第37話 おめでとう
[Side_Hatsune]
「あー。面白かった」
映画を見ようということになり、タイトルだけで決めて入ってみたらUFOにはねられた男の子が宇宙人によって女の子にされるというSFコメディーだった。
「なんか生々しかったですね。主人公の名前、御厨初音でしたし」
「あはは。正直、他人とは思えなかったよ。ヒロインの久保愛ちゃんがいい味出してた」
「そう言えば映画の初音君のお母さんはノリのいい人でしたけど初音さんのお母さんってどういう人なんですか?」
私のお母さんかあ。何ていうか肉体派?黙って持ってきたバトルバール壊されちゃったし、怒るだろうなあ。
あー、でもお母さんってカーミラに自分らしく生きろって言ったんだっけ。じゃあいいか。
[Side_Hatsune END] [Side_ForteⅡ]
ご主人も酷な命令を言う。何が悲しくて男女の仲睦まじい様子を注視しなければいけないのか。
折角背中を押してやったのにぎこちなかったらつまらんとのことだが映画館に入った後、ウィンドーショッピングしてその後食事をしているが初音嬢も笑顔で話してるしハルトヴィヒも楽しそうだ。
ほっといてもくっつくと思うぞ、こいつら。ただ問題なのは……。
「(こんにちは。フォルテツヴァイさん)」
「(本日はお日柄も良く……)」
レディー二人が覗きとは感心せんな。あとメグミ嬢の顔と服は何故ケチャップ?で汚れているんだ。
聞いたところによるとジークリット嬢にご主人が初音にデートを申し込んだと聞いて来てみれば相手が違うことにほっとしたものの何か心配で付いていってるそうだ。
「ほう。つまりその間、アーサー殿は一人だからジークリット嬢は狙い放題。というわけだな」
「あ!」
明日香嬢はハッとした顔をしたが「(大丈夫ですわ。信じてますから)」と追跡を再開するようだ。
何がそこまでさせるのか。
「あ」
今度はメグミ嬢だ。指差した先を見ると初音がチョコパフェの一部をスプーンに乗せてハルトヴィヒに差し出している。
俗に言う「あーん」というやつか。
だがハルトヴィヒが口を開けたのに結局自分で食べた。何がしたいんだ初音嬢。
「なんというステキフェイント」
「意外と乙女ですわね。初音さん」
人間の感覚というのはよく解らん。
[Side_ForteⅡ END] [Side_Hatsune]
食事を終えてハルトヴィヒと歩いているとお尻に何かが当たった。
見るとちっちゃな兎人の男の子がきょとんとこちらを見上げている。
「?」
「お母さんじゃない……」
あー、間違えちゃったんだ。しかも大音量で泣き出した。迷子!?
明日香に何で初音さんはこうトラブルを引き寄せるのでしょう。なんて嘆かれてる気がするのはどうしてだろう。
「ねえ僕。名前はなんていうの?」
ハルトヴィヒはしゃがんで男の子の視線に合わせながらそう聞いた。
「…つ…翼」
「翼君か。いい名前だね。お母さんはどこにいるか解る?」
男の子は無言で頭を横に振った。
「初音さん。このまま放って置くのもなんですし、この子の親、捜しませんか?」
「……う、うん!そうしようか。翼君、私達とお母さん捜そう?」
「うん!」
夕方まで翼君の母親を捜し、ようやく見つけることが出来た。
母親も翼君を探していたらしく、ひょっとしたら行き違いになってたこともあるかも知れない。
彼女は何度も私達に頭を下げ、翼君も「お姉ちゃん達。ばいばーい」と姿が見えなくなるまで手を振ってくれた。
「お姉ちゃん達か。……僕は男だって言ってるのに「解った。お姉ちゃん」だもんなあ」
手を振るのを止めたハルトヴィヒはがっくりと肩を落とした。
「ふふ。ハルトヴィヒは可愛いもん。でも、かっこいいよ」
「そうかな。そんなこと初めて言われたけど」
「翼君に泣かれてどうしたらいいか解らなかった私と違って迷子捜すって決めたじゃない。かっこよかったよ」
ハルトヴィヒの顔が赤いのは夕焼けのせいかな。それなら私の顔が赤いのもそうだって言えるし。
「初音さん!」
そう言ってハルトヴィヒは私の肩をつかんだ。
「ぼ、僕と……その、お、お……」。
「お?」
「お付き合いしていただけますか!!」
どこへ?とか言っちゃ駄目だよね。お付き合いってことは恋人同士になるって言うことで……。
「いいよ」
わたしはそう言ってハルトヴィヒにキスをした。お付き合いするんだからキスはするよね。
あれ?私なんか間違えた?
私は半ばテンパリながら寮へと走って帰った。
ファーストキスあっさりあげて良かったのかな。でもハルトヴィヒならいいかな。
夜はなかなか眠れませんでした。はい。
[Side_Hatsune END]
「あのね。オルテガ」
夕食をとっていたときバムアが口を開いた。初音とハルトヴィヒのデートにフォルテⅡを忍ばせたことに関するお小言だろうか。
「最近、月のものがなくて病院に行ったんだけどね」
違ったか。いや、ちょっと待て。それってまさか。
「3ヶ月……だって」
二人の子供なんだからバムアにばかり負担をかけるわけにはいかないだろう。俺は学院を中退することに決めた。




