第65話 オルテガにとっては猿の惑星
ある日、久保とイヴォンヌがうちにやって来た。
「不思議なことがあるんだ」
どうやらあの一件以来金色の波動が出るようになり、日常生活に支障が出ているんだとか。
セフィラと何か関係があるんだろうか。
でも私はあの一件以来爆裂波動が出なくなってるのよね。逆に。
「接触不良なのかねえ」
義姉さん、ヒトを何だと。
お父様はまだ銀行から帰って来ないし私は波動が出なくなっている以上他に頼りになるのは……。
「…………」
「大丈夫だ、トリア。ツッコミの準備は整っている」
兄さんがそう言ってハリセンを素振りしているなら大丈夫だろう。
「ボケ封じは酷くないかい!?」
ほらね。とにかく私たち監視の元、義姉さんに診てもらうことに。
義姉さんは真面目な顔で波動を体に流したりしていたがおもむろにこっちを見た。
「義父さんの帰りを待とうか」
「……義姉さん……」
白い目になっていだのだろう。義姉さんは慌てて弁解してきた。
二人に宿っているのは爆裂波動ではないのだそうだ。
そのお父様だけどよりによって夜遅く酒に酔って帰ってきた。
「おう。どうしたあ」
義姉さん以上に役に立たない気がする。
行員の壮行会で盛り上がってアイスペールという氷を入れる小さなバケツにシャンパンをなみなみと入れて飲み干したそうだ。
こんな時に何やってるのよ。
いつもなら「お父様ったらお茶目♪」で済むけどこの時ばかりはタイミングが悪い。
事情を話すとお父様は神妙な顔でうんうん頷くと口を開いた。
「そうか。姉ちゃん、チェイサーくれ」
「イヴォンヌは飲み屋の姉ちゃんじゃないから!」
すぱあん!私は生まれて初めてお父様の頭をスリッパではたいたけど反省はしてない。
チェイサーというか水を飲ませて酔いを覚まさせると波動の診断をしてもらうことにした。
「これは爆裂波動じゃないな」
義姉さん。分かったからほらほらって顔しないで。
魔力でもない。爆裂波動でもない。だとしたら一体なんなのか。
「取りあえず二人に波動柔術を教えよう。トリアは波動柔術を体得しているのにあの一件以来波動が出せなくなっているんだ。ひょっとしたらそこに何らかのヒントがある可能性がある」
波動を出すための波動柔術で波動を抑えると言うのは皮肉もいいところだけどね。
【礼志視点】
「神聖波動だな」
フィーアは味噌汁を飲みながらそう答えた。
セフィラに覚醒したことで波動が神性化し、無意識的に漏れているのだろうということ。
「ああ。日本人はやっぱり味噌汁だな」
「日本?ニフォンじゃなくて?」
こんなやり取りをいつだったかしたな。
「日本と言うのは文明社会があった頃のこの国の名前だよ。ニフォンは日本をもじった言葉さ」
日本国は神魔戦争が始まる前の国名だと言う。
何でそんなことを知っているのかと言えば自分はそのころ日本国にいたからだそうだ。
そういえば800万歳だったな、お前。
「でも800万年も人の体って持つものなの?」
母ちゃんの疑問ももっともだ。
するとフィーアは否定した。普通に肉体は死ぬさ、とのこと。
肉体が死んでも記憶を残したまま魂は別の人間に移るんだとか。
だからこそ魔王に魂ごと消してほしかったんだそうだ。
「じゃあ昔のこととか覚えてるのか。神魔戦争が起きた日とか」
「あれは兄が自殺した3日後の話だ」
当時のフィーアは恵美という名前の少女だったらしい。
飛び降り自殺をした兄の葬儀の最中に空気が激しく振動したそうだ。
曇り空から得体の知れない化け物が降ってきて大暴れし、街はことごとく破壊されていったのだとか。
その後魔王と神の戦いに巻き込まれて肉体は死んだのに新しい体にまた転生したんだそうだ。
「その時兄の下敷きになった野良猫のスコティッシュ・フォールドが煙のように消えたのが一番印象に残ってるよ」
兄よりもかよ。まあ、800万年も生きてたら淡泊にもなるか。
いや、それよりも神聖波動についての話の方が大事だ。
「味噌汁のおかわりを頼む」
「すんなあ!!それより神聖波動について説明しろよ」
「あー。はいはい」
神聖波動とは文字通り神が魔王と対抗するために使役した力であり、爆裂波動は魔族が使役した力だそうだ。
獣人は魔王の瘴気で生まれた者だから爆裂波動を使役するんだけどセフィラに目覚めた者は属性が「聖」に切り替わるんだとか。
だから逆に爆裂波動の使い手はそれが使えなくなっていることだろうとフィーアは言う。
「波動については紅魔館地下にある大図書館の文献で調べたんだけどね」
「なるほど。じゃあ今日はもう遅いから明日、市役所の通信機を使わせてもらおう」
「明日と明後日は役所お休みよ」
というわけでフィーアと御厨家一家はキオルトに向かうことにした。
「お母さん。そういうわけだからお留守番よろしくね」
「……私の出番はこれだけか」
婆ちゃんはそう言ってorzになっていた。
【礼志視点 了】




