第32話 ゲオルク様は人の上に立つ器ではございません byゲオルクの侍女
そろそろ学院祭の日が迫ってきた。学院祭とは学生達がお互いの研究テーマを基に公に発表する催しごとだ。
クラス単位で研究成果を発表するわけだが教師の許可が得られないものは禁止である。
あまり高度なものをテーマにすると付いて来れない者も出るだろうし、かと言って低レベルのものは論外。
果たして何のアイテムを出展するか。
「チームリーダーとして我々の出展する品目は食品がいいのではないかと思う」
いつの間にかチームリーダーはゲオルクに決まっていたようだ。そんなものはどうでもいいが……あいつ、クラスメイトだったのか。
「「え?チームリーダーはオルテガじゃないの?」」
「私はアーサーだとばかり」
初音とエルメンガルトは俺がリーダーだとばかり思っていて、ジークリットはアーサー推しらしくゲオルクが凹んでいる。
「男子達。自力で作ったもので一番レベルが高いアイテムは何?それが一番解りやすいと思うんだけど」
アイテムねえ。エルメンガルトは俺らが上の学年のバムアに協力してること知ってるからあえて自力でと来やがったな。
「自力なら『蒸留石』だ」
蒸留石とは汚れた水の中にそれを入れるときれいな水になるレベル3のアイテムだ。
「僕は『アシドコオルン』」
アーサーの言ったアシドコオルンって言うのは読んで字のごとく対象を氷漬けにした上で酸化させるレベル4の爆弾だ。いつの間に着手してやがった。
他の男子も自力で作った一番難易度の高いアイテムを口にしていく。
大体レベル2か3だ。まだ2年だしなあ。
「…………ここは紳士のスポーツ、チェスボクシングでチームリーダーを決めようじゃないか!!」
待て。お前が自力で作った一番難易度の高いアイテムは何だ。
「ゲオルクは『酸っぱい紅茶』を作るのがせいぜいよ」
魔力を回復させるレベル2のアイテムか。情報提供ありがとよ、ジークリット。
「失礼な!『酸っぱくない紅茶』だって作れるぞ!」
それはただの紅茶だ。って言うかさっき食品を提案したのはそのためかよ。
ため息をついてそっぽを見るとクラスメイトでゲオルクの侍女がリングを設置していた。
ってマジでやるのかよ。チェスボクシングを。
放課後、中庭に特設リングが敷かれチームリーダーを希望するうちのクラスの男子16名がトーナメントで戦うことになった。
チェスボクシングとは奇数ラウンドはボクシングで戦い、偶数ラウンドはチェスで戦う異色の格闘技だ。
紳士のスポーツでは多分ない。
そんなことより初音、何で俺の名前がエントリーしてあるんだ?
「エントリーし忘れてたみたいだからしておいたよ(≧ω≦)b」
大きなお世話だ。ま、やるけどよ。一回戦の組み合わせは俺対ゲオルクか。
こいつに負けるのはしゃくだし取りあえず勝ちますかね。
強化ゴム製のヘッドギアとグローブを付けリングに上がる。
「赤コーナー!ゲオルク・フォン・シュミット!青コーナー!オルテガ・フォン・ヤマモト!」
レフェリー役はエルメンガルト。ならばいかさまはないだろう。
1Rはボクシング。ゴングが鳴ると同時に身をかがめ、魔力を込めた拳で肝臓を集中的に殴る。
体を離すことなく1Rはリバーブローに徹した。
1分間の休憩の後は2R。リングの中央にチェス盤が置かれ、5分間チェスで勝負。それが終わると1分間の休憩の後3R。ボクシングだ。
俺は再び身をかがめゲオルクの懐に入る。奴は肝臓をまた叩かれない様にボディーへの防御のため腕を下ろした。
かかった。
俺は軽く奴の心臓にジャブを入れるとちょっとだけ体を離して顔面にストレートをぶち込んだ。
ダウン。だが7カウントで立ち上がった。そのタイミングを狙い全体重をかけたショートフックをあごに叩き込んで再びダウンさせた。
肝臓への執拗な攻撃が効いてきたのか立ち上がろうとするも脚がよろけて立てないようだ。
こうして俺のKO勝ちが決まった。
とは言えアーサーにチェスで破れたため優勝はアーサー。
これでチームリーダーはアーサー…。
「3本勝負の1本はとられたが次のくじ引きは負けないぞ!!」
ゲオルク。お前なあ、どうしてそんなにチームリーダーになりたいんだよ。
くじ引きだが何故か俺が当選した。そういや俺、くじとかギャンブルとかで負けたことないわ。
「最終決着はジャンピングチャンスで10ポイント!!」
ポイント制だったのか。初めて知ったわ。何で決着するかはもう決めてるけどな。
「チームリーダーは皆に慕われてなきゃいけないから他薦限定投票としよう」
自分に入れるのは禁止。こうすることで自分がどれだけ慕われてるのか解るって寸法だ。
集計の結果、エルメンガルトがチームリーダーに決定した。ちなみに俺は12票。ゲオルクは0票だった。
「ええっと。チームリーダー、がんばります」
エルメンガルトが指揮を執ることになり、テーマは日用雑貨。生活に即したアイテム販売に決定した。
蒸留石、また作らないとな。
「ねえ。もっくんも出展しない?もっくんが錬金術で作ったホムンクルスだって街の人に解ってもらえたら気軽に外に出られるんじゃないかな」
確かにな。バムアに相談してみるか。




