第52話 親の心子知らず
【ジークリット視点】
「悪い奴はもう倒したから安心しろよ、ラファエラ!」
「お兄ちゃんすごおい」
ブルギットにぼろぼろにやられてた男の子が妹にそう得意がっている。
妹はすごいすごいと拍手してるし、ここは黙っておいた方がよさそうね。
「くけー!」
「待て!話せばわかる!」
『よくも私を盾にしてくれたわね。もっくん』と書いたスケッチブックを放り出し、ペンギンはピコピコハンマーを持ってもっくんを追いかけまわしてるし何なの?
カーミラは説明はオルテガの役目さ、とか言って紅茶飲んでるし。
しばらくして当のヤマモト夫妻が戻ってきた。
「おかえりなさいませ。事情説明お願いできますか?」
「じゃあ鳳凰亭にでも行くか。マタイとラファエラは寝ろ」
「「えー」」
ふーっ!とオルテガがいかくすると二人は「「お、お休みなさい」」と競うようにして寝室へと向かっていった。
「寝る前に歯を磨くのよ!」
「「はーい!」」
ちゃんとしつけはしてるようね。でもこいつがするしつけって何か聞くのはちょっと怖いから聞かないけど。
【ジークリット視点 了/オルテガ視点】
「もっくんは何でそんなところで寝ているんだ?」
「ピコピコハンマーも魔力込められるとかなり効きますよ」
まあそれは鳳凰亭で詳しく聞く。
「いらっしゃいませ~♪v(*'-^*)ゞ^;*・'゜☆ブイ☆」
鳳凰亭に入るとメグミが満面の笑みで出迎えてくれた。
何かいいことでもあったのか?
「ひっさしぶりの出番です!」
「よく解らないが数日前も飲みに来ただろ」
「私が一番最後に出たのは40話ですよ!思いっきり忘れ去られてるじゃないですか!」
「メタ発言をするな。それに42話にも出てるじゃねえか」
「名前だけなのはノーカンです」
まあいいか。上機嫌だから放っておこう。メグミに席を案内され取りあえずビールを注文する。
最近ではピアをビールというのが主流だそうだ。
何でも文明社会があったころの名称に戻そうキャンペーンの一環なんだとか。
「飲み屋に来た以上ここからはプライベートでいいわね」
すでにここに来る前に依頼料として10万ラスク支払ってるしいいんじゃないか?
うなずくと俺、バムア、カーミラ、ジークリットの4人で乾杯した。
今回の事件の発端が沼竜姫事件であること。ブルギットに育てられた少年が俺の隠し子だと嘘を教えられ俺に復しゅうするためにトリアを刺したこと。
その間にブルギットがうちに侵入を試みたことをすべて話した。こっちには隠すことはないからな。
「ずい分しつこいわねあの山猫人」
「全くだ。今更村人の恨みを晴らしたところで自己満足にしかならないだろうに」
ひょっとしたら後戻りできないところまで来てるのかもしれないが、だとしたら厄介だな。
「それにどうやら協力者がいるようで」
「ジョセフィーヌのことか?」
「そこまでは知らないわ。ただヘリコプターとかいう飛行装置に乗って逃げた以上運転手は彼の仲間といっていいかもね。雇われた人かもしれないけど」
「モイセスと戦った男はリライト団のアーロンと名乗っていたらしいからね。その線で探ってみるべきじゃないのかい」
リライト……書き直す。または作り変えるか。厄介なことにならなきゃいいんだが。
【オルテガ視点 了】
ようやく退院できる日になった。ラジオによると私を刺した子供は保護観察処分になったとか。
正直また顔を合わせることになったら……腹パンしてから考えよう。
ママに荷物の整理を手伝ってもらい病院の外に出るとイヴォンヌと久保がいた。
「退院おめでとう」
「頑丈な腹でよかったな」
こいつ、全く可愛くない。するとイヴォンヌがくすくすと笑い声をあげた。
何でも私がいない席を気にしているようだったらしい。
「息を吹き返したって報せを聞いてほっとした顔をした後で往生際の悪い奴だって悪態ついてたしね」
「男のツンデレはキモいぞ。翔」
義姉さんもそう言って笑ってるし兄さんも久保の肩に手をやって苦笑してる。
ふ~ん。そういうこと。思わずほくそ笑む。
「なんだ。その不細工な顔は」
「うっさいムッツリ。あんたなんかよりパパの方が万倍かっこいいんだから」
「その年でパパとか……ガキ」
「!?……いつもはちゃんとお父様って呼んでますう」
こいつは本当に気にくわない。でも『日常』に帰ってきたって感じがして少し嫌かも。
家に帰ってからパパを「お父様」って呼んだら複雑そうな顔をしていた。
ママによると10歳になった私にもうパパと一緒にお風呂に入らないと言われたときぐらい落ち込んでたらしい。
意外と繊細なんだね。




