第71話 カーミラの好敵手現る
第五章のキャラクター設定を変更しました。
【サンジェルマン視点】
私は自室でコーヒーを飲んでくつろぎながら街が壊れるさまを見ていた。
魔王に殺される怨念が、不幸を呪う邪念が、生への執念が、街に満ちていく。
これでアードルフ計画は一歩前に進んだな。
「サンジェルマン様。魔王を復活させることができましたね」
ヘルメス・トリスメギストスはそうしたり顔で私にそう話しかけた。
こいつは使える女だが浅はかなのが玉にきずだな。
「浮かれるな。まだ1体だ。ニフォン皇国のアクゼリュスが消滅したのは痛いがこの調子で残り8体の魔王を復活させられれば……」
「世界を征服して10歳以下の男の子とあ~んなことやこ~んなこともしちゃえるんですね」
「こんなしょうもない世界いるかあ!!」
全力でヘルメスに残○拳を決めた私はきっと悪くない。それ以前に10歳以下の子供に欲情するなバカ。
壁にめり込んだヘルメスを尻目に私は少し冷めてしまったコーヒーを口に含む。全く。
俺が魔王を召喚したのは神を召喚するためだ。もう一度世界を破壊し再生させるためにはこの手段が手っ取り早い。
「やだなあ。冗談ですよ、サンジェルマン様」
いつの間にか壁を抜け出したヘルメスはそう言って手をパタパタさせている。
こいつは能力には申し分はないが性格には難がありすぎるだけだ。そうでも思わなきゃやってられん。
何しろ魔王の兵器転用を議会の全会一致で可決させたのはこいつの呪術によるものだしな。
「いいからよだれをふけ」
「おおっと」
ハンカチで口のよだれをふく残念美女にため息をつき目をそらすように窓の外を見ると魔王の眼前にセフィロトの樹が発生していた。
10人の少年少女たちがセフィロトの樹を象り、魔王に神聖波動を浴びせてそれを消滅させたのだ。
「魔王ってなんだろうな」
10人の子供が神聖波動を放ったくらいで消えてくれるなよ魔王。
自分でも遠い目してるのが分かるじゃないか。
「……!?行きましょうサンジェルマン様。あのケテルの位置にいた男の子、10歳ですよ!」
目がいいなお前。ここからだと結構遠目だぞ。
私のヘルメスアイは10km先の男の子も判別できますよ。ただし10歳以下ですがとか言い出しそうだから聞かないけどな。
だがあいつらを始末した方が後顧の憂いがないことも確かか。
「じゃあ行ってくる」
「はい!一緒に行きましょう!」
俺はまたため息をついた。シェリダーの柱を破壊する際に使役した神獣人の中に10歳の子供がいたことを知った時のこいつのヒステリーは思い出すことすら全力で拒否したい。
年端もいかない子供の何がこいつをあそこまでさせるのかとあきれを通り越して感心したぞ。
「よく今の今まで捕まらなかったものだな」
「サンジェルマン様。少女に手を出して捕まった人はいますけど少年に手を出して捕まった人はいないんですよ」
「ふん。やはり醜いな。この世界は」
私は彼らを追うことにした。ヘルメスは勝手についてくるだろう。
【サンジェルマン視点 了】
ぶるっ。急に礼志君が震えだした。
「ん?寒い」
空は地面より冷えるし慣れてないときついよね。
「ううん。そうじゃなくて何か悪寒が」
悪寒?風邪かな?
ふと妙な気配がして振り向くと誰かが礼志君に抱きつきそのまま墜落していく。
制御が精いっぱいの礼志君に空中で抱き着いたらそうなるよね。助けないと。
燕尾服を着た女の人は礼志君をお姫様抱っこで地面に降り立つと彼の服を脱がそうとするな変態!?
思わず神聖波動をこめて蹴り飛ばしたけどあれ?ひょっとして死ん……。
「いたたた。お姉さんついうっかり暴走しちゃったわ」
「何なんですかあなたは。人殺しにならなくて良かったけど」
崩れたガレキの中から変態が何食わぬ顔で出てきたことに少しほっとした。
獣人じゃなくて人間みたいだしそれを差し置いても死ななくて良かったけどただそのことが彼女が一般人ではないことを物語っている。
「私、死ねない体質なのよ」
フィーア先生みたいなものだろうか。だから世界に絶望して魔王を復活しようと?
礼志君はと言えば私の陰に隠れて思いっきりおびえてる。
皆もそれを見て地面に降りた。魔王の他に敵がいるとは思わなかったもんなあ。
たどたどしく飛んでたらそりゃ的だよ。
そう言えばフィーア先生は?
「久しぶりだな。サンジェルマン」
「誰かね。すまないが身に覚えがない」
「お前に魂をいじられたフィーア・アリオンと言えば解るか」
それを聞くとサンジェルマンと言う男は得心がいったと言う顔をしてフィーア先生のあごを持ち上げた。
「そういえばいたな、そんな失敗作が。魂だけが不老不死になるが肉体はどうしても悠久の時の中で腐り果ててしまう作品など私にとっては黒歴史でしかない」
サンジェルマンがそう言ったその時、涼介がそいつを殴った。
「人を失敗作だの作品だのテメエは何様のつもりだ!!」
「痛あい!」
だが頬をはらして倒れているのは変態の方だった。
あれ?だって。え?
「サンジェルマン。お前、彼女に何を仕込んだ?」
「さてね」
その彼女を起こしたのは義姉さんだった。何か意外。
義姉さんなら倒れてる彼女の胸に顔をうずめてから起こすって言うアクションを起こしそうなものなのに。
一つ分かっていることは義姉さんもそして変態も真顔だということだ。
「女の子。おっぱい。太もも」
「男の子。10歳。太もも」
二人の間に無駄な緊張感が流れる。ただ周りにいる私達の視線がどんなものかは説明するまでもないだろう。
「「あなたと私は敵同士。セクハラでは誰にも負けない!」」
そう言って二人は互いの拳を合わせた。
「「妙なシンパシーを覚えるな!!」」
兄さんが義姉さんをハリセンで叩き、サンジェルマンは変態女にドロップキックをかましたのはいいんだけどあなたたち実は仲良しだったりしない?
男でも女でも子供に手を出してはいけません。




