決着
遅くなりました。見捨てずありがとうございます!今回は久々なのに短いです…ごめんなさい…新作も書いているので良かったら目を通してもらえると嬉しいです。
「それはお前らの負けということで良いのかの?」
頭上の赤髪が砕いた空間には言葉では形容し難い光景があった。“空間の破壊”と呼ぶべきだろう。俺自身もよくわからない。ただ無限に広がる黒い空間があるだけだ。
「う……うわぁぁぁぁ〜ん。お、お姉ちゃ〜ん!」
「「へっ?」」
俺たちは思わず間抜けな声が出た。
「お姉ちゃん……。」
「………よしよし。大丈夫、私たちは負けない。」
「…うん。」
「萌。あれ使う。」
「わかったよ、お姉ちゃん!」
先輩たちは手を繋ぎこちらを見てくる。
「さっきまでの…同調は魔力の波長を合わせただけ…。本当のシンクロ…魅せる。」
しかし相変わらず見た目に変化はなく、ただ先ほどと同じように魔力が同調しているのを感じるだけだ。
「………。」
無言のまま、桜先輩は再び俺へと向かって飛び出して来る。風に乗り低い位置を飛ぶようにして一蹴りで迫って来る。
振るってきた大鎌を難なく躱し、距離を取りながら【疾風無風】にも警戒する。
すると、大鎌を振るうのとは明らかに違う動作を目に捉えた、はっきりとではなく僅かに。俺はすぐに横へと避けると体制を立て直した、さっきまでいた場所の地面に亀裂が入っていた。当然会場も沸いた、ほんの一部の者にしか今の攻防はわからなかっただろう。しかし雰囲気から感じ取ったようだ。
一方、赤髪はただ見ているだけで何もしようとしない。
「どうしたんだ、赤髪?疲れたのか?」
「フン、笑わせるな。誰が疲れたものか、この体で使える限界ギリギリの魔法を使ったからの。反動だ。」
「情けないな。」
「誰の所為だと思っておる。お前が我を受け入れぬからこうなるのだ。」
「お前の殺すことで満たされる欲求に付き合ってられるか。」
「まだ言うか…。あの時は我だけでなく、お前の理性も混ざっておったがの。それを棚に上げるか。それは調子がいいのではないか?それよりほら、今はせいぜい集中しろ、お前が死ねば我も死ぬからな。」
納得いかないが、確かに話しながら相手をできるような人ではない。
「……【鎌鼬】」
大気を切り裂き風は俺の元へやってくる。
「おっと!」
軽く躱すと着地と同時に剣を振るう。
ー【漆黒の彗星】ー
こちらは地面を抉っていくが防がれてしまった。互いの実力は拮抗していた、だが俺は気づくべきだった…否、忘れていたことが変な話だ。
相手が一人ではなく、二人であったことを…。
*
「ゔっ………!」
目の前に桜先輩は立ち尽くしている…しかし俺の胸…心臓の僅か右には大きな刃、大鎌の刃が貫いていた。
「くっ…我もここまでか…まさかこの我まで騙すとは…。小僧!次に会う時は…契約の時だ…。」
そう言うと赤髪は形を失い血となり地面へと流れてゆく、途端に俺の身体がふらつく。
(さっきまでなんともなかったのに…この状況で貧血か…それより…)
俺は後ろに目をやるとそこには萌先輩がたっていた。
「忘れていましたよ…否、完全に存在していなかった。間違いなく相手は一人だと疑わなかったですよ。」
「にゃははー。これがあたしたちの本当のシンクロ…【シンクロ・レラジオーネ】。これは魔力の同調を君の脳が、相手は同一人物で一人しかいないと錯覚させる、いわば精神干渉魔法の一つだよ。」
先輩が大鎌を胸から抜いたが、血は僅かしか流れない、さらに身体は限界に達しており膝をつくと視界には大きく抉れた地面が映ると最後の手段が思いついた。
「もう君の負けだよ。それ以上すると本当に死ぬよ?」
「…では…最後に…言わせてもらいますね……。俺は…諦めません…黒渦!!」
突然地面は黒い沼となり動きを止める、さらに地面を割り数多の黒渦が飛び出す。
四方八方は黒渦・殲に覆われ、蜂の巣寸前だ。
「はぁはぁはぁ…。」
連続の大規模魔法に息も上がり、先輩たちも動けずにいた。二人はアイコンタクトをとると萌先輩が降伏の宣言をした。
*
観客席 七大名家席
「やるな大河、お前の息子。まさかうちの桜と萌を負かすとは。」
「俺もビックリだよ。緑がそこまで強くなっていたとは…。これも父さんのおかげかな…。」
「大和さんか…。だけどこれからが大変そうだな。七大名家長老会が黙ってないだろうな…。」
「あぁ…、おそらく。」
大河はこれから起こりうる出来事を想像しながら憂鬱になりつつも、息子の素晴らしい成長に喜びも大きかった。
*
あの後担架で俺は救護室に運ばれると、すぐに病院に移された。
輸血の必要があるとのことで病院に行くことになったのだと言うことを救護の先生に教えられ、現在は深夜。
今夜は入院で明日の朝には退院でき、明後日の二回戦には間に合うとのことだ。
(運が…よかったな…)
決して楽な戦いではなかった。正直なところ俺の中のアイツが出てこなけりゃ負けていただろう。悔しさ、不甲斐なさが溢れかえる。わかっていたはずだった、でも心のどこかで学園でも十分にやっていけるほどの実力はあると思っていた。
(まだまだって…ことか…)
今回はこれでいい。認めて向上心さえ失わなければ…。
*
「緊急の七大名家総会を行う。今回は緊急ということで音声のみでの総会とする。ことについては、本日より始まった“日本魔法第一学園校内戦本戦”についてだが、海原家長男にあたる海原 緑が黒崎家秘術と思われる魔法を使ったことは知っていると思う。彼は養子として先代海原家当主 海原 大和によって保護された、以前の経歴は不明。大和、間違いないな?」
「ああ、間違いないの。」
「大河も間違いないな?」
「はい。」
僅かな沈黙の時間が流れる、誰もがその一瞬を何時間にも感じるほどの緊張感があった。
「ふむ…わかった。では本日はこれにて解散とする。次回は本戦終了後とする。」
次々と接続が切れていき全ての名家の接続が切れると、七神源一郎は一息つく。すると背後に人が現れた。
「彼は一体何者だ?」
「十中八九、黒崎家の血の者だと思われます。魔力波長、血液から黒崎刻夜様と結夜様と同様に近いものを検出しました。」
「そうか……ところで彼はやはり“セラフ”なのか?」
「まだはっきりしていませんが、可能性としては高いかと。」
「ふむ。では下がっていいぞ。」
「はっ!」
再び一人だけの部屋となった。
「セラフであるとしたら…奴らも動いているだろう。やはり大和は全てを知っているな…。日本の我らに対する反発か、はたまた孫の可愛さゆえか…。いずれにせよ、やることは変わらない。」
様々な思惑の中、本戦は進んでゆく。




