校内戦予選~暗殺者vs秘匿者~
お待たせしました!校内戦予選も中盤です!
(少し冷んやりするな…)
フィールドに立って初めに思ったことはめちゃくちゃ寒い、というわけではないが適温よりは低く冷んやりした空気が漂っていることだ。雨美の魔法によって下げられたものだと考えられ、コートを羽織っていたのでそこまで寒さを感じることはなかった。
三回戦、ここがこのFブロックの一度目の山場だろう。コートの襟に首をうずめ相手を見る、黒い髪をツインテールに結い、俺のように黒を基調とした上着にショートパンツ、腰にあるポーチのようなものの中には多くの暗殺武器があるのだろう。この女、鬼道雅は容姿も女子高生らしいのだが正真正銘の暗殺者だ。しかも黒崎家のガラードなのだから油断ならない。
黒崎家はそれ自体も異質でありながらそのガラードもまた異質な…いや、一流の一族を選ぶ。そして黒崎家の裏の守護者、表に出ることなく陰のガラードとして鬼道の一族は貢献していた。この鬼道家を含む黒崎家のガラードたちは再興を願い、どの名家のガラードになることもせずひっそりと暮らしているそうだ。
閑話休題。
彼女は静かに所定の位置まで来ると止まり俺を睨む、俺は昔一度だけ姉さんに会いに来ていたから姉さんから話は聞いている「目が悪くてどうしても睨んでしまう娘がいる。」と、だから俺は不快に思うことはなかった。俺も所定の位置に着くと開始の合図を待っていると鬼道が話しかけてきた
「あなた…何処かで会わなかった?昔…。」
「気のせいじゃないかな?俺にはそんな記憶ないけど。」
「……おかしいわね、何だかあなたとは始めて会った気がしないわ。」
「何?告白か?まだ初対面だからな、YESとは答えられないぜ。」
「…………。」
彼女は静かに手を後ろに回すと鎖鎌を取り出す。
「せいぜい死なないでね。わたしあなたみたいな腐れ変態が大嫌いなの。」
どうやらさっきのやり取りで怒らせてしまったようなので謝ろうとするが無情にも試合開始の合図が鳴った。…それから俺は変態じゃない。
彼女は合図と同時に鎖を俺の脚に絡ませると手前に引き、俺はバランスを崩して倒れこむ。
「うぁぁあっ!」
間抜けな声をあげているうちに距離は詰められ鎌が振り上げられるが左手で剣を抜くと身体の前に出して鎌を防ぐ。
「へぇ、やるのね。そんな重たそうなの片手で引き抜くなんて。」
「まあ…な。俺のはお手製なんでな。」
「でも…もう変態の負けよ!」
ポーチから細い針を取り出すと先端を口の中に入れ、それを俺の左腕に刺すとすぐに距離を取った。
「うっ!…何のつもりだ?こんな小さな針で何がしたいんだ?」
「すぐにわかるわよ。ほら、そろそろ効いてきたんじゃない?わたしのそれは即効性がウリだから。」
左手が痙攣を始めて剣を握っていられなくなる。
「まさか…毒…?」
「正解。わたしたち一族の秘術はどうかしら?
最初は痺れ、次に感覚を失い、最後に毒は身体全体に巡って……死ぬわ。どう?もう変態の負けよ。早く降参して治療したほうがいいんじゃない?」
「……確かにヤバイかもな。でも…腐れ縁との約束もあるからな。やれることは全部やるさ!」
俺は右手に剣を持ち直すと素早く振って砂ぼこりを巻き上げ俺の姿が見えないようにする。
「何のつもり?今更変態が何かしたところで毒の巡りを早くするだけよ。」
「そんなもん、やってみなきゃわかんないだろ!」
俺は【魔力武装】を纏い地面を飛ぶようにして蹴り、巻き上がった砂の中から物凄い速さで彼女の前まで来ると剣を一閃、しかし鎌に防がれてしまう。
「へぇ、前の試合の最後に見せた速さね。間近で見るとより速く感じるわ。でも……速いだけじゃ、わたしには勝てないわよ!」
ツインテールの髪が怪しく動き、俺の身体に絡みつこうとするが素早く下がり回避する。
(唾液の毒…動く髪の毛……そうか!こいつの力は…)
「…不思議な力を使うな。それでお前ら一族は“呪われた暗殺者”なんて呼ばれるんだな…納得したぜ。」
「……なぜそれを知っているのかしら?それは公式的には知られていないはずなのだけど…変態、あなたは一体何者なのかしら?」
「そうだな…。あえて言うなら“海原家の汚点”かな!」
再び詰め寄ると目にも留まらぬ剣舞を披露する。
ー【剣舞 桜吹雪】ー
四方八方から斬りかかるこの技は常人ならまず反応することすらできなかっただろう。しかし彼女は全て見極め防戦一方ではあるが反応していた。
(片手だから…なんて言い訳にもならないな。鬼道家がここまで手強い相手だとは…黒崎も恐ろしい奴らを集めたな…。)
異端の名家、黒崎家の勢力の片鱗を見た気がした。
*
(くっ……なんて奴、こんな速さ普通なら反応しきれないわよ。)
わたしは生まれつき目が良くない、普通なら眼鏡やコンタクトを付けるべきなのだろうけど家業…暗殺者にとってそれはあまり好ましくない。目が傷つく可能性は高いし、失われれば視力を失うのと同じだからだ。小さな頃から殺気・気配を感じる訓練を受けてきたおかげで、視力の追いついていかない速さでさえ気配で追うことができるようになっているがこの変態相手にはそれも限界に近い、本来であれば変態に毒が回る数分を耐え抜けばいいはずだった。
(どうしてなの!なんでこんなに動いてまだ毒が回らないの!)
そして焦りはわたしの些細なミスを誘った。
(しまっ…!)
集中力だけでなく体力も奪われていたわたしは脚が絡まりバランスを崩してしまった、その隙を見逃さない相手ではない。目の前には蹴りが迫っていた、すぐにガードを取るが蹴り飛ばされ地面を転がる。
「バランスを崩してもすぐにガード、受け身を取るか。」
「いいわ、海原緑。わたしはあなたを舐めていた。ただの運だけで勝ち上がってきただけじゃなさそうね。わたしの本気であなたに勝ってみせる!」
「それは楽しみだな…もっとじっくり闇魔法【妖術】を見たかったんだ。」
「……そこまで知ってるのね。本当あなた何者なのかしら?」
「それは…」
「でも、あなたが何者であっても関係ないわね…肩書きなんてどうでもいい。今わたしの目の前にいる“海原緑”と戦っているのだから!」
わたしは腰から針を数本取り出して先端を口に含む。
【妖術~毒液~】
魔法陣が浮かび上がることもない闇魔法妖術はわたしたち一族の秘術で、この世界にある数少ない無詠唱魔法の中の一つ。まさに暗殺のためにあると言っても過言ではない。むしろ妖術があったからこそ、わたしたち鬼道家は暗殺の一族として栄え、あの黒崎家のガラードとなることができたのだろう。
閑話休題。
同時に全ての針をあの男に飛ばすが剣で弾かれる。だがそんなことは予想の範囲内だ。わたしは刃で指に傷を付けると腰から取り出した紙に血を垂らす。
【妖術ー式分身ー】
紙に魔力を注ぐと紙はもう一人わたしとなった。
「本当面白いなその魔法。」
「いつまでその余裕が続くかしらね。」
わたしたちは二手に分かれると、毒液付きの針を当てるように確実に狙っていくが巧みに躱される。気が付けば地面には多数の針が刺さっていた。
(こんなところね…)
「速いわね、それが噂に聞く魔力武装ってやつかしら?」
「魔法の詮索は無しだろ?」
「ええ、そうね。わかったわ。」
(魔力武装とは…また随分なものを使うのね。やっぱりこの男は侮れなかったわね。)
「本当にあなたは不思議だった。またいつかあなたとは戦いたいわ。」
「おいおい、それじゃまるでもう勝負がついたみたいじゃないか。」
「今度こそあなたの負けよ。もうあなたは逃げることができない。残されたのは棄権か…細切れだけよ。」
ー【糸方陣】ー
*
フィールドに刺さった数多ある針が光ったかと思うと魔法陣が浮かび上がり、針からは糸が伸びていてそれはフィールド全体に伸びていき張り巡らされる。
(これは…まずい……)
「これはただの糸じゃないわ、魔力で作られたピアノ線の切れ味を持ちながらその耐久性は金属並みの糸。」
「油断していたよ、そんな魔法を隠していたなんて。」
「これは魔法じゃないわ。これは魔力だけを必要とする“魔法装具”。アメリカで開発された魔力を持つ人間であれば誰でも使える新技術。世界にはもうすぐ発表されるわ。これはその試作品。」
「でも見たところ魔力を流したようには見えなかったんだが。」
「流したわよ、わたしたちが立つこの地面を伝ってね。その後魔力は針にある魔法陣に流れ込むと発動した。ってわけ。どう?棄権しなさい。わたしは今すぐにこの糸で首を刎ねることだって簡単よ。」
ここまでか……。
*
「今日は疲れたね~。明日が休みで明後日から準決勝だね!」
全員小さく頷く。
「でも今日はみんな凄かっね。夏ちゃんもいつの間にあんなに強くなったの?」
「あたしもそんなに休んでたわけじゃないってことよ。それより菜瑠だって、また速くなったんじゃない?」
「そうだよ!あれは速すぎるよー。」
「そうかな?そ、そんなことより緑さんも凄かったです。最後のあれって…。」
「えっ?ああ、菜瑠が思ってるように光を遮断したんだ。」
「そうだよみどり君!なーんにも見えなかったんだよ肝心なところがさ!」
「全くね。」
「悪い悪い、本戦まで秘密にしたいこともあったんでな……ってみんなどうした?」
「……こほん。その……あんたがさ本戦に出ることを前提に話してるから、二人とも驚いてんのよ。」
「…えっ?…ああそうだな……。でも今回は聡のためにも本戦にいってあいつと戦わないといけないんだ。あいつのあんな目…初めて見たからさ。」
夕焼けに赤く染まる空間にはセミの鳴き声しか聞こえない。名家の本家が多くあるこの町には自然も多く残っている。
「大丈夫だよ!みどり君なら流星君にも勝てるよ!」
「そ、そうですよ!わたしも応援してます!」
「…ありがとな。」
*
「あーあ、参ったな。ここまで追い込まれるなんてね【象悪】」
何も変化がないように彼女は感じているのだろう。しかし会場は大きくざわめき出した。
「何のつもり?何をしたの?」
「これから見たことは他言無用にしてもらいたいんだけど…。」
「…答えになってないわよ。何をしたの!!」
「そんなに怒るなよ…今この会場の奴らに俺らの姿は見えていない。正確には奴らの目にここの光が届いていないんだ。」
「魔法…?あなた魔法は使えないんじゃ…。」
「そうさ五大属性魔法は少しも使えやしない……おしゃべりはこれくらいだ。あまり長いと怪しまれるからな、荒れろ!」
纏っていた魔力は細い数多の糸となり俺の身体を中心に鞭のように荒れ狂い糸を断ち切っていく。
「そんな…わたしの糸は金属にも引けを取らないはずなのに……。」
「残念だったな、お前の魔力よりも俺の魔力のほうが濃く鋭利だった。それだけだ…。」
俺の動きを封じていた糸は無くなった。しかしそれは俺の周りだけであってフィールドには張り巡らされたままだ。俺は剣を背中の後ろに構える、ちょうど脇が空き多少隙はできただろう。
「しっかり構えろよ。下手するとただじゃ済まなくなるからな…」
剣に魔力を集め纏わせる。三回戦でここまで力を出すことになるなんてやはりこの学園は強者揃いだ。
ー【漆黒の彗星】ー
地面を抉り、糸を断ち切る。全てを呑み込みその黒い彗星は彼女の元へと向かっていく。
「っ!【妖術ー式防壁ー】…ぐっ……!きゃあぁぁぁぁっ!」
そのまま壁まで追いやられると衝突したが、意識を保ち耐え切った。しかし身体はボロボロだった。
「よく耐えたな。もっと本気でやってもよかったようだな。」
「はぁはぁ……うっ!」
彼女は膝から崩れ落ち、俺の左腕から血が流れていることに気づいた。
「……あ…あなた…まさか……その腕…。」
「そうさ、毒が左腕腕にあるうちに流したんだ、もちろんすげぇ痛かったけどな。でもこれしか方法がなかったからな。」
「……そこまでして…。ふっ…あなたが…“汚点”なんて呼ばれるなら……わたしたちはそれ以下の…何かね。」
「ははっ!何かってお前…」
「いいわ、わたしの負けよ。」
俺は【象悪】を解き会場もやっと見えるようになったので皆食い入るように見たが、戦況の変化に驚いていた。
そして会場に降参の宣言が響く。
ーリザインーーー
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