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Lapis philosophorum   作者: 愛す珈琲
第七章 overwrite personality
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第90話 jealousy

日曜日、苦い表情をしたお父様からもらった5枚のペアチケットを手に、私達はスパリゾートディルナノーグにやって来た。

私と礼志君。兄さんと義姉さん。久保とイヴォンヌ。優一君と涼介君。ヴィンセント君と優華ちゃん。ルシアちゃんとミナモちゃんの6組に分かれて施設に入り、更衣室へ向かおうとしたその時。


「あー。トリア、ちょっと待て」


兄さんは私をそう言って止めると、私にピコピコハンマーを手渡した。持ち手のところに金色の字で"Hera"と書いてあるけどこれって……。


「更衣室でカーミラが暴走したら、容赦なく使え」


「了解です」


案の定と言うかなんというか、義姉さんがミナモちゃんにお姉さんが胸を大きくしてあげようかとか言って胸を揉みだしたので、後頭部をそれで殴ったら一発で沈黙した。ぼがんと恐ろしく大きな音にビビったけど、「痛い」と涙目でこっちをにらんで来る余裕があるなら平気だろう。


じゃあ、私も着替えようかな。服を脱ぎ、下着姿になったところで私の胸をわしづかみにする人が。


「だーれだ?」


「何揉んでんのよ、ばか!」


振り向きざまにヘラハンマーで犯人の額をごすっと小突くと、涙目でそこを押さえながらフィオナがこっちをにらんできた。


「ただの、後輩のお茶目じゃないですか」


「胸揉みながら、自分の胸を私の背中にこすり付けて来た時点でその抗議は却下します」


「酷いです」


フィオナにじっと見られてたら、まともに着替えもできないわね。彼女に全身を串刺しにする幻覚を与えようかと思ったその時、ルシアがフィオナの手首をつかんだ。


「ヴィクトリアにいたずらなんて、俺が許さねえ」


「……あなた、お姉さまのこと……」


「好きだけど何か?」


二人が火花を散らしている隙に着替えることにした。


「お姉さまと、ノクターンな関係になるのは私よ!」


「お前、女じゃん。俺、心は男だし」


「え?あなた男?でも胸もあるし、ふくらみもないし……あ、あなたがク・ホリンの言ってた子ね!」


ルシアは、女物の水着を着ているからどこからどう見ても女子にしか見えない。女の体に生まれたものは仕方ないし、男の体に作り替えたところでどこかに歪さが残ってしまうんだからそこはあきらめるとか言ってるけど、単に役得とか思ってない?


「性同一性障害の女の子と魔王か。変わった子にばかり好かれるねえ、トリアは」


「あのステファニーって女も、そのうちヴィクトリアに惚れたりしてね」


「何でそうなるのよ!?」


噂をすれば影が差す。ステファニーは友達二人と一緒にやって来た。彼女からすれば出会いがしらの暴言でしかないだろう。でも、彼女を除く友達二人は話に花を咲かせている。


「あー。憎しみを超えて、愛になるってやつ?」


「そうなっても、生暖かい目で見守ってるからね。ステフ」


「どうしてあんたらは、同性愛にそうも寛容なのよ」


とにかく、それが現実にならないよう祈るだけね。着替えを済ませて男性陣を探していると、兄さんと涼介とヴィンセント君が女の子一人と話をしている。女の子がペコペコ頭下げてるけどあれって。


「何、ナンパとかしてるのさ!もっくん!」


義姉さんが兄さんをそう言ってドロップキックをし、二人ともプールに落ちた。


《お客さん!プールに飛び込まないで下さい!》


監視員のお兄さんに、怒られてしまった。女の子によると、しつこくナンパをされていたところを3人に追い払ってもらったので、お礼をしていたところだったらしい。何てベタな。


「事情くらい聞けよ。女連れでナンパするバカが、どこにいるんだ。たわけが」


「ギブギブ……」


兄さんは、気まずげに苦笑する義姉さんにメキシカンバックブリーカーを決めながら説教を始めた。孫悟空の怪力で、しめあげているのだからたまらないだろう。もっとも、義姉さんもゼウスだから死にはしないだろうけど一応止めとくか。


「義姉さんも、兄さんが相手とはいえ男の人に嫉妬するなんてね」


「う……」


うわあ。顔、真っ赤だ。兄さんは、そう言う考え方もあるかと解放したようで何よりだ。

そう言えば、優一君はどうしたんだろう。一緒じゃないの?あ、来た。


「……まさか、水着の上だけ買わされる羽目になるとは思わなかったよ」


優一君は当初、男物の水着を着ていたそうだ。すると、女性の係官に上を着てくださいと注意されたんだとか。自分は男だと主張するも彼女には優一君が男の子には見えず、しかもダメ押しとばかりに涼介がゆいちゃんと呼んだり、胸は大きくても小さくても尊いものだから出し惜しめとか悪乗りしたせいで結局水着のトップスだけ買う破目になったんだとか。揺るがないなあ、涼介。


「涼介。ひょっとして、優一君のこと女の子だと本気で思ってるの?」


「まさか。俺らなりの、コミュニケーションっすよ。ゆいちゃんは、下半身が馬だけあってバスターソード持ってるし、俺はヴィクトリアさんみたいなさばけたお嬢さんタイプが大好きなんで。ギャップ萌えってやつっすよ。その水着、似合ってますね」


涼介の笑顔に思わずどきっとして、赤くなった顔を見せないように私は顔をそらした。

うう、ちょろいなあ私。


「こ、これは義姉さんが見繕ったやつで……調子いいなあ。女の子には、誰にでもそんなこと言うんでしょう」


「そこのウェアライオン。お姉さまを口説くとは、いい度胸ですね」


「ゆいちゃんゆいちゃん言ってるから、ノーマークだったぜ。まさか、本命がヴィクトリアとはな」


「そう言えば、お姉ちゃんって涼介のことは涼介って言うよね。久保さん以外の男子には、君付けなのに。涼介のこと、好きなの?」


礼志君?フィオナとルシアはともかく、何で礼志君まで不機嫌そうに私を見てるの?礼志君だって、涼介のこと呼び捨ててるじゃない。ひょっとして礼志君、涼介のこと好きなの?それで、私にとられちゃうと思ってるとか?同性愛者増えすぎでしょ!?


「ほう。大きくなったな、トリア」


どう返答していいのか分からずあたふたしていると、聞き覚えのない野太い声がした。

そちらを見ると、小さなウェアカピバラの子供を肩車した筋肉隆々の人間の男性が立っている。誰だっけ?左腕が義腕で、こんなに圧倒的な存在感がある人なんてそうそう忘れないはずだけど思い出せない。


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