第87話 素戔嗚尊と大国主がそろい踏み
一部Wikipediaを引用しています。
【モイセス視点】
「モイセス。悪いが、今度の日曜は私に付き合ってくれ」
フィーア先生は授業を終えると、俺にそう話しかけた。
「日曜日は妹たちのデートを見物に行こうと思っていたんですが、先生の用件はそれ以上に大事なことですか?」
「なんでも、誰かさんがうちの生徒を月に叩きつけたらしくてな。月の民に謝罪するついでに、彼女を回収しに行くんだ」
「謹んでお受けいたします」
二の句が告げねえ。今度からは、成層圏ぐらいにとどめることにしよう。
しかし、どうやって月まで行くんだ?
「幻想郷だよ」
日曜日、俺とフィーア先生、それと礼志は博麗神社の前にいた。
何で礼志がここにいるかと言うと、遊園地は嫌な予感がするとのこと。よく分からん。
鳥居の前で、フィーア先生は合掌すると幻想郷に入るための呪文をくちずさむ。
「どきどきぱぺっぽぱぺっぴぽ。ひやひやどきっちょなフィーアたん!」
思わず、正気を疑う文言を口にしたときはどうしたものかと思ったが、その瞬間周りの光景が歪み、さっきまでのそれとは若干の差異を感じる。
「ここが幻想郷か」
「フィーア先生。さっきの呪文、どこのてゐに教わったのさ」
「何で、てゐだって分かるのよ」
礼志によると、呪文がなくても結界を感知すれば入るのはさほど難しくはないらしい。
どうやら、フィーア先生はてゐとやらに担がれたのだろうと言う。
そんなことより月に行こうぜ、月。
「というわけで、これが月に行くロケット。ミミちゃん弐式よ」
紅魔館とやらに着くと、河城にとりと名乗る女の河童は得意げに胸を張っていた。
これに乗って月に向かうそうだ。
「自業自得とは言え、天竺の次は月の都か」
宇宙に飛び出すことには成功したものの、月に降り立つ前にロケットは突如爆発を起こしたので筋斗雲を使って三人で地上に降り立つと、そこに立っていたのは二人の女性。
「そちらには連絡が行っておりませんでしたか?」
「地上人のロケットを、神聖な月に下ろすわけにはいかないから破壊したまでよ。はいこれ」
そう言って、彼女らがこちらに投げ渡したのは確かにステファニー。
取りあえず、生きてはいるようだな。
「何からつっこめばいいのか分からないわ」
「騒がせてすまなかったな。まさか、月に人がいるとは思わなかったんだ」
「浦嶋子から、何も聞いてはいないのか?」
水江浦嶋子こと浦島太郎は、月の都に来ていたそうだ。ただ、彼はここを竜宮城だと偽られていたらしい。
そして彼は3年で地上に戻ることを欲し、情に流された彼女たちにより300年ほど冷凍保存されることで匿われていたんだとか。
「あれ以来、立場が悪くてな。地上人に情けをかけるのは、やめたんだ」
さながら、ぐれた乙姫ってところか。厄介な。
「謝罪はいい。同じことを二度と起こさぬよう、懲らしめてくれる」
どうしたものか考えていると、礼志が彼女らにスペルカードを使った疑似戦闘を申し込んだ。
ルールぐらいは、地上人に委ねさせてほしいと。
「ふん、いいだろう。どのような勝負であれ、我々が負けることなどあるまい」
こうして俺・フィーア・礼志対月の民による弾幕勝負が始まった。
【モイセス視点 了】
今回は輸血だけで済んだこともあり、数日で退院出来たのはいいけど看護師さんにすっかり顔を覚えられ、もうすっかり常連ねなんて苦笑されたのはいただけない。
とにかく、私をボウガンで撃ったのはイヴォンヌに姿を変えたヘルメスだったと聞いて一安心だ。
でも、どんな顔して会えばいいのか分からなかったが本物のイヴォンヌは監禁先で麻雀して遊んでいたと聞いてあきれるやらなんやらでどうでもよくなった。
「ヘルメスが生きてたなんて……」
あ、礼志君があからさまに落ち込んでる。確かに、あれが生きてたら一番の被害に遭うのは礼志君だからなあ。
「それにしても、モイセスと礼志はトリアが入院している間、どこに行ってたんだ」
「「月で乙姫と弾幕バトルしてた」」
何でも月にステファニーを捨てたらそこに人が住んでいて、月の都に住む乙姫こと綿月姉妹とバトルをしてきたんだとか。嘘をついてる感じじゃないけど、何やってるのよ。
「俺、今度ステファニーと戦うときは、成層圏までにしておくよ」
「本当に頼むよ、モイセスさん。俺、もう付き合わないからね」
お父様はふむ、と頷くと礼志君に首輪を渡した。
「これを使うといい」
何だろう、あれ?義姉さんが苦笑してるのが、妙に気になるんだけど。
【てゐ視点】
フィーアもバカね、あんな戯言を真に受けるなんて。
ま、ばれたところでせいぜい小言を言うしかできないだろうけど。
何しろあの子は、私のガイドなしでは迷いの竹林を抜けられないんだから。
ほくそ笑む私に、小さな影が差した。何、この嫌な予感。私の背中を、嫌な汗が流れている。
「因幡てゐ、稻羽之素菟よ。娯楽のためにヒトを騙すとはなんたることぞ」
上を見ると礼志に似た少女の顔をした兎が大きな袋を肩にかけていた。
大きな袋から見えるのは忘れもしない和邇。
「また、赤裸になるか?」
血の気がさーっと引いていくのが分かる。私は知らず知らず土下座をしていた。
「ごめんなさいもうしませんごめんなさいもうしません……」
フィーア。大国様の知り合いだなんて、聞いてないよ。
【てゐ視点 了】
「お早う」
翌日、はちゅは珍しく遅刻してきたので、何故教室にペンギンがいるのか分からないようだ。
ヘルメス・トリスメギストスが、学院に編入してきたから礼志君が変銀の首輪で彼女をペンギンに変えたことを伝えると「ああ、なるほど」と言って席に着いた。
「ねえ、そう言えばはちゅって何の英雄になったの?」
「大国主だよ」
大黒様かあ。神様には違いないけど、戦いはできなさそうね。




