第56話 取り巻きは掲示板に貼った紙が教師に没収されたのを見て逃げました
【ブルギット視点】
アーロンが司法取引に乗り、僕たちの居場所を吐いたせいでリライト団は実質解散することになった。
僕と第3皇太子、それにフィーア・アリオンと言う人間の女の3人でニッカウ市に落ち延びたがこれから先はどうしたものか。
「いっそのことあの虹で柱を砕けませんか」
虹。それはキオルトを襲撃した際空中のエビルジュールをごっそり消滅させたあの極光のことだろう。
「あれは光属性のダイヤモンドメルトでしょう。呪文の詠唱が必要になりますが獣人が使える最強呪文の一つです。あれが使えれば柱を砕けるかもしれません」
「では聞いてみるか」
フィーアはそういうと姿見を取り出した。
「鏡よ鏡。ダイヤモンドメルトで柱を砕くことは可能か」
『可能です』
「ではキオルト襲撃事件でダイヤモンドメルトを放った者の者について教えろ」
『御厨初音35歳。現在は夫と子供がおり、テムドー市で農家をしております』
「隠居と言う年でもなかろうに。分かった。私は御厨初音の子供をさらいに行く。お前らは御厨初音への指示を考えておいてくれ」
フィーアはそう言うと鏡をしまうと煙の様に消えた。魔女め。
「陛下。何者だあいつは」
「朕の礎になってくれるのであれば誰であっても歓迎しますよ。朕が天皇になれない異常な世界を修正するためなら些少のことには目をつぶります」
あーそうかよ。
【ブルギット視点 了】
今日から勉強会かあ。憂うつすぎる。登校してくつから上ばきに履き替えたとき足に痛みが走った。
「痛!」
ぬぐと中から画びょうが出てきた。
もしかして……なんて考えるまでもなくステファニーよね。証拠がないから何とも言えないけど対策を考えないと。
私は画びょうで受けた傷を爆裂波動で癒しながら教室に入った。
今度は机の中を調べてみる。何も仕掛けはないわね。
そう思いながら座ると椅子が壊れた。
「あはははは!椅子が壊れるとかどんだけデブなのよ!ダイエットでもしたらあ!」
ステファニー。なるほど。今回は椅子に仕掛けをしたってわけね。
「ん?お前は何をやってるんだ」
「ステファニーの嫌がらせはまだ続いてるのよ。あなたのせいでね」
「ちょっと!言いがかりはやめてよ!証拠はどこにあるのよ証拠は!……久保君、ヤマモトさんは人に罪を着せて私を貶めようとしてるだけよ。信じてえ」
何だその涙目上目使い。あざといったらないわね。
「ねえ。この糸のこ、あなたのじゃないの」
確かに糸のこの持ち手にはステファニーの名前が書かれている。
「しかも椅子には切り口があるな」
椅子の残骸にはきれいに切られている箇所がある。状況証拠だけど一応そろったわね。
「ステファニー。私の妹をデマで貶めようとはいい度胸じゃないか」
義姉さんの手には何かが書かれた大きな紙。見せてもらうとそこには私が花街で売春してるだのヤマモト銀行で金を借りた人間は違法な取り立てで自殺者を続出させてるだの。
その取り立てで私がその家の赤ん坊を借金のカタに取り上げて臓器ブローカーに売り渡しただのよくもまあこんなことを思いつくってことが書かれていた。
大体取り立て屋をやってるなら売春なんかする必要ないじゃない。
義姉さんによると掲示板に張り付けられていた紙をアーサー先生が発見、没収したそうだ。
大体掲示板はこういうことに使われないよう使用する際は教職員の許可がいるが彼女はそれをお構いなしに貼ったのだろう。
「紙が貼ってあったのを見ただけでしょ!何で私が貼ったって決めつけるのよ!」
「そりゃあ、あんたの名前が載ってるからねえ。何にでも名前を書く習慣って言うのはいいんだか悪いんだか」
「ばっかじゃないの!そんなの書くわけないじゃない!」
ステファニーは私が持ってた紙をひったくると隅々までチェックした。
その言動がすでに自白しているってことを解ってないらしい。
「ターコイズセイブ」
そんなことより私のことだけならともかく銀行のことにまで根も葉もないデマを書き込むなんて赦さない。
雷をてのひらに宿して紙をつかみ、炎上させ慌ててる隙に掌底をステファニーのほほに叩きつけた。
「いい加減にしてよ。どうやって銀行のことまで調べたのか知らないけど……行員さん達を傷付けるようなことをするな!!」
「……!!」
ステファニーは私をキッとにらみつけると教室の外へ逃走した。全く、面倒な奴に目をつけられたわね。
久保は私の顔をじっと見てるけど何かついてるのかなあ。
「自分のことより自分の父親が経営している銀行の行員のために怒るとは。正直少しだけ見直したよ」
それはどうも。私もあんたのことはステファニーよりは好きってことにしておいてあげる。




