第22話 今は反省してる。すっかり忘れてたけど byオルテガ
夜、俺達は鳳凰亭に集まっていた。
「心配かけてすまなかったな、フォルテ。お前本当に獣人になったんだな」
「ふん」
アイリーンに実験動物にされてるとばかり思っていた。あのカイゼルひげが人を助けるなんてな。
しかも海竜との戦いで左腕を失ったからと義腕まで造ってくれたとか性格変わりすぎだろう。
「マスターはイーヴニットの力に溺れていただけで本当はいい人なんですよ」
「メグミ。そのDr北条からの預かり物だ」
メグミは休憩時間と言うことで今は俺達と同席している。
彼女はエルから手紙を受け取ると封を開けて中身を見た。
「なんて書いてあるの?」
「今まですまなかった。今度魂を宿した機械人間を造ったら優しく接することを許して欲しい。そんな感じです」
本当に勝手な人なんですから。と呟くもメグミの表情は優しかった。
だがひとつ気になることがある。
昼間アーサーは女にマウントポジションでぼこられていたそうだ。
その女なんだがどうして今ここで俺達と一緒に飲み食いしているんだろうか。
「そこのマウントポジション女。何でここに座っているんですの?」
「誰がどこで飲み食いしようと勝手じゃない。代金ならちゃんと払うわよ。それと私の名前はジークリット・メルツェーデス・アスペルマイヤーよ」
いや、まあ。別に貸切じゃねえからいてもいいんだがボコボコにした相手と何食わぬ顔で食事とか頭がおかしいとしか思えないだろ。
「男の人って殴られると喜ぶんじゃないの?」
何だよその偏見。説教の一つでもしようかと口を開こうとしたとき一人の男が乱入してきた。
「おお!!ここにいましたかミスアスペルマイヤー!!」
その男は見るからに英国紳士と言った風貌だった。
紺碧碧眼もさることながら頭にはシルクハットをかぶり、右目にはドラクル。タキシードを着て左腕にひらがなの「し」の形をした黒いステッキをかけている。
年は俺達と同じくらいの歳。顔はまあまあ整っているかな。
「ミスアスペルマイヤー!あなたは太陽のごとく美しい!その美貌ではどこにいても私はあなたに吸い寄せられてしまう!」
光に吸い寄せられるってお前は虫か?
ゲオルグと呼ばれた男はジークリットにマウントポジションで殴られるもその顔は満足そうだった。
「いつもステキなパンチだ。この痛みは癖になる!」
「気持ち悪い。ゲオルグ、あなたとの交際は断ったはずよ。私はアーサーと付き合っているんだから!」
「アーサーと付き合っているのは私ですわ」
「え?そうなの」
ジークリットに協力する気がさらさらない明日香とその思惑に気付かないアーサー。やれやれ。
ジークリットは明日香の顔を見るなり叫んだ。
「あなた!図書室でアーサーに粉をかけてた売女!」
「誰が売女ですか!この暴力女!」
アーサーが明日香と親しそうにしてたから嫉妬でマウントポジションか。なんだこいつ。
「美しい女性を二股かけるとは許すまじ!決闘しろ、アーサーとやら!」
そう言うとゲオルグと呼ばれた男は俺を指差したのでその指をアーサーに向けてやった。
「おお、すまない。私はゲオルグ・フォン・シュミット。新興の貴族だ」
新興?成り上がりの成金貴族じゃねえか。
「俺はオルテガ・フォン・ヤマモト。280年の伝統を持つ正統貴族だ」
「正統貴族だと・・・待てよ・・・オルテガ・・・オルテガ・・・まさかお前、ウォンバット小学校の残虐超人か!?」
「確かに小学校はウォン小だが・・・誰が残虐超人だ」
「プリティーデビルを一人で倒した股間蹴りの・・・」
股間蹴り?・・・思い出した!!
10年前、友達がプリティーデビルというあだ名を持つ人間の女に殴られ金を奪われたことがあった。
その金はそいつが妹に誕生日プレゼントをやるためにためていた金だったからすぐに取り返す必要があったんだ。
だがその女は自分よりも体格がいい男3人を1人でのす化物。正攻法では勝てない。
そこで俺は奇襲をすることにした。後ろから肩を叩いて振り向くそいつの目に砂をぶちまけて股間を蹴り、体が丸まった隙を見て後頭部を両手で押さえて顔面に飛びひざ蹴りをかましてそいつの足にしがみついて強引に倒し、みぞおちに足から飛び降りて気絶させ、その金を無事取り返すことが出来たのだ。
それから仕返しを警戒していたが俺がプリティーデビルを倒したと言う武勇伝が広まる一方、女子はしばらく俺を見るなり股間を隠すようになったと。
「・・・残虐超人・・・お久しぶりですね」
そうそうこんな顔だった。・・・って何い!?
ジークリットはかつて不意打ちで倒したプリティーデビルその人だった。
「オルテガさん。ちーす」
「オルテガさんパネエっす。マジぱねえっす」
頼む、不良敬語はやめてくれ。このエピソードのせいで今まで彼女が出来なかったんだよ、ちくしょう。




