第70話 No Plan
【とあるドイヒューランド連邦共和国軍人の視点】
アードルフ計画の一環として我々は魔王が封印されている巨大な柱、シェリダーの前にいた。
近づくだけで体調不良を起こすまがまがしい柱を破壊するためだ。
「と言うわけで破壊してもよいですかな。サンジェルマン卿」
「問題ない。やりたまえ」
そう言ってにやりと口を歪める男は正直好きにはなれないが私も軍人である以上は上に逆らうことは許されない。
司令官を務めるドナウアー三佐はGOサインを出した。
神獣人の少年少女たちが軍人の合図で水晶に手を触れるとその水晶につながっている銀で出来た鏡から大量の金色の閃光が放たれる。
彼らから神聖波動とか言う金色の光を吸収し、柱に叩きつけると言うものだ。光を強制的に搾取された彼らは一人二人と倒れていく。
最後の一人が倒れたタイミングで柱に大きな亀裂が走り、柱は砕け散った。だがニフォン皇国のように復活した腐肉が辺りにぶちまけると言うことはない。
事前に魔法陣を形成し、一点にとどめておいた賜物だ。だがこれをどうやって軍の兵器にするというのか。動かない兵器なんて何の役にも立たないだろうに。
とは言え上官に質問することは許されない。軍隊とはそういうものだ。
「さてこれをどうやって形にするのか」
ドナウアー三佐も分かっていないらしい。腐肉は流動しながら一点にとどまっている。魔法陣が少しでも崩れたら腐肉はこちらになだれ込むだろう。
「簡単な答えだ。供物を用意すればいい」
供物。神獣人の子供たちか?年は10~18のこれからと言う齢の者達だが。
「あれはアイン・ソフ・オウルに目覚めている。魔王を制御する側の者だ。つまり魔王の供物になるのは君達だよ」
そういうとサンジェルマン卿はふわりと空に浮かび上がった。彼はラテン語らしき言語で何かを呟くと地面に描かれた魔法陣が蒼く光り、意識はそこまでしか保てなかった。
最期に聞いたのはサンジェルマン卿の大笑いする声のみ。我々ははめられたのか。
【とあるドイヒューランド連邦共和国軍人の視点 了】
計算ドリルを全部解き、ぼおっとしているとアーサー先生が血相を変えて教室に入ってきた。
「アリオン先生はいますか!?」
「どうしたんですか?ラックスウェル先生」
どうやら彼の話だと魔王が生き返ったらしい。それも神獣人の子供たちを集めて神聖波動で無理やり復活させたとか。しかもその理由が兵器転用とかいうバカらしい理由で。何やってるのドイヒューランド。
しかもその制御に失敗しているらしくドイヒューランドで魔王シェリダーが暴れているんだとか。
よく外国の事情とか把握できるわね。
「先生!どうやって外国と連絡を取ってるんですか?」
そう言ったのは涼介だ。
私もうんうんと頷く。いくらなんでも外国にまですずなネットワークがつながっているわけがない。
「人工衛星だ」
「ああ」
アーサー先生の話を聞いて思い出した。今から8年前、宇宙に浮かんでいる宇宙ゴミの中に世界と交信できる人工衛星が太陽光発電で動いているのを明日香さんが発見。外国と通信することができる機械を発明したことで皇室から博士号をもらったニュースがあった。その研究にかかりきりになった明日香さんは家にも帰らず研究所にこもり続け旦那さんに三下り半を突きつけられたのだ。
そのニュースを見たときお父様はあいつの何でもアリは宇宙レベルなのかとあきれてたのが印象に残ってる。あれ?確かその時の旦那さんって……。
「あー!!思い出した。アーサー先生が明日香さんと離婚する原因になった研究じゃない!」
「ヤマモト!学校でプライベートな話をするな!」
「先生。報われてよかったね」
「ラックスウェル先生、東雲博士とよりを戻すの?」
「僕は何も報われてなんかいない。それに今は再婚して子供もいるし彼女とよりを戻すことはないよ」
頭を抱えるアーサー先生を見かねてかフィーア先生はぱんぱんと手を叩きながら思わず立ち上がった私に座るように促した。
「ラックスウェル先生の尊い犠牲により今回の事件を知ることができたのは重畳」
「アリオン先生……死んだみたいに言わないで下さい」
「我々はこれからドイヒューランドに向かう」
生徒からいろいろ質問が上がる。どうやって行くのか。このクラス全員が行くのか。勝ち目はあるのか。うまい食べ物はあるのかなど。
最後の人。観光するんじゃないんだから。
「ドイヒューランドへは騎士団の航空機で向かう。メンバーはセフィラ10人。魔王を阻むものには皇国騎士団とサポートメンバーが壁となる。んなもん知るか!」
ドイヒューランド政府より救援要請の連絡がすでに来ていると言うことで私達は皇国騎士団本部に行くことになった。
兵器に転用しようとしていた国の政府なんかどうでもいいけどその国に住む人たちには何の罪もない。
絶対に勝ってみせる。
「トリア。神聖波動は波動柔術で応用が出来る。出来るだけ多くの波動柔術の技をみんなに教えるんだ。手伝って」
「うん」
私は兄さんと義姉さんの2人と一緒に7人のセフィラ達に波動柔術を即席で教えることになった。




