第58話 八百万の魔女フィーア・アリオン
【フィーア視点】
「死にたいんだよ。私は」
私はそう言って笑った。
800万年命の牢獄に閉じ込められ続けた私の気持ちなどきっと誰にもわからないだろう。
私の『時を制御する能力』で周辺の時間をすでに止めている。
この辺りを見守る騎士は最早オブジェに過ぎない。
「これがアクゼリュス……十魔王の一角を封印した柱」
ほう。解るか。
「少年。アクゼリュスと対話できるか?」
「何だよそれ。俺はそんなこと絶対に……」
「少年。私は遊びでやってるわけじゃないんだ。800万年も命の牢獄にとらわれている身としては君が魔王に語りかけるか、それとも君を人質にして無理やり君の母親にこの柱を砕かせるか。その2択を用意するしかないのさ。どちらか好きな方を選ぶがいい」
少年はエメラルドアイビーを唱えて私を拘束するとどこかへと消え去った。
これで私を拘束したつもりか。
私はつたそのものの時間を早めて枯れさせると導き石を手に取った。
「御厨礼志の元に導きたまえ!」
導き石を使って少年の元に行くとそこは見知らぬ場所。
まるで古代の日本のようだが魔力の含有量がけた違いだ。
「幻想郷にまで来れるのかよ」
「800万年もの間、無為に過ごしてきたわけじゃない。暇つぶしのために覚えた錬金術が役に立った。人間何が幸いするかわからないな」
「くそっ。凍符「パーフェクトフリーズ」 」
スペルカードを魔力で複製したらしい。カードが蒼い弾幕となり私の体が氷漬けになっていくのが解る。
「迷いの竹林に封印してやる」
甘いねえ少年。氷はいつか溶けるんだよ。
私は氷の時間を早めて溶かすと爆裂波動をこめた拳で少年の腹を殴った。
「かはっ」
吐血したところを見ると内臓が破裂しているかもしれないが脳が使えればそれでいい。
私は少年の腕をつかむと再び導き石を使った。
「我らをアクゼリュスの元へ導け!」
少年もいることだしアクゼリュスと対面することになるかもしれないがそれもまた一興。
【フィーア視点 了/カーミラ視点】
トリアを眠らせることが出来た。これで目を覚ましたら正気になっているだろう。
「さっきのヤマモトはいつもの彼女らしくなかったな」
「この子にとって死はタブーだからねえ。可愛がってたホムンクルスが死んでトラウマになっちまったのさ」
まだ赤ん坊だったマテオにかかりきりになってトリアを一人にしちまったことがある。
フォルテⅡはそんな彼女の隣にいつもいた。だからフォルテⅡが死んだのもトリアが発見しちまったんだ。
それからだねえ。この子が死について敏感になっちまったのも。
だからこの子の前で命を軽んじることを言わないでほしい。
そう言って頭を下げると皆分かってくれたようだ。
「ふん!」
一番分かってほしい子は鼻を鳴らしてどこかへと行ったみたいだけどね。やれやれ。
「でもどうしてトリアちゃんの胸を揉む必要があったの?」
「愚問だねイヴォンヌ。そんなのトリアの成長を確かめるために決まってるじゃないか」
すぱあん!もっくんのハリセンが私の頭に炸裂したその時、「きゃあ!!」と短い悲鳴が聞こえた。
声のした方に目をやるとステファニーの体が地面に飲み込まれていくのが見える。
「カーミラ!!」
「ダメだモイセス!巻き込まれるぞ!」
他人事ではなく私の体も闇に飲み込まれていくじゃないか。
私は全身を爆裂波動で包み意識を保つことにした。
【カーミラ視点 了/鈴仙視点】
幻想郷の空気が揺れている。
輝夜様が焼いたクッキーを霊夢が空中に飛ばして食べてたからそれがわかった。
「一体何が……地震じゃないわよね」
「地面じゃなくて空気が振動してるからね」
こんなことは神魔大戦以来のことだ。まさか魔王が復活するとかじゃ……。
「ねえ霊夢。何か最近変わったことない?」
「んー。これと言って別にないわ。せいぜい礼志が弾幕ごっこに負けたぐらいよ」
ふーん。あの礼志がねえ。
「霊夢。礼志を負かした相手って誰?」
師匠、どうしてそんなに怖い顔をしてるんですか?
「知らないやつよ。赤い目をした銀髪の女。礼志が複製したチルノのスペルカードをもろに喰らったくせにあっさりと礼志を殴り倒しちゃったのよ」
「そいつの仕業だわ。霊夢、紫を呼んできて!うどんげはてゐと兎たちを集めて!大至急よ!!」
「めんどい」
「博麗神社をアクゼリュスに破壊されたいの!?」
「……はいはい」
いつものことながら師匠に口答えできる霊夢にはある意味感心するわ。
それにしても私はこれからあのバカを捕まえなきゃいけないのね。
霊夢とは違って私は師匠に文句は言えないけどきついなあ。
【鈴仙視点 了】




