第49話 日常の中でブルギットが嗤う
【オルテガ視点】
メイドが来客を伝えてきた。何でも屋『ミセスジョンケン』のジークリットだという。
アーサーの結婚式以来だし会ってみるか。
「お目通りありがとうございます。オルテガ卿」
「まあ座れ。用件はなんだ」
「13年前のキオルト襲撃事件の詳細はご存知ですか?」
そりゃあ思いっきり関係者だからな。確かにこいつにそのことを話してはいないが。
「一応な。何しろアイリーンはアーサーの姉だ」
アイリーンの名は討論裁判で散々出てきたからあの事件を語る上では欠かせないキー……ペンギンだろう。
「守秘義務のため依頼人は明かせませんがそういう依頼があったんですよ。キオルト襲撃事件の主犯、アイリーン・ラックスウェルを探してほしいと」
そう言ってジークリットはメイドが持ってきた紅茶に「いただきます」と言って口を付けた。
やれやれだな。依頼人はおそらくブルギットかアイリーンにかどわかされた元親衛隊長だろう。
アイリーンなら今は散歩をしてる頃だと思うが正直話して大丈夫か。商売人として表向きはクールに対応しているが人間の気性なんてそうそう変わらんからな。
「あの当時トリアは2歳だったし、屋敷に入られてもしものことがあったら事だからな。アーサーのところに行くよう導き石を渡した。詳しくはアーサーが知っているはずだ」
そこで俺はアーサーに丸投げすることにした。やった本人が説明した方が解ってくれるだろう。
「旦那様。御厨様から通信が入っていらっしゃいますがどう致しましょう」
「ふふ。じゃあ私が応対するわ」
バムアがメイドと去るとジークリットは御厨って初音かと聞いてきた。これは肯定する。もっとも相手は初音かハルトヴィヒ……じゃなかった陽翔かは解らんがな。
ハルトヴィヒは御厨家の婿養子になった際、女と間違われないように陽翔と改名したようだが焼け石に水だったらしく共同浴場には男湯と女湯の他に陽翔専用の湯があるとかないとか。
苦労するな。特に息子が。
【オルテガ視点 了/アイリーン視点】
ペンギンの視界で歩くというのは最初は怖かったけど慣れれば案外面白いのよね。
鳥になったからかあまり快楽と言うのにも興味はなくなり食欲が一位を占めるようになったし。
この状態で愛欲を保ち続けたカーミラにはいろんな意味で感心するわ。
子供がひょこひょこ追いかけてくるのには辟易するけど叩かれないだけいいのかしら。
「あ。アイリーン」
はちゅだ。相変わらず初音って子みたいな顔してる。彼女をオリジナルにしてるから当然なんだけど。
彼女も散歩かしら。
「アイリーンはいつも何か考えてるよね」
「くけ~。くけー」
我思う、故に我あり。考えることをしなくなったら私じゃないわ。
「そっか。それはアイリーンらしいよね」
はちゅって私の言葉解ってるのか解ってないのかいまいちよく解らないのよね。モイセスの例もあるから一概に否定できないけど。
「アイリーン。これからマスターの工房に行かない?ひょっとしたらアイリーンもしゃべられるようにしてくれるかもしれないよ」
「くけ~」
私の場合アイテムの効力だから無理だしそもそも人間に戻ったら追われる立場。しかもペンギンとして生きることに愛着を持ちつつあるから解決とかしないでほしいんだけどお客さんにお茶ぐらい出せるようになったら面白いかもね。私ははちゅに着いて行くことにした。
【アイリーン視点 了】
放課後、イヴォンヌと帰り道についているとその途中で一人の猫人の男の子が私の前に立った。
「見つけた。ヴィクトリア姉さん」
「え?誰?」
確かにスコティッシュ・フォールドの猫人はうちの家系っぽいけど全く心当たりがない。
「俺はロベルト。お前の父親、オルテガに体をもてあそばれた挙句に捨てられて死んだ女の息子だ。母の敵討ちのため、ヴィクトリア・フォン・ヤマモト。死んでもらう」
え?え?え?ちょっと待って!?パパが女の人の体をもてあそぶなんて義姉さんじゃあるまいし。
ロベルトは私のおなかにナイフを突き刺している。これを引っこ抜かれたらその時点で私の人生は終わってしまう。
イタイイタイイタイイタイ……。制服が私の血で汚れていく。何これ、わけ解らないよ。
「そこまでですわ。それ以上動くとその空っぽの頭、吹き飛ばしますわよ」
ロベルトの頭に明日香さんが拳銃を突きつけていた。
「俺は母さんの敵を討つ。そのためにはヤマモト家の者は根絶やしにしなきゃいけないんだ」
「もしあなたがオルテガの子供だというのならあなたも死ななきゃいけないこと。解ってます?」
「……!!」
明日香さんはそういうと救急車を手配してくれた。ダメだ、意識がもう持たな……。
「あなたを育てたのはブルギット・ザルートでしょう」
「何故それを」
その会話を最後に私の視界は黒く染まり、何も知覚できなくなった。




