満月に動くもの
最長です。6000字超えました。
ゴールデンウイーク初日、俺はあいつと修行をするために学園へ向かっていた。
(そういえばあいつ…名前なんなんだ?)
修行中には滅多に呼ぶこともないし今まで不便はなかった。
(でも…聞くべきだよな…。)
今日にでも聞いてみようか、そんな事を考えていると学園に着いた。
俺は図書館へ行こうと歩みを進めていると、校舎から一人の女子生徒が出てきた。
(ん?あれは…。)
「おーい。菜瑠!」
俺が声を掛けるとビクッと身体が跳ね、少し驚いたようだ。
「み、緑さん。おはようございます。」
「おはよう。何してんのこんなとこで。そういえば今気づいたけど昨日、合同修練の時いなかったな。」
後半は冗談めかせて言ったのだが、菜瑠の反応は予想外のものだった。
「そんな……そうですよね…。私なんていつも影か薄くて…気づいてもらえるはずないですよね……。私なんて…ブツブツ。」
「ご、ごめん菜瑠!冗談だって!な?」
するとパアーッと顔は冴えていった。
「そうですか!そうですよね!!緑さんなら気づいてくれますよね!よかったです!ああ、そうでしたね昨日ですか?昨日は家の方でどうしてもやらないといけない事があったんで、学園は休ませてもらったんです。だから今日、色々配布物とかを取りに来たんです。」
「そうだったのか。まあ何だ…色々大変だったな。お疲れ。」
そう言うと、途端に菜瑠は顔をトマトの様に赤く染める
「い、いえとんでもない!そ、それではまた。さようなら!」
そそくさと帰って行った。
(忙しいやつだ…。)
*
「来たな。今日からは【魔力武装】の応用と【黒渦】を中心に修行していく。覚悟しておけよ。」
そうして修行は始まった。
「剣に纏わせるためには…いや、そもそも【魔力武装】の利点は何かわかるか?」
「そりゃ身体強化とか。例えば同じ魔力の弾を撃つにしても様々な属性の付加可能とかか?」
「そうだな、それも一つある。でもこれには更に大きな利点がある…それは形態変化がしやすい事だ。」
「形態変化ってあれか?伸びたり縮めたり…。」
「そう。お主が気づいているかわからないが身体に纏うこと自体も形態変化の一つと言っていいだろう。つまり、形態変化が自在ということはそれだけ戦闘のバリエーションも増えるわけだ。正直早速やってみろといってなかなかイメージもつきにくいだろう。だがお主はすでに感覚なら掴んでいるんだか…わかるか?」
「……もしかして【黒渦】か?」
「そう!お主はすでに【黒渦】によって形態変化のイメージはついているんだ。そのイメージがあれば【魔力武装】の形態変化は深く修行していく必要はないだろう。では話を戻す、剣に魔力を纏わせることだが…まあこれは簡単だ。身体に纏わせた時のように剣に…その纏わせたいものに魔力を注ぐようにして纏わせれば問題ない。じゃあやってみろ。」
俺は目を瞑ると言われた通りイメージする。身体から右手へ…そして《ダーインスレイヴ》へ…。目を開けると確かに剣に魔力は纏っていて、剣脊が黒く唯でさえ禍々しいこいつは一層魔剣へと化していた。
しかし反してその魔力はフニャフニャで、とても強化された様子はない。
「ははっ!最初はそんなもんだ。慣れてくればこうなる。ハッ!」
そいつの手にあった剣に纏う魔力は鋭く俺のものとは雲泥の差だった。
「そしてお主はこのレベルまでなってもらう。」
そう言うと、剣の先から魔力が伸びていく。そして剣の何倍もの長さになった魔力は変わらず鋭利なものだった。さらに剣を振るうと、その魔力は鋭さをそのままに鞭のようにしなった。
「と、まあこんな感じに自分が望むように形態を変えていけばいい。まずは鋭くするところからだな。イメージは魔力で剣を作るようにして薄く鋭くだ。」
「ウラァァア!!」
剣のはじき合う音がする。
俺は今、剣に魔力を纏わせて剣を振るっていた。この一日である程度の鋭さには達したが、せいぜい三回刃がぶつかり合えば欠けてしまうほど耐久性が低い。鍔迫り合いでもやろうもんなら一瞬だ。
「はあはあ、まあ今日はこれくらいにしておこう。ここにいた時間は大体十時間。現実では十九時ということになる。今日はそのまま現実の時間に繋ぐがいいな?」
「え…はぁはぁ…。あ、ああ…問題ない…。」
「さすがに何度も纏わせていれば疲れるか。だがお主の魔力量は本当に大したもんだ。常人ならもう意識を保ってられないぞ。」
「ま…まあな。自分でも驚いてるよ。ところでさ、お前の名前…聞いてなかったよな。」
「そうだったな…俺の名前ね…。もう随分昔過ぎて忘れてしまった。そうだな…。」
するとニヤリと笑う
「そうだな、せっかくだから“先生”なんて呼んだらどうだ?」
(ったく…子供かよ。)
そう言いつつも呼びやすくなったことに変わりないのでこっちとしてもよかった。
「わかったよ。“先生”」
俺が呼ぶのが意外だったのか驚いていて戸惑っていた。俺はむしろこの反応を狙って呼んでみたので満足だった。
*
「んーっ。それにしても疲れたな。」
図書館を出る頃にはすでに辺りは暗くなっていた。月も出ている様で満足だった。
(綺麗だな…。)
素直な感想だったが、やはり満月なだけに明日の朝を思うと憂鬱だった。
(明日は、修行も休むかな…どうせ身体怠くて身にならないだろうし…ん?)
夜道を歩いているとおかしなことに気づく。
(……まだ十九時だっていうのに静かすぎないか…。)
街灯と月明かりが道を照らすが人影はない。家からは夕食の団欒はおろか物音一つしない。というか人の気配を感じない。
辺りに警戒しながら歩いていると、突然魔法の気配がする…途端に俺に向かって炎が迫り、俺は呑み込まれた。
「ぐぁぁぁぁぁ!」
瞬く間に身体中が燃え上がりその火力を物語るように黒く焼け焦げた。それが生きているかどうかさえよくわからない。
「なんだよ、呆気ないな。こんなに黒焦げになってやがる。」
「アホ。おめーの火力が強過ぎんだよ。」
「しょうがねぇーだろうが、チカラが溢れてくんだよ。」
そこにいたのは例のチンピラだった。
(二人か…それよりも力が溢れるってなんだ…。)
「ケッ!でもこれでこの力は俺のもんだな。」
「だな。それよりもあいつらもうまくいってかな?」
「さあな、どうだろうな。海原…雨美…だったか?あと火野に雷豪もだったな。あいつら一応七大名家の跡取りだろ。簡単にいくといいな。」
(…⁉……あいつらに手を出したら許さねぇぞ。)
「あの人が手を回してくれるって言ってたんだ、問題ないだろうよ。それよりもだ…これどうする?」
「こんな黒焦げ持って帰る必要もねぇだろ。写メだけ撮っとこうぜ。」
「待てよ。誰の命令で俺たちを襲っている。」
「「なっ!!」」
俺は炎に呑み込まれる寸前で【象悪】を使うと俺は闇に紛れ、俺の幻影をそのまま炎に呑み込ませた。これは【象悪】の応用の様なもので、前に師匠相手に使ったあれだ。
俺は闇から現れると同時に《ダーインスレイヴ》を引き抜く。そしてそこのまま片方を蹴り飛ばすともう一人の首を掴む。
「言え!誰にその力を貰った。誰の命令だ!」
「……はっ…言う…か…よ。」
俺は首を掴む強さを強くしようとするが、雷が俺を襲う。
(チッ、どうしてまだ動ける?気絶させるつもりで蹴ったぞ。)
後ろに下がる様にして避ける。
「あービックリしたな。こいつなかったら死んでたかも俺。」
(なんだあれは!!)
そいつの身体には黒い何かが蠢きながら纏わり付いていた。右手には十字架のように傷が浮かび血が流れていた。更にはさっき飛ばされた時に頭を打ったのか、頭から血が出ているが気にした様子がない。
「ハハハッ!力が…チカラが湧いてくる!」
「いいな。俺も使わせてもらうぜ。」
そう言うと注射器を取り出し迷うことなく肩へと刺した。
「ぐっ…。」
すると先程と同様に右手に十字架が浮かび血が流れる。そして黒い何かが男の身体を包んでいった。
「ハハッ!スゲぇよ!チカラがみなぎってくる!」
すると瞬間男は俺との間を詰めてくる。気づいた時には懐に拳を入れられていた。しかもその拳には黒いそれが纏わり付いていた。
「ぐはっ!!」
俺は信じられないほど重い一撃を受け、吹き飛ばされた。よくやく民家の塀にぶつかると塀は砕け散り俺は止まった。
「ぐっ…。」
しかし油断している暇はなく、俺の元に黒い炎が迫っていた。俺も【黒渦】を使って対応する。大きく身体の前に盾のように広げ身を守る。
(なんだあいつら…これほどの闇魔法は黒崎家のレベルだぞ。)
俺は痛む身体に鞭をうち立ち上がる。そして【魔力武装】で身を包む。
「絶対に…負けない!!」
俺は【魔力武装】によって強化されたスピードで相手に迫る。男たちは一人後ろに下がると魔法を紡ぐ、もう一方は剣を構えると向かって来た。
剣と剣とがぶつかる音がする。
やはり今までのあいつらとは重みが違う。
「くっ…【黒渦】!」
俺は自ら動く魔法…そう召喚魔法【黒渦】を奥の相手へと向かわせる。
「くっ!なんだよこいつ!」
【黒渦】は無生物の召喚獣だ。普段は俺とリンクし俺の意志で動いているが、リンクを切ればそれはそれ自体として活動する。
奥の相手を【黒渦】がしているうちにこっちを片付けなければならない。
「いいのか?おめーの唯一の攻撃魔法じゃねぇのか?」
「情報が漏れていたか…ハッ!お前ぐらい俺だけでも十分さ!」
「フッ、強がりを。」
凄まじい剣舞が繰り広げられ、一進一退の攻防が続く。
「チッ!埒が明かねぇ。そらよ!」
一歩下がった相手は魔法を発動した、素早く紡がれた魔法は小規模な黒い炎で、俺は素早く剣を振るって炎を振り払う。
(ここで決める!)
左手で【時空蔵】を開くと中から《S&W M500》を取り出し魔力を装填する。
(くっ!)
凄い勢いで吸われていく魔力に思わず顔をしかめる。
「くらえ!!」
凄まじい脱力感と共に弾が放たれる。いつもよりも多く装填したため、弾は球となって相手へと襲いかかる。
男は驚き慌てて魔法を放って相殺するがその際に爆発が起こった。
俺はここぞとばかりに爆発の煙に紛れ男に寄ると腹に蹴りをいれ、さらに後ろに回ると首に剣の柄で衝撃を与え意識を刈り取った。最後は念をいれて【象悪】で動けなくしておいた。
(なんとかなった…【象悪】の人に干渉する精度を上げないとな…。)
今の俺では狙いを定めるのが難しく、動きの速い物体に干渉するのを困難としている。
(でも…まずは…。)
*
【黒渦】は魔法をくらいながらもすべて呑み込んでいた。
「何だよ!全部呑み込まれてるじゃねーか。」
黒崎の秘術を記した魔道書。その中でただ唯一俺が記憶していた秘術【黒渦】。俺の記憶では、姉さんも使っているところを見たことがないが、俺はこの十年で会得することができた…いわば俺の十年の結晶。黒崎家として生まれてきた俺の意地だった。
そして【黒渦】は全てを呑み込みそれを糧とし、発動に魔力は必要ない。魔法を人を…何かを呑み込むことによって力を貯蔵し、尽きない限り発動できる。
【黒渦ー殲ー】
「ウグッ!」
気を取られ過ぎてこちらの勝負がついたことに気づいていないのか、突然全身から鋭い棘が生えてきたことに驚き距離をとる。
「チッ!何だあいつ負けたのか。フッ、でもあいつは魔法自体得意じゃなかったしな、あんまり使いこなせてなかったもんな。まっ、俺はそんなじゃないけどな!!」
そう言うと同時に雷と炎、両方の魔法陣が浮かび上がる。
(二重詠唱⁉)
二重詠唱。それは七大名家でも使えない者がいるほどの高等技術だ。使い方としては水と風を融合させて氷属性を生み出すなど。七つの属性とは別の属性を生み出す時に使われる。
しかし、こいつはただ単に同時に二つの属性の魔法を発動しただけだ。つまりこれもさっきのドーピングで得た力だろう、だから組み合わせるという方法を知らない。
二つの魔法は俺へと襲いかかる。黒い電撃に黒い炎…見るからに強力な魔法が近づいてくる。
ここまで強力だとそれなりの魔法でないと対処できないだろう。
この世の理で属性に対して優劣はある。火は水に弱く、水は雷に弱い。雷は大地に弱く、大地は風に弱い。風は火に弱く、闇は光に弱い。そして光に弱点はなく、闇が優位な属性は存在しない。どの属性がどの属性に強いかは逆をみればわかるだろう。だが実際は属性による優劣は存在しない。火であっても強力であれば水を蒸発させ、優劣を逆転させる。つまり魔法の強さこそが優劣を決めるのである。
閑話休題。
俺は再び身体の前に【黒渦】を張り
【黒渦ー無ー】
大きく広がったそれはまさにブラックホール。迫り来る魔法を全て呑み込んだ。
「くそっ!」
男は次々に魔法を放つが全て呑み込まれてしまう。
「無駄だ…諦めろ。誰の命令でここに来た?言わないならその脚を喰らって動けなくしてからでもいいんだぞ。」
鋭く睨み脅しをかける。
「ケッ!俺が言うと思うか?それに俺はまだ負けてねぇーんだよ!」
(ちっ…やっぱり俺に脅しは向いてないのかもな…。)
「そうか…なら……」
ーーーシネ ーーー
「っぐ⁉」
突然胸が苦しくなり身体は焼けるように熱くなる。
(これは…あの時と同じだ…。)
俺は自分の身体をみると再び紅く何かが刻まれていく。よく見るとそれは天使とも悪魔とも言えるような羽根で左胸に浮かび上がる。
視界も紅くなり頭もボーッとする。
ーー喰らい尽くせ【黒渦ー黒炎ー】ーー
誰かが唱える。
「ぐぁぁあ!やめてくれ!助けてくれ!!俺が悪かった!許してく……れ……!」
ふと目をやると男は、燃えるようにして【黒渦】に呑まれていた。そう、紛れもない【黒渦】に…。
そして静寂が訪れ、頭も次第に冴えていく。
ーーフッフッフ!他愛ないーー
「ど……て…。」
ーーん?ーー
「どうしてだ!どうして殺した!俺は…俺は殺すつもりはなかった!……お前は…お前は誰だ!」
ーー殺すつもりはない。か。我は…我らは器の闇に生きている。いわば本心にーー
「…………。」
ーーそして我らと似たものが器として選ばれる。復讐し、強さを求める。それがお前の本心ーー
「違う!!俺は…復讐を望んでいない!」
ーーまあいい、ほら次の客が来たぞ。今日は満月だ気分がいい。このまま見させてもらう。必要なら手を貸してやろう…フッフッフーー
「あれ?あいつら負けなの?ダッセー。」
「全くだな。あいつら粋がってただけかよ!」
「こっちはちゃんと仕留めてきたってのによ。」
「フフフッ、あなた達も結構手こずってたじゃない?」
「それ言ったらダメっすよ。でも結局こうやって仕留めれたんだし!」
そういうとそいつはこちらに抱えていた人を…雨美を放り投げてくる。
「そうですよ。ホラよっ!!」
次に投げたのは夏…そして菜瑠だった。
「どれも傑作だったな。少しお前をチラつかせただけで動きが止まるんだからよ。ハッハッハ!」
「だな!あー俺、腹痛くなってきたわ。」
俺は皆を落ちる前に抱え込むと、優しく端の方へ寝かせる。
俺は俯いたまま話し掛ける。
「どういうことですか…蛇野先輩。」
「どうもこうもないわよ。見ての通りわたしが黒幕。あなたを殺しにきたわ。フフッ。」
「そうですか…。」
ーーフッフッフ…おいおい。そんなにキレてると我が外に出たくなるだろ?ーー
俺は顔を上げそいつらを睨む。その目は紅かった。
「許さない…殺す!!」
どうでしょう?タイトルが決まらないです。
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