第6話 喋る筋肉と腕相撲
東雲明日香を加えた俺達6人はニッカオの町に来ていた。
「今日はお祭りの日らしいね」
何でもニッカオ宮殿と言う所で神様を降ろす儀式みたいなのをやるんだとか。
俺としては出来る限り神とはもう二度と遭いたくないけどな。
祭りということで宮殿近くまで行くと屋台が軒を連ねているのがわかる。
「いらっしゃいいらっしゃい!メガルボーン美味しいよ!」
見た感じフランクフルトそのものだ。
「アイシクルバンどうですかあ!」
どうってカキ氷みたいとしか・・・。
「焼きモッコリ1本150ラスクでーす!」
モッコリを焼くって響きにギョッとしたがみるとそれは焼きもろこしのような食べ物のようだ。
「アフロいらんかねえ」
見るとそれはアフロのカツラを専門に取り扱っている屋台らしい。
ってアフロはアフロかよ。
・・・ん?
「・・・ふむ。いける」
金魚すくいの前で爪を出して構えると「駄目だよフォルテ君。ゴルモン狩っちゃ」と初音に抱かれてしまった。
そうか。金魚はゴルモンって言うのか。いや、別にどうでもいいけど。
「か、勘違いしないでよね。別にゴルモンを取って食おうとしたわけじゃないんだから」
『絶対嘘だ!!』
皆で同時にツッコまなくてもよくないか?
「はははっ。お嬢ちゃん、腹話術上手いねえ。宮殿の境内でやってる一発芸大会にでも出たらどうだい?」
店員さんは俺が喋ったのに気付かず初音の腹話術だと思ったようだ。
ふむ。やはり今の時代獣が喋るということは先ずないのだろう。
境内に上がり、社を見るとそれはどう見ても日光東照宮。
なるほど。日光がニッカオね。
そう一人で納得していると声をかけられた。
「お兄さん。いい体してるね。この子と腕相撲しない?君が勝ったら5万ラスクあげるよ。でもこの子が勝ったら5000ラスクいただくよ」
エル相手に腕相撲を要求してきたのは髪の長い女の子。
いや、違うな。体の質感からして彼女は・・・。
「俺は誰の挑戦も受ける!乗ったあ!!」
「じゃあ勝負代の1000Gもらうね。世の中にはタダはないんだよ」
どこかで聞いたようなセリフをはき少女はテーブルの上にヒザを置き、構えた。
エルもテーブルにヒザを置き、少女の手を握る。
「それでは行きますぞ。レディー・・・」
隣にいるカイゼルひげの太った男が音頭を取る。
「ゴー!」
ぐしゃりい!金属がねじ切れる音がして少女の腕が完全にへし折れた。
折れた面からは金属片や油が漏れている。
やっぱり機械だったようだ。
「女性型機械人間か。確かに油圧の力を使えば並みの獣人やましてや人間じゃ歯が立たないでしょうね。でも残念。こいつはただの人間じゃない。喋る筋肉よ」
初音はそう言ってカイゼルひげに迫った。
「こっちは1000ラスク払ったんだから賞金の5万ラスク耳をそろえて払ってもらいましょうか」
「悪いがまだ売り上げが5万に達してないんだ。そいつをやるよ。もうそんなポンコツは要らん!」
そう言ってカイゼルひげはどこかへと走り去ってしまった。
体型の割りに逃げ足早えな、おい。
「ポンコツ。・・・ボクは・・・ポンコツ」
おいおい。思いっきり凹んでるぞこいつ。
ひょっとして心があるんじゃないのか!?
「ねえ、君。名前はなんて言うの?」
「名前?・・・よく解らない。お前とかおいとか13号とか呼ばれてた」
アーサー。何を・・・。
「じゃあ。あそこに咲いてる花を見てどう思う」
ガイノイドはアーサーが指差す方向を見た。
「誰かに踏まれなければいいと思う。キレイだから」
・・・あるな、心。
あのカイゼルひげがそんな思考パターンをインプットするわけないと思うし。
「・・・なあ。一つ質問があるんだが・・・痛くないのか?」
腕をへし折った張本人はさすがに申し訳なさそうだ。
こいつにもあるんだな。心が。
「大丈夫。ボクはポンコツだから」
お前はポンコツじゃねえよ。あのカイゼルひげよりよっぽど優しい心があるじゃねえか。




