第46話 後日談
[Side_Hatsune]
私とハルトヴィヒはDr北条のセスナに乗って私の故郷テムドー市にやって来た。
「キオルトより空気がうまい」
「あー」
確かにああいう都会って何か空気が臭いからね。
繁華街とか初めて行ったときは鼻が曲がるかと思ったよ。
キオルトは都会としてはかなりましな方だけどこういう農園が広がる場所の空気と比べるのは酷だと思う。
Dr北条を見送り私たちはバスに乗ったり歩いたりして私の家に着いた。
「ただい……」
「今までどこほっつきあるってたのよ、このバカ娘!!」
「手紙おぐはあ!?」
お母さん、手紙は送ってたんだからそんなに怒ることないじゃない?
私は殴り飛ばされて滞空しながらそんなことを考えた。
「初音え!?」
ハルトヴィヒ、いきなりで反応できなかったとは思うけどできれば守ってほしかった。がく。
[Side_Hatsune END] [Side_Hartwig]
初音はただいまと言い切る前に初音のお母さんらしき人にコークスクリューブローで顔面を殴られ吹き飛んだ。
失神する前に僕の方をにらんでた気もするけど反応速度が僕より早かったんだから仕方ないじゃないか。
この人も波動柔術家なのかな。でもそれだったら初音さんに教えてもよさそうだけど。
「私はこのバカ娘の母親をしてる御厨鐘子よ」
「初音さんとお付き合いさせてもらってます。ハルトヴィヒ・フュルスティンです」
「あら?よくカミングアウトしたわね」
ん?どういうことだ。ひょっとして初音さんには許嫁がいるんだろうか。
「女の子同士は大変でしょうけど頑張るのよ」
「僕は男です!」
いつものパターンか畜生。本当にこの人鈴奈さんの異変に気付いたのかよ?
[Side_Hartwig] [Side_Carmilla]
まずったねえ。私は今道路を舗装するためのセメントを棒を使ってこねてるんだけどそれ自体は別にいい。
ただ……。
「あ。ミスアインシュテルンだ」
「村の人たちに恋人を殺された……」
「それでこの仕打ちか。かわいそうになあ」
町の人達が私に憐憫の言葉をかけるのが何とかならないものかねえ。別にあの時のことを後悔したわけじゃないんだけどちょっとうっとおしい。
私は自分を可哀そうだと思っちゃいないだけになんか空虚なんだよ。オルテガが自分の家を引き続き私の住所にと部屋を提供してくれたのは町の人達の視線から私を隠す意味合いもあったのかもね。
殺人犯としてさげすまれることもあるけどなんて言うか生暖かい視線がどうにも落ち着かない。
「ふふ。それも刑罰の一つだと割り切りなさい」
私と一緒に奉仕活動していた女性はそういって柔らかく笑った。
「そうさねえ、割り切るのも大事か。解ってるとは思うけど私はカーミラ。カーミラ・アインシュテルン」
「私は優衣。佐倉優衣」
何でも彼女は数年前から夫に浮気していると決めつけられてことあるごとに暴力をふるわれ、外に出るときはどんな用件で何時から何時まで外に出るのか事細かく夫に前もって言わなければいけないような束縛を受け、とうとうそれに耐えかねて酒に酔いつぶれて寝ている夫を撲殺したんだとか。
男ってのはこれだから……いや、女にもいるな、そういうのは。単に自分に自信がないだけか。
自信があればどうせ自分のところに帰ってくると放任するしね。
「よくそんなのと結婚したねえ」
「恋人の時はそうでもなかったんですけどね。リストラにあってお酒に走るようになってから変わってしまって」
なるほど。そういうことかい。
「男に嫌気がさしたら私のところに来なよ。一夜くらいは付き合ってやるからさ」
「あら?鈴奈さんに操を立てているのでは?」
「鈴奈と死別したから誰とも付き合わないなんて言ったらあの子に怒られる気がしてね。私のせいでカーミラがずっと一人でいるなんて嫌って。あれはそういう子だから」
「なるほど。でもごめんなさい。今のところその予定はないわ」
それは残念。なんて言うかこの人にはセクハラする気はしないんだよねえ。DVで苦しんできた人に追い打ちをかけるのはさすがに気がひける。私にだってそのくらいの良心はあるさ。
「みなさん、お疲れさまでーす!休憩にしましょう!」
そう!やるとしたらこの子。
一応成人女性なのにそうは見えない童顔。背が低くて胸も小ぶりなのは物足りないけど単なる学生ボランティアの女の子に自重する必要があろうか。いや、ない!(断言)
「アナベルちゃあん!今日もお胸が小っちゃいねえ。どれ、お姉さんが揉んであげようじゃないかあ!!」
「成長期過ぎてますから!?もう大きくなりませんからあ!!」
鈴奈、私は私らしく楽しく生きてるから見守ってておくれ。
[Side_Carmilla END]
カーミラに判決が下され1週間後のこと。
「オルテガさん。僕、ヤマモト家の養子になります」
もっくんがいきなりそう言いだした。すまない、話が全く読めないんだが。
するとバムアが「ふふ」と笑いながらもっくんに養子になってくれるよう頼んだことを告げた。
トリアがいつお嫁さんになってもいいように。それともっくんをいつまでもヤマモト家に置いておく理由づけにもなると。
もっくんは俺とバムアが共同で作ったホムンクルスだ。
追い出すつもりはさらさらないが何も婿をとればいいだろ。全く。
「あの……」
そんな不安そうな声を出すな。
「モイセスだ」
「は?」
「これからはモイセス・フォン・ヤマモトと名乗れ。それならもっくんはあだ名として残せる」
「はい!」
俺は役所から養子申請書を取り寄せるよう手配した。




