第31話 初音とハルトヴィヒ
今回の時系列は初音サイドは昼、エルメンガルトサイドは夜、カーミラサイドは翌朝となっています。
[Side_Hatsune]
アーサーが明日香と付き合うようになって半年、二人は学院が用意してる研究所にこもって共同研究とかしてる。
オルテガもバムアと一緒にいることが多いし私は一人でいることが多くなった。
私は皆に甘えていたんだろうか。皆に愛想を尽かされたんだろうか。
エルも実績が出て冒険者として遠出することが多くなったし、私もいっそヤマモト家のメイドになってカーミラをシバいた方がいいのかなあ。
…家事出来ないけど。
こんなことならお母さんにもっと真面目に家事を教えてもらえば良かったよ。
私のそばには必ず男の子がいて必ず助けてくれて。ずっとこうなんだって心のどこかで思い込んでいたのかも知れない。
駄目だ。一人で考えてると悪い方にばかり考えが進む。
「おい。無視すんなよ」
不意に声がした方を向くと人間のメイドさんが2人の男に絡まれていた。
「あの。困ります」
「おお~。顔に似合わないハスキーボイス。ギャップ萌えだよ」
「いいねえいいねえ。仕事なんかサボって俺達といいことしようぜえ」
本当、反吐が出る。
「嫌がってるじゃない。離しなさいよ」
「何だテメエ。…へえ、こっちも可愛いじゃん」
「2対2だしちょうどいいからさ、そこのホテルでご休憩しない?」
言葉が通じない獣人と話すのがこんなに苦痛だと思わなかった。
無言でツッコミ専用バールで男の一人を殴り倒すともう一人の男が拳に魔力をこめて殴りかかってきた。
さすがにまずいかと思った瞬間男はお尻を抑えて倒れ、現れたのは赤い毛並みを持つペンギン。
男のズボンに穴が空いていて手で押さえてなければ肛門が見えているだろう。
「カーミラ。カンチョーしたの?」
「くけ~!」
そうらしい。助かったからいいけどさ。おっと。ばっちいから消毒させないと。
私はカーミラの手を消毒水(薬用アルコール)で洗った。
あ、そうそう。メイドさんの名前はハルトヴィヒ・フュルスティンというらしい。
あれ?ハルトヴィヒって男の名前じゃなかったっけ?
なんでもこの男の子は可愛い格好をするのが好きで自らメイドになったんだとか。
まあアーデルハイトさんが許可を出してるなら大丈夫だろう。
これといった用があるわけでもないので彼と一緒に買い物を手伝うことにした。
「結構買い込むんだね」
「お屋敷の皆が食べる分ですから」
そりゃあそうだ。オルテガとお父さん最近はバムアとそのお母さん。それに従業員みんなの分の食料の買出しはさすがに骨が折れるだろう。
もっくんは見た目が怖いのでお留守番と言うことでカーミラが荷物運びに選ばれたんだとか。
「私は空気を呼んで退散したほうがいいのかもねえ」
「何言ってるの?そんなこと言って悪さしようとしてるんじゃないでしょうね」
「…………さて。次は肉屋だよ」
図星かよ。でもまあ確かにプロトタイプとは言え外に出られないんじゃもっくんが可哀想かな。人口の皮膚でも作ってあげたほうがいいかも。買い物をしながら私はハルトヴィヒと色んなお話をした。
「ふうん。料理ねえ」
「うん。私も作れるようになった方がいいのかなって」
「じゃあ僕が教えてあげるよ」
私はその内ハルトヴィヒに料理を教わることになった。
[Side_Hatsune END] [Side_Ermengard]
バカ兄がお屋敷から帰って来るなり私に土下座してきた。何かやらかしたのか。
「エリー。僕に料理を教えて欲しい」
これと言って料理が出来ないくせに料理を教えると大見得を切ったらしい。やはりバカだ。
ヤマモト家のメイドさん達の中では下っ端のこいつがものを教えるとしたら外部の人間だろう。
「…………女?」
バカ兄の顔が赤くなった。解りやすっ!?
女の子と付き合えば少しは男らしくなるかもしれないし協力することにした。
でもその手段がお料理って言うのは微妙だけどね。
[Side_Ermengard END] [Side_Carmilla]
アーデルハイトを倒したのはいいけど今度は息子のハルトヴィヒともっくん。それに猫のホムンクルスであるフォルテ・ツヴァイが私の道に立ちふさがっている。
半年かけてもこの3人のコンビネーションには太刀打ちできていない。もっくんは私と一緒に波動柔術の本を読んでるからねえ。
追い払おうにもカーミラの壁になってアイリーン戦に備えて欲しいと言われるとむげに出来ない。やるじゃないか、もっくん。
男なんて股間を蹴り上げれば沈黙するんだ。となると一番先に沈めるのはハルトヴィヒ。
壁や天井を蹴り上げながら襲い掛かる。私は何とか身をかわし、フォルテの両後ろ脚を掴んで波動を込め、もっくんを殴り飛ばすと
ハルトヴィヒがそれに気をとられている隙に股間を蹴り飛ばし、沈黙させるとがしゃあんと音がして「もけ~」と悲しい声が聞こえた。
見るともっくんの内臓がごろごろと床に散らばっていたのだ。人体模型だからねえ。
自分では内臓を正確に配置できないし、フォルテは猫。ハルトヴィヒは股間を押さえてうずくまってる。
「もけ~」
まったくしょうがないねえ。情けない声出すんじゃないよ。
私はため息をつくともっくんの内臓をはめ込み直した。
「次は無視するからね」
「もけー」
結局今回も学院にはいけなかったよ。やれやれ。
[Side_Carmilla END]




