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Lapis philosophorum   作者: 愛す珈琲
第四章  conclusion
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第41話 ブルギットから見た沼竜姫事件

[Side_Blugid]


思い出した。あれは今から15年ほど前のことだ。

僕が住んでいた村には大きな沼があった。そこには竜が棲んでいると古くから伝わっており、沼に棲まう竜の鬼『沼竜鬼』として村人に恐れられていたんだ。実際子供たちは沼に近付くと「出て行け」と脅かされたと言う。


日照りが続いたのにもかかわらずその沼は水を湛えていたのでそれにあやかろうと若い娘が生贄として捧げるとしばらく雨が降り続いた。

沼竜鬼の歓喜の涙だと村人たちはそう言ってありがたがったが生贄を望む竜など鬼でしかありえない。


「沼竜鬼は生贄を手にするために雨を降らさないのでは」


そう疑問が湧き上がるのも時間の問題だった。僕の妹も去年いけにえに捧げられた身。反対する理由なんか無い。

村で蓄えた資金を元に魔術師や錬金術師を雇い、沼竜鬼狩りに行こうとしたその時鳳凰人の女が両手を広げて前に立ちふさがっていた。


「鈴奈の!沼竜姫の話を聞いてよ!あの子は生贄なんか望んじゃいないんだ!」


「どけ、鬼子!」


鳳凰人の女はそう言って男に突き飛ばされた。鳳凰は本来幻想種。それなのに獣人としてこの世に生を受けるのは鬼子だからに違いない。

実際この女、カーミラとか言ったか?の母はこの鬼子を生んだ際に死亡し、父は村を追われる様に立ち去った。

今は寺で育てられているがもうすぐ成人になるはずの鬼子だ。


「生贄は自分達で勝手に決めただけじゃないか!鈴奈は巻き込まれただけなんだよ!」


村人達に突き飛ばされても蹴り上げられてもカーミラは沼竜鬼の話を聞けと村の男達の脚にすがりつくのをやめようとしない。

すると一人の男が丸太でカーミラの頭を殴り失神させると錬金術師が用意したアイテムの中へ放り込んだ。


「ブルギット、お前も来年は成人だ。来なさい。村を苦しめ続けた悪しき竜を打ち滅ぼすときが来たんだ」


沼に着くと皆は沼の周りにある草木に火をつけた。沼竜鬼をおびき寄せるためだ。


「カーミラが苦しんでるぞ。やっぱりカーミラが鬼子なのは沼竜鬼の呪いだったんだ!」


「それなら沼竜鬼を殺せばカーミラはまともな獣人になるかもな」


沼の周りが火で包まれたその時、竜が沼から顔を出した。


「皆さん。聞いてください。私は……」


「沼竜鬼が姿を現したぞ!焼き払え!!」


炎の魔法や炎系のアイテムが次々に沼竜鬼に炸裂していく。


「おかしいわね。どうしてあの竜は抵抗しないのかしら。それにあの竜、何かを言おうとしてなかった?」


兎人の女魔術師はそうもらした。まるで泣いてるみたいねと。

泣いてる?そんなバカな。あの竜のせいで妹は犠牲になったんだ。

あの竜が生贄を望んでなかったとしたら僕の妹はただの犬死にじゃないか。


沼竜鬼は一切抵抗することなく果てたことを見届けると村人たちは歓喜し、竜の生首を槍で刺して火をたき勝どきを挙げた。


「俺たちの勝利だあ!」「これで誰も死ななくて済むぞお!」「娘の仇をようやくとれたんだあ!!」


だがその瞬間聞いたことのない声が辺りに響き渡った。カーミラが炎に包まれながら村のほうへ飛んで行ったらしい。

慌てて追いかけた僕達が目にしたのは生まれ育った村が火に包まれている所だった。


「鈴奈あ!鈴奈あ!!」


炎の塊が時折小さな水蒸気を発しながら家を、ヒトを、家畜を焼いていく。


「鬼子め!ようやく正体を現したな」


魔術師や錬金術師の多くは金にならないと帰っていく中、その者たちも全身を穴だらけにされ死んで行った。

村人も必死で抵抗するもなすすべなく火に包まれ灰になっていく。

そしてカーミラは僕のところまでやってきた。


「生贄は自分達が勝手にやったくせに!!沼竜姫の言葉を聞こうともしなかった癖に!!」


いつの間にか手にしていたモーニングスターが僕に迫る。

殺されると思った瞬間、それはさっきの兎人のバトルバールで防がれていた。


「邪魔するなあ!!鈴奈の声を聞こうともしなかったくせに!!こんな村の痕跡は一かけらも残しておくものかあ!!」


「落ち着きなさい!このっ!」


バトルバールの曲がった部分で鬼子のみぞおちを強打すると兎人は空高くジャンプし、そいつの眉間に打ち下ろし撲殺した。


「君。この子を燃やすわよ」


兎人と一緒に鬼子を焼くとそいつは火に包まれるもヒトの形を取り、生き返ってしまった。


「ば、化物」


「鳳凰人っていうのはそういうものよ」


カーミラは呆然としながら兎人を見ていた。

兎人はカーミラに頭を下げたのだ。


「ごめんなさい。こうでもしないと話を聞いてくれないと思って。ひとつ聞きたいんだけど鈴奈って誰?」


カーミラの口から話された言葉は信じがたいものだった。

沼に子供が落ちないように「出て行け」と脅していたこと。

生贄が送られるたび「彼女がかわいそうだ」と悲しみの涙を流していたこと。

日照りや雨が降った理由は自分にも当の沼竜鬼も解らなかったと言う事を。


「うそだ……それが本当なら……」


妹は犬死にだったということにもなるじゃないか。否定してくれ。兎人、こいつの言葉を全て否定してくれ。

悪いのは沼竜鬼であると。村の皆は何も悪くないと。


「そう。それじゃあ、鈴奈さんは悲しんでるわね。村がこんな風になることはきっと望んでいないはずだもの」


「「あ……」」


嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。カーミラは泣き崩れている。鈴奈ごめんなさいと。鈴奈が好きだった村を焼き払ってごめんなさいと。

村の皆が悪い……のか。そんなことはないはずだ。そんなことがあっていいわけがない。

僕は力なく地面にへたり込み呆然とするしかなかった。


「私は……どうすれば……いいんだろうね」


「あなたはあなたらしく生きなさい。自分を見失わないように。それがきっと鈴奈さんの好きなあなたのはずだから」


それから先の記憶はない。当てもなく歩きつめて気が付くと錬金術師の女の前で倒れていた。

その女の名前はコーデリア・ラックスウェル。アイリーンの母親だ。

僕は鬼子カーミラに復讐を果たすため肉体を改造することに決めた。


[Side_Blugid END]


「その結果がこの体だ!!」


錬金術師はそう言って自ら胴体をさらけ出した。肋骨が変化し亀の甲羅になった体を。


「いや、一番悪いのは村人だろ。意思表示をしっかりしなかった鈴奈にも問題はあるがな」


「否定はしないよ」


「黙れ!!鬼子カーミラ、村の皆が沼竜鬼にしたこととお前が村の皆にしたこと。……どこが違う!!」


鬼子ってお前なあ。鳳凰が獣人になるのは人間が生まれるよりも低確率。言ってみれば希少種だ。

獣人同士が子供を作ると極まれに希少種が生まれることがあるなんて一般常識だと思っていたが……。

そう言えば知識のない地方では鬼子とされることもあると書物で読んだことがあるな。


カーミラはあからさまにしょげた様子だ。錬金術師の言葉が心のしこりになっているのか。


「カーミラ!もっくんの頭を持って屋敷に入れ!頭が無事ならもっくんを生き返らせられる!!」


「わ……解ったよ」


もっくんの頭を持ち屋敷に入ろうとするカーミラをそうはさせまいと錬金術師が追おうとした時、空から初音が降ってきてこいつの前に立ちはだかりバトルバールを構えた。


「私ね。世界で一番亀が嫌いなの」


「う、うさぎいいいいいいい!!」

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