僕は、ドアノブに手をかける。


ガシャン!!


反対側、そう…お姉ちゃんの部屋から、窓ガラスの割れたような、大きな音がした。と同時に、僅かに魔法の発動を感じた。


僕は室内を扉の僅かな隙間から覗く。



そこには、黒いローブに身を包んだ二人の男に取り押さえられたお姉ちゃんがいた。

ガラスで切ったのか、頬には切り傷があり、苦しそうに顔をしかめていた。

僕は、急いで誰かを呼びに行こうとするが、身体が動かなかった。

あの姉が負っているこの状況を理解することができず、ただ、驚き戸惑っていた。

男の一人が、電話を始めた。そこで、やっと状況を理解した僕に恐怖が襲って来た。

幼い、世間を知らない僕にとって、お姉ちゃんこそが、最強だった。だからこそ、その姉が敵わない相手に、僕ができることがあるのだろうか。

もう冷静にはいられなかった。

そのため、僕は後ろから来る存在に気がつかなかった。


ドカッ!


鈍い音がして、僕は室内へと蹴り飛ばさられる。

驚きよりも痛みが勝り、僕は涙を浮かべて、顔をあげる。

そこには、驚く姉と男たち、入り口には僕を蹴ったであろう、青年がいた。


「ぎ、銀さん。どうしたんすか…そのガキ。」


銀と呼ばれるその青年は、銀色の前髪をかき上げると睨みつける。


「てめぇら、見られてたんだよ。だから、あれだけさっさとしろと言ったんだ。」


殺気を含んだ、氷のように冷たいその雰囲気に男たちは息を呑む。


「まあ、いい。そのガキを殺せばいいだけだらな。」


そう言うと僕と目が合う、途轍もない恐怖に襲われた。


「まって!今、殺すっていうなら、わたしはここで自殺する!」


銀はお姉ちゃんを見ると。


「…いいんだな(・・・・・)?覚悟はできてるのか?」


「…構わない。」


「フッ…いいだろう。」


そう言って、銀は楽しそう(・・・・)に笑った。


「おい!俺は準備(・・)があるから、先に行く。てめぇらは連絡を待て。余計なこと、すんじゃねぇぞ!」

そう言って、銀は窓から出て行った。


銀がいなくなると、男たちは安堵した様子で、僕を睨みつけてきたが手は出さなかった。


そうして、沈黙が続いていたが


「緑。お姉ちゃんね、緑はわたしより強くなると信じてるよ。緑にはね、緑だけの力だってあるんだから。……だからね………緑にあげる。」


お姉ちゃんは短くつぶやくと、黒い光が僕を目掛けて飛んでくると、僕の中へと入って行った。


「あ…熱い…。」


まるで、栓を取ったように湧き上がる何かに戸惑う。


「てめー、なにしやがった!」


そう言って、男はお姉ちゃんを叩く。

すると、もう一人の男が、


「おい!ほっとけ!時間だ。」


そう言って、男たちはお姉ちゃんを立ち上がらせ、窓へ向かう。


僕は恐怖を殺して男の足を掴む。


「はぁはぁ……待って!どうして連れて行くの……!」


「なんだガキ、邪魔なんだよ‼」


腹を蹴られる鈍い音がして、僕はうずくまる。


「やめて!!緑は関係ないっていってるでしょ!」


「……ふん、おい!いくぞ!」


そう言うと、男たちはのお姉ちゃんの腕を引く。


お姉ちゃんは首だけこちらに向けると


「緑、強くなって!強くなって……あたしを……あたしを助けてね…。約束だよ…!」


そう言って、微笑んだ顔はとても悲しかった。

そして、窓から男たちはお姉ちゃんを連れて出て行った。



何もできなかった。そんな自分が情けなかった。

僕は、ずっとなつちゃんの言葉が、頭の中を巡っていた。


(結局、なつちゃんの言うとおりだったんだね…)


涙が頬を伝う。僕は、朦朧とした意識の中、涙をこぼしていた。




「銀さん!連れてきました!」


黒崎家を見渡せる丘の上に銀たちは立っていた。


「おい!」


そう言うと、林から紫と同い年の女の子が現れた。

紅い月に紺色の髪が照らされ妖しげな雰囲気を醸し出していた。


「さっさとやれ。」


銀は少女に言い放つ。


「まって!何をする気?」


「なーに、ちょっとおとなしくしてもらうだけさ。」


男たちが抑えると、少女が紫の前に行き囁くが、


「…っ!?」


「…無駄よ。わたしに貴女程度の闇の魔法は効かない。」

紫は蔑むように言う。


少女は悔しそうに、歯を食いしばる。


「フッ、ならばしょうがない。多少予定は狂ったが計画の第一段階を始めるとしよう。」


銀は、紫に目を向ける。



「…ごめんなさい…緑…。」


そう言って、魔法を発動させる。

その先には、黒崎家本家があった。




涙が止まらなかった。

僕はお姉ちゃんの部屋に倒れたまま、動けずにいた。

身体は熱を帯び、体内で何かが蠢いて(・・・・・・)いて、蹴られたところは赤く腫れ上がっていた。


すると、魔法の発動を感じる、同時に大きな爆発音がし、身体に強い衝撃が奔る。そこで、僕は意識を失った。




紫が発動したのは、火の上位魔法、【紅蓮】だ。

当然、このクラスの魔法は火野家の人間でも使えない者もいるのだが、神童には容易いものだった。


紫にとって、この計画は賭けだった。

そう、計画の第一段階は、【黒崎緑の力を目覚めさせる】ことだった。

神童(・・)の立てた推測では、この五大属性(・・・・)の魔法で攻撃を与え窮地に追いやることで、覚醒するはずだった。

しかし、一歩間違えばこの先の計画はすべて狂ってしまうばかりか、愛しい弟を失ってしまうため、紫は気が気でなかった。



だか、やはり緑はやってくれた。紅蓮は、緑を除いてすべてを焼き尽くした。緑の立っているところだけは、まるでかき消されたかの(・・・・・・・・)ように、火が及んでいなかった。


「第一段階はクリアだ。てめぇら、帰るぞ!」

銀が声をかけると、男たちは銀を追いかける。

紫はもう一度緑を見ると林の中へと消えて行った。



月が黄色く輝いていた。




何もない、真っ白なところに僕は、立ち尽くしていた。

突然声がする。


ーーチカラ貸してやるヨーー


だれ…?


ーーココデ死なれても困るからなーー


だれなの…?死ぬって?


ーー今のオマエじゃ、死ぬぞーー


何を言ってるの?早くここから出してよ!


ーーフッ、せいぜい生きて、我を楽しませてクレーー


僕は、空間ごと闇に呑まれていった。

すると、さっきよりハッキリとした声が聞こえる。


ーーお前のチカラで生き延びてみろーー



僕は、気がつくと焼け野原、否、黒崎家跡に立っていた。

見覚えのある巨大な樹は、燃えることなく黒々とそこに立っていた。


(さっきのは…?)


しかしもう、僕の心と身体は限界を超えていた。

突然、身体の痛みが襲い、再び意識を失った。





目が覚めると、目の前には見覚えのない天井が目に入る。

僕は、身体を起こそうとするが、痛みで動けなかった。

心臓に手を当て、生きていることを確認する。

すると、お医者さんたちが入ってきてようやく病院にいることを理解する。

その後あれこれ調べられた僕の元に、大和じい様となつちゃんのお父様がやってきた。

僕は大和じい様に助けられたようで、黒崎家は焼き尽くされており、皆行方不明…ということらしい。

僕は色々と聞かれたが、お姉ちゃんの部屋で倒れて、その後何かあった気がするけれど、よく思い出せなかった(・・・・・・・・)


「緑坊や…これからどうするんじゃ?」


「………。」


「もう、黒崎家滅んだ。敵の目的はおそらく嬢ちゃんで、あとは邪魔だったのじゃろう…。このまま一人、敵に怯えながら生きるのもありじゃろう…。そこで提案なのじゃが、黒崎の名を捨ててワシの元に…海原の元に来んか?」




二ヶ月後、()は海原家の道場にいた。

あの後じいちゃんに甘えることにした俺は、黒崎の名を捨て、黒崎緑は死んだ。

そして、じいちゃんに拾われた捨て子ということで、海原家の養子となった。

一週間、二週間と経つに連れて徐々に受け入れ始めた俺は、大切なものを失わないため、約束を果たすためにじいちゃんの弟子となった。



そして今、計画は第二段階へと動き始めていた。


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