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Lapis philosophorum   作者: 愛す珈琲
第六章 New class
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第69話 ペンギン生活13年は伊達じゃない

【アイリーン視点】


「金庫室に案内してもらおうか」


男は短剣ダガー長剣シミターを構えて私にこう言った。


「そう言われましても私はメイドですのでそのような場所は存じ上げません」


だが男は構えを解く様子はない。それどころかにやりと笑みを浮かべ口を開いた。


「部屋の掃除もしないメイドなんてありえないだろ。え?アイリーン・ラックスウェル」


こいつ。何で私のことを。どこかで会ったか。続けて男が言うには自分がこうなったのは私のせいなんだから顔を忘れるわけはないとのこと。


「お前にデザイアストーンを埋め込まれなければ俺は今でも親衛隊長だっただろう」


ああ。あの時の……すっかり忘却の彼方だったよ。ブルギットに会ったカーミラもこんな気分だったのだろうか。


「あの時のことは反省してるし、あんたにも悪かったとは思う。だけど強盗以外にあんたに道はなかったの?」


「強盗じゃない。義賊だ。金持ちの家を襲った金を貧乏人に配る……な」


「一見善行だけどそれって偽善よね。金持ちには金持ちの貧乏人には貧乏人の理由やら事情やら苦労やらがあるだろうに」


妙に両腕が涼しくなった。見ると袖が両方切り取られている。これをあの一瞬でやったのか。


「おしゃべりはここまでだ。俺に少しでも悪いと思っているのなら金庫室まで案内しろ」


堕ちた騎士か。一面哀れだねえ。私は金庫のある部屋まで行くと元親衛隊長は声を荒げた。部屋のカーペットを取れと。

何でも盗賊団の一味が錬金術師エルメンガルトの店に盗みに入った際、カーペットの仕掛けに引っかかって騎士団につまみ出されたことがあり警戒しているらしい。

それと東雲家に盗みに入ったものが金庫に手を触れると感電したと言う情報も入手しているらしく私がダイアルを回せと言ってきた。やれやれ。


私は男の前でダミーの金庫についているダイヤルを目いっぱい回す。


「アイリーン!貴様何をした!」


「ヤマモト家にないと物足りない奴さ」


「なn」


男の疑問はすぐに晴れた。ダミーの金庫が開き、中から現れたのは機械ペンギンのペンタローだ。

こいつはDr北条が金庫番にと造ったものでオルテガ・バムア・モイセス・カーミラ・私の音声を認識して動く。

ちなみに優先順位もこの通りなのはご愛嬌。


「ペンタロー!あの男を倒せ!」


『くけー』


そしてこのペンタローを起動すると他の4人に通達するようになっている。そしてここに一番近いのは。


「誰?ペンタローを起動したのは?」


バムアだ。男は素早くバムアの後ろに周り、ダガーを彼女の首筋に充てた。


「動くな!さもなきゃこの女の首をかっ切る」


男は足をある程度開いているから足を踏むのは難しい。かと言って股間を蹴るのはバムアの背丈では難しそうだ。一体どうすれば。


「さあ。本物の金庫を開けてもらおうか」


どうすればバムアにこいつを攻撃させられる。


「動いたら彼女の首がやばいんじゃなかった?」


「俺の指示は別だ」


ちっ……。どうも私はこういうアドリブに弱い。逆にカーミラならその場の勢いでホイホイ動けるんだろうが……ん?カーミラ。


「カーミラ!?何でラファエラのパンツをポケットにしまう!!」


「カーミラ!!義妹相手に何やってんの!?」


バムアは反射的に男の顔面に冷凍胡桃を叩きつけてからきょろきょろと見回すもまだ学院にいるはずのあいつがここにいるわけもない。

その隙にペンタローを男の股間に突撃させて見事直撃。ダガーを落としたのを確認した。今だ。

私は近くにあったビリヤードのキューを手に取ると魔力で強化してみぞおちに叩きこんだ。


「かはっ!?」


「リヴィングチェーン、この男を縛って!」


バムアは状況を察したらしく命ある鎖を懐から出し、男の体をからめ取っていく。

彼女が拘束するのではなく鎖が自動的に対象を拘束する錬金術アイテムだ。


「取りあえずこれで一件落着かな」


「キオルト襲撃事件の主犯がヤマモト家にいる。俺がそう証言すればどうなると思う?」


命ある鎖でがんじがらめになった元騎士はそう吐き捨てた。


「あー。騎士団はそれ知ってるから大丈夫」


私はアーサーに新しい変銀の首輪をもらった次の日に騎士団のところに出頭していたのだ。

でも私は時効だと言うことで帰された。13年もペンギンをやっていたあなたに今更刑罰もないと。

どうもオルテガが私をペンギンに変えたことを騎士団に報告していたらしい。

それを聞いた元騎士はがっくりと肩を落とした。


騎士団にこの男をつまみ出し、今度こそ一件落着だと肩の力を抜いたが私はまだ知らなかった。

この後でもっと頭が痛くなることが起きることを。


【アイリーン視点 了】


夕食後。義姉さんが出した数枚の紙切れが空気をとてつもなく重くした。

義姉さんに没収された学力判断テストの解答用紙をお披露目されたためだ。


「モイセスは93点。カーミラは88点。トリアは33点か」


「オルテガ。ちょっとさじを投げたいから食堂行ってくるわ」


「申し訳ありませんでしたあ!!見捨てないで下さい!!」


思わずアイリーンにしがみつきうるうると上目づかいで彼女を見る。

勉強は嫌だけど見捨てられるのはもっと嫌だ。アイリーンはそんな私を一べつしてこう告げた。


「トリア。『申し訳ない』で一つの言葉よ。申し訳ありませんなんてニフォン語はないわ」


申し訳ないです。もしくは申し訳なく存じます。が正しいニフォン語らしい。

兄さんによると「申し訳がありません」なら問題ないらしいけどそんなことより今の状況を何とかしてえ。

何度も彼女に泣きつき、ため息とともに赦してもらった。でもある程度勉強したら小テストをすることが条件だとか。

うう……泣きたい。


「泣きたいのは私の方なんだけどね」


はい。ごもっともです。

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