第35話 初音とデート
[Side_Hatsune]
「ハルトヴィヒとデートしてやってくれないか?」
学院祭が終わった頃、オルテガが私にそう切り出した。
ハルトヴィヒはいい素質を持ってるんだけどどうも自分に自信が持てないでいるから女の子とデートすれば甲斐性くらい出来るだろうとのこと。ハルトヴィヒとデートかあ。まあ、別にいいけど。
「解ったよ。場所は?」
「まだハルトヴィヒに話してないから話してからあいつが決めるさ」
話してなかったんだ。ハルトヴィヒは私とのデートなんて受け入れるの?
[Side_Hatsune END]
「というわけで今度の日曜日は休みにするからお前、初音とデートな」
「えゑ!?」
おー、驚いてる驚いてる。いきなり提案した甲斐があったというものだ。
「な、な、な、な、な、な……何で僕が初音さんとデートとか!?」
「女とデートすれば少しぐらい自信付くかも知れないからな。お前、学院祭で俺より先に初音にあいさつしただろ?初音しか見えてなかったんじゃないのか?」
「…………うぅ」
おお、すげえ。顔がゆでだこみたいに真っ赤だ。これはこれで先が思いやられるな。
「でも、カーミラさんはどうやって防衛しましょう?」
「その役は俺がやる。楽しんで来い」
[Side_Carmilla]
今日は日曜日。初音とハルトヴィヒがデートする日だ。そんな美味しいイベント見逃すわけには行かないねえ。
学院祭の日の夜、はしゃぎすぎた罰として夕飯抜きにされたからさすがにやりすぎたと反省したがそれはそれ。これはこれ。
正面玄関に行くと扉にもたれかかるようにしてオルテガが待ち受けていた。
「お前もこりねえなあ。もっくんが魚一匹こっそり恵んでやるのを何度も見逃すと思ってるのか?」
「もっくんには感謝してるし、学院祭はやりすぎたと反省してるよ。でもね、自重したらカーミラさんじゃないのさ!」
「納得する自分が嫌だな。おい」
推して参る!私は全速力で突撃するとオルテガがカウンターを仕掛けてきた。
その戦法はハルトヴィヒで何度もシュミレーションしている。
だがうかつだったのは私が話していたオルテガ自体が爆裂波動で作った人形と見破れなかったこと。
私は吹き飛び、天井の吹き抜けに滞空していた本物のオルテガが私に拳型の爆裂波動を無数に放ってきた。
しかも軌道を描いて全部私に直撃するよう追尾するたちの悪いやつを。
「私は……ただ……からかいたかった。だ、くけ~」
気絶する瞬間、自分がペンギンに戻るのが解った。
[Side_Carmilla END] [Side_Hartwig]
初音さんとデート……初めてのデート……正直昨日は眠れなかった。
デートとか意識しないで一緒に買い物に行くとか考えればいいんだよね。
うん。買い物なら一緒にしたことあるし……フォルテⅡやカーミラも一緒だったけど。
待ち合わせ場所に行くと既に初音さんが来ていて男の人にナンパされていた。
初音さんってやっぱりモテるな~。
じゃないよっ!?僕はあわてて初音さんの元へ走って行った。
「ごめん。待った」
「ううん。私が早く来過ぎただけだから。じゃあ、行こうか」
「ちょ……ちょ待てよ。女の子二人でどこ行くの?一緒に遊ぼうぜえ」
この獣人、僕を男だと思ってる。今日はパンツルックなのに。
「こ、これからデートなので遠慮してもらえますか?」
凄もうとしたけどとっさに出たのはメイド言葉。習慣って怖いなあ。
「女同士でデート?そんなのもったいねえって」
もったいないって何?それにしゃべっても男と気付かれないとか。……泣いてもいいですか?
いや、駄目だ。隣に初音さんがいるのに泣いちゃ駄目だ。しっかりしろ僕。
「いいから行こうぜ」
そう言って男は初音さんの手首をつかんだとき僕の頭に血が上った。
「……いいから失せろって言ってるんですよ」
初音さんの手首をつかんでいる方の男の手首を握り爆裂波動を少しだけ込める。
声も1オクターブ下がってるかも知れない。自分でも驚くほど低い声だ。
「ぐあ……怪力女に用はねえよ!」
男はそう捨て台詞を吐くと僕の手を振り払いどこかへと消えた。
「えと……災難でしたね」
「うん。でも、かっこよかったよ」
初音さんはそう言って僕に微笑んだ。自分でも顔が赤くなっているのが解る。うう。しまらないなあ。
声が低くなっても結局男って気付かれなかったし……はあ。先が思いやられるよ。
[Side_Hartwig END] [Side_Asuka]
何とか合流したようですわね。一時はどうなるかと思いましたが。
ジークリットめ、オルテガさんが初音さんにデートを申し込んだとか言うから不倫でもする気かと待ち合わせ場所の物陰にスタンバイしてしまったではありませんか。
これはこれで心配だから後は付けさせていただきますが断じて面白そうだからではありませんわ。ええ、ありませんとも♪
「(明日香さん。ナンパ野郎にお灸をすえてきました)」
顔や服についてるケチャップについてはスルーさせていただきますが……。
「(殺さなかったでしょうね?)」
「(お店の評判を汚すまねは致しません)」
その言葉、信じますわよ。メグミさん。
[Side_Asuka END]




