第43話 カーミラVSブルギット 舌戦開始
アイリーンはうちで飼うことになった。
最初はニフォン海にでも放してやろうかと思っていたがフォルテⅡともっくんが猛反対したのだ。
悪い奴かもしれないけど見殺しにしないで欲しい。アイリーンがキオルトに行くようアーサーたちに言わなければ今の自分はないかもしれないと。
アイリーンに殺されなければオルテガとして生き返るのを望んだか確かに自分でも自信はない。オルテガとしてキオルトに生を受けなかったらバムアと結婚していただろうか。
トリアを我が子としてこの腕に抱けただろうか。そうでなくても別の幸せはあったかもしれないが今ではそれはよもやま話に過ぎないんだ。
アイリーンを否定したら今の俺を否定することになるのかも知れないと俺はそれを受け入れた。
「くけ~」
アイリーンは今、甘んじてトリアに甘噛みされてよだれまみれになっている。以前の奴なら暴れててもおかしくはないだろう。
フォルテⅡともっくんが自分のために必死に頭を下げるのを見て何かを感じ取ったのかもしれない。
いや、今はそれよりカーミラだ。
「沼竜姫事件の犠牲者はおよそ3,000人か」
どうやってカーミラの死刑を回避するか。そのためにうちの応接間にいつもの面々とDr北条が顔をそろえた。
ジークリットは爆裂波動の直撃を食らって入院中だとか。あの肉塊のしわざだろうか。
そんなことよりもこれでは時効は成立しない。凶悪犯罪に時効は適用されないんだ。
「別に無罪を勝ち取りたいわけじゃない。禁固刑でもむち打ち刑でも構わないんだ。要は死刑さえ回避できればそれでいいんだが……」
「今はキオルトの復興を第一にする必要があるんだから奉仕活動で済ませるよう進言するしかないと思う」
「カーミラに何が起こったのか聞いていい?話がさっぱり見えてこないのよ。沼竜鬼事件って沼に棲んでた竜が村をたたりで炎上させたんじゃないの?」
沼竜姫事件は確かにそういう風に伝わっているがそれは真実じゃない。俺はカーミラとブルギットの話をまとめて感情論を一切くわえず客観的に話した。
みんなの思いはそれぞれだがカーミラを責める者がいなかったことが救いか。
「お母さんが沼竜鬼、じゃなかった沼竜姫事件に関わってたなんてね。じゃあうちのお母さんに証言台に立ってもらうの?」
「それは悪手ですわ。カーミラさんの強みは沼竜姫事件の主犯がカーミラ・アインシュテルンであると言う根拠は亀の告発による一点のみ。呼んだところでカーミラさんは沼竜姫事件には関わってないと偽証させることしかできませんわ」
「鈴奈に関することでカーミラが偽証に乗るとは思えん」
1週間後、カーミラたちの裁判が行われることになった。逮捕されてから裁判が行われるまでは準備期間として最低1か月は要するはずだが15年前のそれも生き残りがブルギットしかいない事件の裁判であり、今はキオルトを復興させなければならない状況のため異例の早さになったんだろう。ブルギットの目撃証言だけでどうやって裁判をする気なのか。
「ではこれより討論裁判を行います。皆さん静粛に」
討論裁判。確かにそれしかない。証言できるのがカーミラとブルギットだけなんだから二人に討論させて聴衆に判断させるということだろう。
起訴内容は主に沼竜姫事件。村人を3,000人皆殺しにしたカーミラとそれに恨みを抱いて親衛隊長にデザイアストーンを埋め込み、エビルジュールをキオルトに招き入れたブルギットの裁判を同時に行うというもの。
つながりはちゃんとある以上問題はない。
カーミラは起訴内容に異議を唱えなかった。それを虚偽だとするのは私の矜持に関わると沼竜姫事件の主犯が自分であることを公言したのだ。
会場に動揺が走る。対するブルギットは自分が沼竜姫事件の唯一の生き残りであり、恨みを持ってキオルトに上京はしたがエビルジュールには関わっていないと一部内容を否認。
アイリーン(の通訳をしたもっくん)によると確かにブルギットは見てただけだから関わってないと言えばそうなるとのこと。
カーミラ側の訴えは自分が村人を虐殺したのは感情に流されてのことだがコミュニケーション能力がある竜であることを確かめることなく本人(本竜?)に伺いを立てることなく村人が勝手に生贄を捧げ、勝手に危機感を抱いてそれを討伐したこと。カーミラは必死に止めたが自分が鬼子とされていたことで話をろくすっぽ聞いてもらえなかったことなどを挙げ、抒情酌量を訴えた。カーミラも無罪に拘ってはいないことが解る。
「子供が沼に落ちないように「出ていけ」と口にしているのにコミュニケーション能力がないと断じるのは早急すぎやしないかい?」
ブルギット側の訴えは村人を3,000人殺した者が生を謳歌していいはずがないと言うもの。普通の獣人が鬼子を生み、都会ならともかく知識のない田舎では敬遠するしかないこと。村人が恐れていた竜の棲まう沼に何度も足を運ぶ奇怪な子供であったこと。そして自分は敵討ちのために上京したがエビルジュールの襲来はあくまでも偶然だということを。
言うまでもなく偶然ではないがここで俺たちが異議を唱える権利はない。
くそっ、カーミラが鳳凰人に覚醒するまで記憶喪失だったくせに。




