第45話 判決そして日常へ
3時間に及ぶ裁判は終了し、聴衆である俺たちに2枚の用紙が渡された。
カーミラ・アインシュテルンとブルギット・ザルートの名前がそれぞれに書かれており、有罪か無罪か。有罪ならばどれくらいの刑罰がふさわしいか。その理由を記して下さいという内容だ。
カーミラは……有罪。希望する刑罰はムチによる百叩きの刑。理由としては抒情酌量の余地は十分にあり、被告の様子からもある程度の刑罰を望んでいることが見受けられるため。と。
ブルギットは有罪。死罪と書きたいところだがこいつはあくまでもアイリーンの助手だ。懲役10年くらいが関の山だろう。理由は証拠こそないがキオルトを攻撃しようとした疑いが濃厚なため。ってところか。
三日後。集計を終え、専門家を交えた会議の末に2人に判決が下された。
『カーミラ・アインシュテルン。右の者を有罪とする。刑罰は300日間の奉仕活動。主にキオルトの復興事業の補助をすること。労働時間は朝10時から夕方5時まで。昼食時間として1時間設けるものとする』
『ブルギット・ザルート。右の者を有罪とする。刑罰は明日午前零時より10年間の住所封鎖。場所はキクワイ島とする。重病などの危急を要するとき以外に島を離れることは認められない』
ブルギットが不当判決だと暴れるも警備員に取り押さえられ裁判は閉廷した。
「明日から300日、6時間ただ働き。……orz」
カーミラは留置所から帰るなりどんべこみしているが死罪じゃないだけいいじゃねえか。
「3000日じゃなかっただけましだろ」
ブルギットと違ってキオルトから出なければどこに住んでもいいと言うので今まで通りうちに住むよう提案した。ここならもっくんもいるしな。
「ふふ。お昼は持参らしいから頑張って作るね♪」
バムアはカーミラが無事戻ってきたことが嬉しいようだ。見てて和むな、こいつは。
俺はバムアをだっこすると頭を撫でた。ちゃんとツボを意識して撫でているためか気持ちよさげな顔でされるままになっている。
「奥様、僕も手伝います!」
「お前はだめだ」
ハルトヴィヒ。お前、何どさくさに紛れて厨房に入ろうとしてるんだよ。
いつだったかこいつ以外のメイドが全員食中毒で病院に運ばれたことがあった。
まかないでこいつが作ったロールキャベツに青酸カリが含まれていたのだ。締め上げてどんな材料を使ったのか問うとあくまでもうちの厨房にあった食材と調味料のみだという。
試しにバムアと初音に監視してもらいながらビーフシチューを作らせると鍋が溶け出す始末。
それを考古学研究所に送付したところ成分の3割ほどが王水だったと報告が来た。どうもこいつは料理から薬品を作れるという無駄な特技を持っているらしい。
あれからというもの食卓にはロールキャベツが出なくなったし俺自身もしばらくビーフシチューを食うのが怖かったよ。
「ハルトヴィヒ、あんた私を毒殺する気かい!?」
「わざとじゃないのに……」
わざとだったらとうの昔に騎士団につまみ出してるわ。
「フュルスティン家の鍋が全部溶けても労災申請するなよ。とばっちりもいいところだからな」
「うちの台所に入ろうとするとエルメンガルトに突き飛ばされるんですよ」
だろうな。俺があいつでもそうする。
波動柔術家の宿命なんでしょうかとハルトヴィヒはため息をつくが一緒にするな。
「ハルトヴィヒ。私も波動柔術家なんだけどねえ」
「俺も自分でホットサンドを作ったことがあるがそんな珍妙な結果になってねえよ」
俺とアーデルハイトで釘を刺すとバムアが俺の作ったホットサンドが食いたいという。
しょうがねえなあ。俺は厨房に行き、ホットサンドを作ることにした。
「あ。私とハルトヴィヒの分も頼むよ」
カーミラ。ハルトヴィヒに現実を思い知らせるのはいいとしてお前もか。ちゃっかりしてるな。
[Side_Bamhua]
「行ったわね。さすがに男親の前では言いにくい話だから」
「何だい?実はトリアはオルテガの子じゃないのとか言うんじゃないだろうね」
「違うわよ。そんな心当たりはないわ。私が言いたいのはもっくんのこと」
もっくんは自分に矛先が向いたことに驚いたようだった。そうよね、初めて口にするんだもの。
「もっくん。うちの子にならない?」
「はい?」
トリアは女の子。いつよそにお嫁に行くかわからないしそうでなくても初音ちゃんの様に旅に出るかもしれない。
次に生まれてくるのは男の子とも限らないしそれどころか次の子が生まれてくるかどうかも分からない以上保険をかけておいても損はないでしょう。
そう言うともっくんは考えておきますと応じてくれた。答えは急がないけど必ず返事はしてね。
「あれ?でも次に男の子が生まれてきたらもっくんの立場がなくなるんじゃ……?」
初音ちゃん。いくらなんでもそれはないわよ。
「もっくんは私とオルテガが作ったホムンクルスよ。なら子供と同じ。その心配はいらないわ」
[Side_Bamhua]
俺の作ったホットサンドはなかなか好評の様だった。
「たまごサンドおいしい♪」
「それはスイートチリソースを隠し味に入れるのがこつなんだよ」
ハルトヴィヒは食べながら落ち込んでる。現実を思い知ったってところか。
「母親かあ。里帰りしようかなあ」
初音はそう呟いた。ん?俺がいない間に何か話したのか。
でも顔合わせづらいなあ。とこちらもテンションが低い。
「あの!僕も一緒に行こうか……その、彼氏だし!」
「……うん!」
俺はハルトヴィヒに休暇をやることにした。もっとも無期限になるかもしれないがな。




