第79話 ヴィクトリアは女子にモテモテ
【ステファニー視点】
「ステファニー・テイラーだな」
そう言って病室に入ってきたのは私を壁に叩き飛ばした槍男と髪の毛を百本の宝石の糸で飾り、胸にたくさんの金のブローチを付けた成金イケメン。
その2人に負けず劣らず筋肉質の男それにビーバーみたいな獣人の女の子の4人。
「見舞いかしら?だとしたら加害者としての態度ってものがあるんじゃないの?」
石突一発とは言え壁に背中を強打し内臓が破裂し全身複雑骨折。下手したら死んでたのよ、こっちは。
「すまない。手加減はしたつもりだったがそれでも余分だったようだ」
確かにこいつが本気で私を襲ったら即死していただろうけど。
「もちろん医療費はこちらで出そう。それと君に提案があってね」
「提案?」
「ヴィクトリア・フォン・ヤマモトに勝ちたくはないか?」
話を聞くとヴィクトリアは魔王の力で英雄の力を得たそうだ。しかもアーサー王。
智と武に長けた王者となれば私とあいつの差は開くばかりだろう。だから彼らは言う。君も英雄にならないかと。
どんな英雄になるかは分からないが英雄になって彼らの仲間になれば合法的にヴィクトリアに勝てると。
「……」
私は頷いた。あいつと今以上に差が開くのは嫌だ。
最初は久保君に自分に振り向いてほしくてあいつに対抗意識を飛ばしてたけど今となってはそれはどうでも良くてただあいつにヴィクトリアに勝ちたいと言う気持ちに変わっていた。
寝ても覚めてもヴィクトリア。何だか私があいつに恋をしてるみたいに……何考えてるんだ私は。とにかく私はあいつに勝てるなら何でもする。
「では姫君。彼女に覚醒のキスを」
「き……キスう!?」
ちょっと何よそれ。姫君ってことは女だし私にそんな趣味はない。男が相手だとしてもそれはそれで嫌だけどさ。
とはいえこっちは大けがで動けない状態。私は話をするのがやっとの状態なのになんてことしようとしてんのよ。
彼女は果物ナイフで自分の小指に傷をつけるとそこから出た血をまるでリップの様に私の唇に塗った。
「Eloim, Essaim Elo'tm, Essaim(エロヒムよ、エサイムよ、わが呼び声を聞け)」
彼女は呪文を唱えるとそのまま騎士たちのところへと戻っていく。これで私は英雄になれるの?
「姫君?何故そんな簡易的な方法を……」
「私の唇と唇を重ねていいのはヴィクトリアお姉さまだけです」
「ちょ……それはあいつを英雄にするための策略ではなかったのか?」
「まさか。私はお姉さまを本気で愛しています。だからこそ私は彼女と殺し愛したいの」
そう言って妖艶な笑みを浮かべる彼女に何か冷たいものが走った気がしてそっぽを向くと筋肉質のおっさんが私の前で何かをやっている。
「何してるの?」
「これで君は死なない。怪我も病気も最早無縁となろう。その代償として私が受ける損傷を肩代わりしてもらう」
いやいや。そんなの嫌に決まってるでしょう。しかももう終ったらしく4人は帰って行った。
体を見ると何か奇妙な図形のあざらしきものが見えるが痛みはなく、それどころか体が完全に治っている。
「なんなの……」
ひょっとして私はとんでもない連中と係わってしまったんじゃないだろうか。
【ステファニー視点 了】
3日後、熱にうなされていた兄さんが目を覚ましたがその姿は猿人の人体模型ではなくなっていた。
猿の顔、狸の胴体、虎の手足を持ち、尾は蛇という明らかなキメラ。
「何故鵺になったんだお前は?」
「変な夢を見ていたんだ」
兄さんの話によると花果山の美猴王として君臨していたのに天界では神々の馬の世話役などと言う早くを押し付けられたことに怒り天兵たちと戦って一時は希望通りの役職にするも好き勝手して天界を抜け出し、多量の天兵たちと再び戦い、お釈迦様と賭けをして負けて五行山に封印され、その500年後に玄奘三蔵と天竺に経文を取りにいく夢を見たそうだ。
「ああ!兄さんは孫行者になったのか」
「……お前は誰だ」
兄さん。あなたもか。
「兄さんと同じく英雄に変性させられたのよ。もっとも私はアーサー王だけど」
「俺が孫悟空だと……」
兄さんの視線の先を見ると義姉さんがメイドさんのスカートを思いっきりめくっていた。
「緊箍児」
兄さんはそう言ってお経のようなものを唱えると義姉さんの頭に金色の光の輪が現れぎゅうぎゅうと締め付けていく。
「いだだだだだだだ……ごめんなさあい!?」
「本当だ」
「何だかよく分からないけど私を実験台にしないでくれるかい?」
「絶妙なタイミングでセクハラをするからだ」
しかも耳から如意金箍棒まで出せたのだから確定だろう。
緊箍児をかける側になるとはね。兄さんによると英雄名は闘戦勝仏というらしいけどその呼び名はマイナーだし孫行者か孫悟空でいいよ。
「お早う。ヴィクトリア」
「……お早う。ステファニー」
半年の入院が必要と診断されていたはずの彼女が校門の前に立っていた。
でも雰囲気が以前の物とは違う。こいつも英雄に変性したのか。
「放課後、一対一で決闘をしましょう。アロンダイトを手に屋上で待っているわ」
アロンダイト。ステファニーはランスロッドになったのか。とことん相容れないんだな。私達は。




